3、
一週間ぶりぐらいですかね。毎日少しずつ書いてます。そしてこれからもよろしくお願いします。
確かにリンはリャーヌと、このドラゴンを呼んだ。
「知り合いか?」
カイトが剣を収めて言った。
「うん、私の知り合い。昔助けたドラゴンだよ。サーシャは知らないと思うけど」
「えぇ、知らなかったわ…」
サーシャはリンの言葉に驚く。よく考えたら今日は驚いてばっかりだ。
「あの後、何があったの?」
サーシャは恐る恐る聞く。リンはリャーヌと呼んだドラゴンを見上げて話し始めた。
「サーシャと私が《竜呼びの笛》を貰った時、私は報告の場にいなかったの。サーシャに任せてね。私は倒したドラゴンの巣へ行ってた。そこにはね、卵があったの。私が行った時、卵はもう産まれていた。そして私を見てそのドラゴンは言った。
お母さんはどこ?
って」
ごくっと唾を飲む音が聞こえた。おそらく話を聞いているシノの音だろう。リンは構わずに話を進める。
「私は言った。
ごめんなさい、貴方のお母さんは私が殺してしまった。
そのドラゴンはそれを聞いて全てを理解したの。お母さんが人間に悪さをして倒されてしまったこと、自分がその殺した人間の前にいること。それで言ったの。
なら、ボクも殺してくれ。
私は迷った。そして殺さなかった。ううん、殺せなかった。でもまた人間見つかったら殺されてしまう。だから私はドラゴンに名を与えて、雲の上に行きなさいと言った」
リンはリャーヌに話しかける。
「あの時の貴方はまだ産まれたばかりだった。私とサーシャがそのクエストをしたのは5年前のはず。どうしてそんなに大きくなったの?」
リャーヌは答える。
[ボクがここに来てからかなりの時間が経ったのだ。ボクはずっとここで生きてきたが、もうかれこれ50年は経っているはずだ]
リャーヌの返答にツカサは首を傾げる。
「おかしいですね。マスターがドラゴンを逃がしてから5年しか経っていないのに、こっちでは50年も経っている」
「まさかここだけ時間の経過が違うなんてことありませんわよね?」
シノが念のためにとリャーヌに聞く。
[そんなことはないはずだ。ただ…]
「ただ? なんですの」
[先生なら何かを知っておられるかもしれん…]
先生、とは一体誰の事だろう。同じようにドラゴンなのか。それとも全然違うモンスターなのか。
[ついて来るがいい、人間達よ。リンの知り合いだから、なだけだからな]
リャーヌはリン達に背を向けてひと鳴きする。リン達の耳には何も聞こえなかったが、何か聞いたのだろう。あちこちからドラゴンが集まってきた。
[好きなのに乗れ。どれも頭のいいやつらだ]
リャーヌの言葉に従い、7人はそれぞれやって来たドラゴンに飛び乗った。
リャーヌが動き出すとそれにくっついて飛び立った。
リャーヌが飛ぶのをやめて降りたのはひとつの小屋の前だった。
「ここに先生がいるの?」
リンは半信半疑で聞く。この小屋はせいぜい人間が1人住むくらいしかない小ささである。その時だった。
[あ、先生!]
リャーヌが言った。リンはつられて出てきた人物を見る。
「ん?」
小屋から出てきたのは子供だった。ただし、耳が尖っていて透きとおった羽もあるため冒険者ではない。
「あの、あなたは…?」
サーシャが恐る恐る聞く。少女はあぁ、と答えた。
「ティターニアです」
「「「「「「「へ?」」」」」」」
ゲームをやり慣れている者ならなおさら、誰でも1回くらいは聞いたことがあるだろう。だからつい聞いてしまったリン。
「《妖精女王》とか呼ばれてたりしました?」
「あ〜、そんな時もありましたね」
しばらくの間、そこに悲鳴が響き渡る。
「本物だ…」とリン。「本物だわ…」とサーシャ。「本物かよ…」とカイト。「本物ですね」とツカサ。「本物ですわ…」とシノ。「本物なの…」とメグ。そして「本物…」とアラキ。
7人は空いた口がふさがらない状態。妖精女王といえばハイレベルのモンスターとしてや、クエストNPCとしても有名である。ゲームだった頃にも関連したクエストがあったと思うからどこかにいるかも、とは思ったがまさかリャーヌの先生だったとは。
「ちなみに…、いくつですの?」
シノは少し失礼だと知っていながらも聞かずにはいられない。
「…っと。確か今年で856歳くらいかと…」
聞かなきゃよかった。見た目はシノと同じくらいなのに歳の差が60倍近くあるとは思わなかった。
その後、ティターニアは笑顔でリン達を、小屋に招きいれた。
「はぁ〜。あなたがリャーヌの言っていた名付け親なのですね」
ティターニアはリンを見つめながら言った。
「えぇ、まぁそうですね」
リャーヌといえば小屋の外にいる。中に入ろうとなんて思えば、入る前に小屋が倒壊するだろう。
ティターニアに連れられて入った小屋には特に珍しい物などはなく、普通のログハウスだった。
「少し下がっていてくださいね」
ティターニアはリンに笑顔を向けると近くの本棚に手をかけ、魔法を詠唱する。
「【アンロック•フックロターネ】」
すると本棚が消えて穴が現れた。穴には階段のようなステップはなく、すべり台のようになっているようだ。
「どうぞ ♪」
ティターニアが笑顔で言って穴を指差す。リンは一瞬迷ってから、一呼吸して穴に飛び込んだ。
「うわぁぁぁぁああああああ…」
リンの声が途中で途切れた。サーシャ達は目を見合わせてやはり迷う。そして。
「行くわよ、そっ〜れっ!」
サーシャの掛け声で全員が穴に飛び込んだ。
先に落ちているリンは全員が穴に飛び込んだのを気配で察知する。
「…木、かな…」
だんだんすべり台にも慣れてきたところでようやく気付いた。すべり台は木で出来ているようだ。一定の間隔で灯りがともっている。不意に前から風が吹いてきた。そろそろ終点かな、なんて思いながらリンはすべり台に体を任せた。
すべり台から放り出されたリンは着地してから目を見開いた。
「うわぁ…。お城だ…」
後から着地した6人も目を見開いた。
今リン達が立っているのは両脇が湖になっている。足元は木で、草花がたくさん生えている。そしてこの道の行き止まりに、大きな城があった。
ティターニアは木の道を飛ぶように歩き、正面の扉を開けた。続いてリン達も中に入る。
「お帰りなさいませ、ティターニア様!」
中にはたくさんの小さな妖精がいた。
奥の道からティターニアより少し背の高い女性が出てきた。姿はかなりティターニアに似ている。
「ただいま。今日は客人がいるんだ、丁寧に接待してあげてね」
「かしこまりました」
その妖精は深々とお辞儀をするとリン達の前まで来た。
「わたくしはここの妖精長を務めさせて頂いております、ナチルと申します」
部屋にご案内を、と言われて小さな妖精達はあたふたと動き始めた。
「どうぞ、ゆっくりしていって下さいね」
そう言ってティターニアはにっこり微笑んだ。
夜。
リンは案内された部屋のベランダにいた。そこから見えるのは青く光る湖、水面には水草が浮かんでいる。遠くの方に大きな木の根っこが見える。
「お父さん…」
リンは水面を見つめてつぶやく。どうやら過去の記憶を思い出しているようだ。
不意にリンの頬にひと粒の涙がこぼれ落ちた。
「お母さん…」
流れ出る涙は止まらず、リンの頬を濡らし続ける。
「どこに行ったの…? 何をしたの…?」
リンのつぶやきはしばらく続く。誰にも見られずにリンは泣き続けた。
「おはよう、リン」
次の日の朝。リンを起こしに来たのはサーシャだった。
「おはよ、サーシャ」
リンは昨日の事は自分の胸の内にとどめて笑顔で挨拶をする。サーシャは一瞬何か言いたそうだったが、結局何も言わなかった。
リンとサーシャが大広間に行くと大きなテーブルが出ていた。その上に美味しそうな朝ごはんと思われるものが大量に乗っている。
「これ、食べていいのかな…」
メグが羨ましそうにじーっとテーブルの上の食べ物に視線が釘付けになっていた。
「もちろんです。遠慮なくどうぞ」
ティターニアはいつもの笑顔で盛大な朝ごはんを振舞った。
朝ごはんを食べ終わるとリンはみんなに、いつ出発するか分からないけどそれまで自由行動、と告げた。
そしてティターニアを見つけてリンは呼び止めた。
「ティターニア、ちょっと教えて欲しいことがあるんだ」
リンの言葉にティターニアは快くOKした。
リンとティターニアは城のバルコニーに座ってお茶をしていた。普通なら楽しげな雰囲気が漂っているはずのそれは暗い雰囲気で包まれていた。
「もしかして、この地震が起こったのって私のせい?」
リンがとんでもない事を聞いた。なぜなら、リンの言う《この地震》とはつい4日前に起きたあの事件の話だからだ。
「そうなんじゃない?だってリンは……だしねぇ」
途中は小さくなりすぎてよく聞こえない。リンの顔はティターニアの言葉を聞いた途端に凍りついたようになった。
「1番の原因はそれね。でも、リンのせいだけとは限らないわ」
みんなを集めて、今できる限りの仮説を話してあげる。ティターニアはそう言って席を立った。リンは近くにいた妖精にギルドのみんなに集まるよう言ってもらう。ティターニアと同じように席を立ったリンの表情はいつものリンとは違ってとても暗かった。
それから少しして。
リンとティターニアがお茶をしていたバルコニーにベア's シークレットの面々とティターニアが座っていた。
誰もまだ何も話さない。ただ黙ったままの状態だった。
「今回の地震についてなんだけど…」
ようやくリンが口を開いた。
「ティターニアに今できる限りの仮説を話してもらおうと思います」
リンはそこでティターニアをチラリと見る。代わりまして、とティターニアが話し始めた。
「4日前に起きた大地震について。おそらく黒終蓮で起きた出来事が原因だと思う」
「出来事?」
カイトが不思議そうに聞き返す。それにティターニアはこくんと頷いた。
「黒終蓮は知っての通り主に亜人間、ゴブリンなどが多くいる。まぁモンスターもいるけどね。そこの王は今、ゴブリン族の王なの。そして、その玉座の後ろには大きな扉があるのよ。その扉はある世界と繋がっている。だからあなた達はこの世界に何度もこれたの。そしていつもなら開いている」
「つまり…」
話しが見えてきたのかシノがつぶやいた。
「今回の地震の原因は、その扉が閉まってしまったことなの」
これを聞いたみんなの反応はほとんど変わらなかった。
驚きだけが顔に満ちている。そしてリンがたたみかける。
「というわけで、私達の最終目的はこの扉を開けること。そして元の世界に帰ること!」
リンの決意にみんなは。
「「「「「「了解!」」」」」」
と全員揃って返事した。その時だった。
「ティターニア様! ゴブリン軍の敵襲でございます!」
ナチルの悲鳴にも似た声が聞こえた。
「っ! もう来たか…」
「ご、ゴブリンですの⁈」
シノが言った。
確かにさっきから外の戦闘音が聞こえてくる。
「行かなきゃ‼︎」
リンが駆けつけようと席を立った。しかしそれをティターニアが止めた。
「ゴブリンの方はどうやら王様直々のようね…」
ティターニアの声には先ほどまでの余裕はもうない。チラリとリンを見てから、ティターニアは指示を出して行く。
「やっぱり行かなきゃ」
リンはみんなの制止を抑えて一歩前に踏み出した。そして、空を見上げて小さくつぶやく。
「…………」
そのつぶやきは決して聞こえるほどの音量ではなかった。
リンが駆けだすと、みんなが同時に駆けだした。
「よっし! わたし達の実力、見せてやろう!」
サーシャの明るい声にリンは。
「ありがとう」
とにっこり微笑んでかえした。
それぞれが自分の武器を構えて待機している。後はリンが号令をだして戦闘に入るだけだ。
「みんな、私のわがままに付き合ってもらってありがとう。このまま今回の戦闘もよろしく!」
その言葉にベア's シークレットのみんなは微笑み、全員で戦場へと足を踏み出した。
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