♯03
そして次の日、何事もなかったかのように私は登校して来ていた。
当然、私の事故(という事になっているらしい)の事は少なくとも地元では大ニュースになっていて、私の無事を喜ぶ友人やら教師やらほとんど話したこともない何者かに囲まれることになった。
「横須賀さん!無事でよかったね!」
(あれ…この子誰だろう…)
「まりんちゃんが無事でよかったぁ~…」
(…私この子に避けられてなかったっけ…)
当然、この親切も数日限りであり、私が狂ったように祭上げられているだけという事を無知で夢見がちな私でも、しっかり理解できていた。
「まりんちゃん、誰か呼んでるよー?」
と、ほとんど口も交わした事が無く、なおかつ「まりんちゃん」なんて呼ばれた覚えが無いクラスメイトが私の肩を叩いた。
「えっ誰だろう…」
「なんか2年の男の人!」
「え、て事は先輩?」
「まさかまりんちゃんの…」
「ち、違うよ…!!」
そうして彼女は不気味な輪から逃げるようにして廊下に出た。
2年、男、先輩というキーワードを元に私はある人物を思い浮かべていた。
(先輩なら、きっと来てくれるだろうな…)
長谷晋作、数少ない気の置ける人物で、中学校の頃からの知り合いであり、同時に部活の先輩。
私は中学校の頃、演劇部に所属していた。その時に出会ったのが彼である。
目立つ事は好きではないが、演劇というジャンルに興味を持っていたため、裏方として活動する事を決めていた。
その時に出会ったのが彼だった。
彼は私と同じ裏方で、舞台監督をしていて、裏方を仕切るのが彼の仕事だったので、私も色々とお世話になった。
面倒見の良い性格で、彼を慕う後輩はたくさんいたし、私もその一人であった…いやいや変な意味でなく。
それは高校に入ってからも同じで、同じ中学の友達が居ない中、長谷とは同じ高校で、なかなか馴染めなかった部活だが、彼の後輩という話題も手伝い、少しづつ打ち解けていけるようになった。
「先輩…?」
案の定、私を待っていたのは長谷だった。
「たくさんの人に囲まれて大変だったな…」
「いえ、ご迷惑をおかけして…」
「実はオレ、聞いちゃったんだ」
「…えっ?」
「父さんから。」
「父さ…あっ?」
まさか、
「オレの父さん、マリーのカウンセリングを担当したんだよな?」
「あ、あれ先輩のお父さんなんですか?」
「ああ…なんだか…大変な事になったな。」
「はい………その、どこまで聞…」
その時、不意に彼女の視界が真っ暗になった。




