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逆鱗の竜も命を産む

始めて書きます、短編です。

今回はリンとサーシャが5年前、9歳の時に行ったクエストの話です。

リン達がこのゲーム、《Another Real. Onlin》アナザーリアル•オンラインと良く似た異世界と呼べる世界に飛ばされてしまう、五年前の話ーーーー


「リン、このクエストやってみようよ」


五年前といえば9歳のサーシャがある飲み屋のクエストボードに貼ってあった紙をちぎって持ってきた。


「え〜、どんなクエスト?」


こちらも同じく9歳のリンはサーシャが持ってきた紙を見て言う。


「なんか暴れてるドラゴンを倒してって感じのクエスト、かな」

「ふーん」


リンは少し考えてから、いいよ。と返事をした。そして2人でこの店の亭主のおじさんにこの紙を持っていく。


「すいません。このクエストやりたいんですけど…」


リンがカウンターから身を乗り出して亭主を呼んだ。


「おお、リンちゃん。ん? どのクエスト…ってこれ⁈」


亭主のおじさんはサーシャが突き出した紙を見て驚愕する。それはそうだろう。ドラゴンといえば1体倒すだけで何人もの冒険者が挑む。いくらレベルが高い冒険者でも倒せないことさえあるのだ。


「ちなみに聞くけどレベルいくつになった?」

「私が64で、サーシャが62になったばっかり」


リンは簡単そうに言うが、このゲームではひとつレベルを上げるだけでかなり苦労するのだ。今の最高レベルが確か63だったとつい3日前くらいまで言ってたような気がする。しかも、そのレベルはリンのレベルなのだが。


「まぁ、いいけどよ。ちょっとは気をつけろよ、まだ9歳だろ?」

「歳はいいのよ」


サーシャは少しむすっとして言い返す。


「悪い悪い。んじゃあ、行ってらっしゃい」


クエスト受領手続きを終えたおじさんはリン達に向かって手を振った。ありがとう、とお礼を言って飲み屋を出る。


「ほー、あのクエストを取ったのか。リン達にはつくづく驚かされるね」


突然後ろから声がかかった。リンが後ろを向くと1人の少年が立っていた。歳はリンと同じぐらいだろうか。


「聞いてたの? カイト」


リンは少年をカイトと呼んで嫌そうな顔をした。


「そんな顔しなくたっていいじゃんか。またレベルの最高記録を更新したんだろ? それから新しいクエストに挑戦か、なるほど…」


カイトはニヤニヤしながら手帳にメモを取って行く。


「お礼になんか情報をあげるよ。とびっきりのをね」


カイトはまたニヤニヤしてリンを見た。リンは少し考えてから口を開く。


「じゃあ、私達が取ったクエストの情報を」

「お安い御用で」


カイトは少し得意げに話し出す。




そのクエストが現れたのはだいだいここ1週間だ。

クエスト依頼主は近くの町の町長さん。最近ドラゴンが現れて町を破壊して行くから困ってるんだそうだ。

報酬はドラゴン討伐に使う《竜鎮めの笛》。結構な値だから売ってもいいと思う。それの使用方法は不明。

ドラゴンはデカイのが1体だけだからまぁ簡単だろ。



カイトはここまで話すとリンを見た。


「なるほど、十分だね」


リンの返答にカイトは満足げにコクコク頷いて去っていった。


「じゃあ行こっか」


サーシャはリンの言葉に頷いて、2人は街を出発した。




しばらく街道を歩いていると町が見えてきた。おそらくクエスト依頼主のいる町だろう。門まで来ると中がよく見えた。それはかなり酷かった。家が壊れていたり、塔が崩れていたり…。

リンは門のところで門兵に話しかけられた。


「君、こんなところで何をしているんだ。早くうちに帰りなさい。竜が来て危ないから」


リンは門兵の言葉を遮るように言った。


「私達ここの町長さんに話があるの。ドラゴン討伐のクエストを受けた者だけど」


それを聞いた門兵は信じられないというようにリンとサーシャの2人を見た。

そして、2人を通してくれた。


「あのお城にいるみたいね」


サーシャの指差す城に町長がいるのだろう。2人は歩き出した。



「すいません、クエストを受けた者ですが」


門の前でひとこと言うと、直ぐに門は開いた。リンとサーシャはためらうことなくその門をくぐった。


「おお! あなたがクエストを受けて下さった冒険者様ですか! お若いのにありがとうございます」


町長は少し太り気味の男の人だった。外見からして裕福な暮らしをしていそうなのに、服や、髪はボロボロだ。


「早速、討伐に行きます」


リンの申し出に町長は、ドラゴンの住処とそこまでの行き方を書いた地図、それからドラゴンを鎮めて倒しやすくするための《竜鎮めの笛》を用意してくれた。

その後、リン達は町長に見送られてこの町を出た。



「ここかな」


いかにもドラゴンの住処、という感じの洞窟前でリンは止まった。

リンとサーシャは互いに少し見合わせた後、洞窟へ入った。

中は以外に明るく、魔法スペルを使うまででもないとリンへ思った。

その後、どんどん奥に進んでもドラゴンはおろか、モンスターさえも出てこなかった。


「本当にここであってるのかしら」


サーシャが不安そうに呟いた。リンも同じ気持ちになり始めていた時だった。


「あ、出口だよ」


リンとサーシャはようやく見えた出口の光まで走った。



リンとサーシャが洞窟を抜けて、最初に見えたのは……ドラゴンだった。

洞窟のただえさえ大きい最奥の穴なのに、そこいっぱいにドラゴンがいるのだ。


「このドラゴンかしら?」

「そーなんじゃない? なんか怒ってるみたいだし」


リンとサーシャは少し話した後、それぞれ武器を引き抜くと前に一歩ずつ歩き出した。リンは町長にもらった笛を吹こうか迷ったが、やめておいた。


1…


2…


3…


「いまだっ‼︎」


リンの掛け声でサーシャは駆け出した。

リンは魔法スペルを詠唱する。サーシャはまず斬りかかった。


「はぁぁぁああああああああああ‼︎」



15分後。

洞窟の最奥の穴はドラゴンの死体が転がっていた。


「結局笛、使わなかったね」

「えぇ」


リンとサーシャは疲れる様子は全然見せずに話していた。


「帰りましょう」


サーシャに促されたリンは少し後ろを気にしながら洞窟を後にした。



町では、帰ってきたリン達を歓迎するように町の人々が出迎えてくれた。早速城に行って町長にドラゴン討伐報告をする、という時。


「ごめん、ちょっとサーシャがクエスト報告をしておいて」


サーシャはこのリンの申し出に何も聞かずに了承した。



「はぁ… はぁ… はぁ…」


全速力で走ったリンは、先程の洞窟に来ていた。どうしても少し気になったことがあったのだ。


「やっぱり…」


最奥の穴まで来たリンは、目の前のものが自分の予想通りだったと知り、少し安心する。


[お母さんはどこ?]


今声を発したのはリンの目の前にいるドラゴン(、、、、)だ。

そう、リン達が倒したドラゴンの後ろには木の枝でできた巣があったのだ。そしてその上に卵も。

ドラゴンが喋ること自体はそこまで驚くことではない。もともと知能レベルが高いためである。


「ごめんなさい。あなたのお母さんは私が殺してしまった」


リンがひとことそう言うとドラゴンは全てを悟ってしまったようだ。

お母さんが人間に悪さをして倒されてしまったこと。自分がその殺した人間の目の前にいること。そしてドラゴンは言った。


[ボクも殺してくれ]


リンは迷った。殺そうとした。でも殺せなかった。生まれたばかりの赤ちゃんなのだ。殺すなんてことは出来ない。


「逃げなさい…」

[え?]


リンは少しずつ言葉を繋いで心を伝える。


「ここにいても殺されてしまう…。だから…。あなたに名前をあげる。空の上にドラゴンが多くいる迷宮ダンジョンがあるらしいから、そこに行きなさい…」


名前をモンスターに与えるというのはプレイヤーに狙われなくなるということだ。少し違うが、テイムのようなものだろう。


[わかった…。で、ボクの名前は?]


リンは少し考えてから。


「…。リャーヌ、かな」

[リャーヌ…。いい名だね]


ドラゴンは頭で天井を叩き上げて割った。黒い夜空が見えた。


[君はなんていうの?]

「リン…、だよ」


リンは笑って答えた。


[じゃあリン。また会おうね]

「うん。リャーヌ」


ドラゴンはそれだけ言うと、大きな翼を羽ばたかせて夜空へ飛び立っていった。



「笛の名前が変わった?」


クエストが無事に終わり、あの飲み屋に戻った後。


「そうなの。使わなかった笛が使わなかったなら《竜呼びの笛》として持って帰って欲しいって」


ふーん、というリンにサーシャはにっこり微笑み。わざとリンが報告の時にいなかった理由は聞かなかった。

リンはどこか遠くを見るような目で、ボソッと呟いた。


「また会えるといいね…。リャーヌ」


その呟きは飲み屋の賑わいに消され、誰も聞いてはいなかったが、心なしかリンは微笑んでいるようにサーシャには見えた。

誤字脱字が有りましたらコメントよろしくお願いします。

次は本編の続きをUPさせていただきます。

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