♯02
「…なるほどねぇ。」
パイプ椅子に座った中年がペンの先で彼の額を叩きながら唸っていた。
当然だ。こんな話。誰も信じてくれないだろう。
「でも…まあ…健康そうだね。」
「何故か健康なんですけどね。」
「…で、おじさん率直に言うとね。」
カウンセラー…と名乗った中年、長谷は持っていたファイルをポイと机の上に放り投げ、
「横須賀さんはどこもおかしくないよ。」
「え…で、でも警察の人は皆おかしいって…」
「まあ…落ち着いて聞いてよ。」
「比較的落ち着いてます。」
「『超能力』って知ってるかい?」
「はぁ…はい。」
「なるほどなるほど『知ってる』と…」
「それはメモすることなんですか?」
長谷はペンを置き、じっと彼女の瞳を見つめた。
どこか憐れんでいるような目だった。
私は、たまらずに左の方へ視線を向けた。
あの事件から数時間後のことだった。
警察署で取り調べを受けることになったのだが、当然
「あ、あの水の中で呼吸が出来たんです本当です!」
と反錯乱状態で言っても、まともに対応されず、結局精神のケアが必要だと判断され、カウンセリングを受けることになった。
「初めまして、私がカウンセラーの長谷です。」
「えっと…横須賀まりんです。」
突如カウンセラーを名乗る男性が現れ、私は動揺しながら頭を軽く下げた。
そして、あの夜、突き落とされた時の事を話し。今に至るのだ。
「…大丈夫、」
「えっ」
そう言って長谷は回転椅子をくるりと回して机に向き合い何かを書きとめた。
「ねぇ横須賀さん、『都道府県戦争』って知ってる?」
「『都道府県戦争』………」
確かクラスの男子が目を輝かせていた都市伝説だ。
「ネット上で有名な都市伝説ですよね?『47都道府県に1人ずつ能力者が現れて、戦い合い、勝者は何でも願いをかなえる事が出来る』っていう…何かの漫画かと思いましたけど…」
そんな漫画があったら少し面白そうかも、と思いながら。
「それが現実にあるとしたら?」
「ただの都市伝説ですよ?」
「その能力者が横須賀さんだとしたら?」
「そんなバカな。」
そうだよね、と笑いながら長谷さんはファイルから何かを取り出した。
「そうそう。全国でも不思議な現象を起こす人がいるっていう噂が…」
「…能力者ですか?」
「そうだね。」
「偶然ですよ。」
「そうかな?」
そう言って長谷さんは携帯電話を取り出し、画面を私に見せた。
どうやらネットの掲示板らしい。
「これは…」
【昨夜、47人目の能力者確認。(詳細は不明だが昨夜の某関東圏の水難事故の被害者?)これにより『都道府県戦争』の開始か】
「へ、へぇ…何の漫画ですか?」
「漫画じゃないよ。」
「暇そうな人たちですね。」
私は小さな画面をじっと見つめながら、
「私が…能力者。」
「横須賀さん、ちなみに生まれは?」
「生まれも育ちも神奈川県です。」
「じゃあこのままでいくと神奈川県の能力者って事になるのかな。」
私は、自分の掌を見つめた。
私が…能力者?
(なんか、かっこいい…)
と、思ってしまっていた。
その時は。




