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1、

連載の小説は始めてなので変かもしれませんが、よろしくお願いします。

「鈴音、終礼が始まるよ」


教室のいちばん窓側、後ろの席。上の空になっていた少女、鈴音は親友の紗也の一言で現実に引き戻された。

今日はこの星月学園中学校でVRMMOのオンラインゲーム、“Another Real. Online"〜アナザーリアル・オンライン〜が運営を開始する日。このゲームは今、一番人気のゲームだ。プレイヤーが数々の迷宮ダンジョンを攻略していくという物。テーマは《もうひとつの現実》。ちなみに鈴音はもうプレイしている。βテストの時から含めて、結構な時間をプレイしているからそこら辺のプレイヤーよりは幾分強い。


「…という訳で、頑張って下さい。先生達も念のために参加しますが、あくまでデータ参考のために学校で放課後にのみ出来るようにしたんですからね」


はーい、という大合唱が教室で起きる。

はぁ、と鈴音はため息を漏らした。早く始まらないか、それだけを思って窓の外の景色を見ている。


「開始時刻の16時前にはログインしてください。始めると最初にいろいろ設定をしなくちゃいけないそうなので、なるべく早めにお願いします。それから初めての人がほとんどなので説明会を開くそうですからね。全員出てくださいね」

「はーい」


クラス全員の息が合い、笑顔で先生は言った。


「どうかご無事で。じゃあ、行ってらっしゃい」


鈴音は自分の机に仮想空間を作り出す。そこでゲームのロゴを押す。そして開始コマンドを言う。


「Play!」


鈴音は吸い込まれるような感覚の中にいた。目の前にメニュー画面が現れる。


〈前回のセーブ地点から始めますか?〉

〈Yes or No〉


鈴音は勿論 Yes を選ぶ。確か前回は昨日の夜。ゲーム内の自分の部屋でログアウトをしたはずだ。


〈Welcam your Another Rial. Good ruck.〉

《ようこそあなたのもうひとつの現実へ 幸運を祈ります》


見慣れた白い文字が浮き上がると鈴音は静かに目を閉じた。





目を開けるとそこは木の壁、木の椅子が置いてある鈴音リンのプレイヤーホーム。


「装備を変えないと…」


思い出したようにリンは言う。周りの人に合わせるためにバリバリの冒険者装備から初期装備に変える。

リンは右手で自分より少し前の空間をトントンと叩いた。するとサウンドとともに白いメニューページが現れた。

アイテム欄を操作し、初期装備に着替えた。


「リン?わたしだけど入るわよ」


そう言って入って来たのは紗也サーシャだった。

入って来たサーシャもリンと同じ初期装備をしていた。


「結構軽いね」


リンはジャンプしながら言う。


「まぁ仕方ないんじゃないかしら。あ、もう行かなくちゃ。多分みんな待ってるわよ」


サーシャに促され、リン達は部屋を出た。





ここは一つの大陸、《ハタナルーシェ》である。大陸のほんの一部が現在冒険者に攻略されている。この大陸のもっと向こうには海があって、またその向こうには大陸があるという。この大陸は黒終蓮こくしゅうれんと呼ばれていて亜人間、つまりゴブリンやトカゲ男とかが住んでいると言われる。この辺にはまだ誰も行った事がない。

そして今リン達がいるこの都市は冒険者の街、《ルナハルタ》である。

いくらゲームとはいえどもテーマがもうひとつの現実、なので現実世界と同じ時刻になっている。つまり放課後の夕暮れ時だ。





「あ、鈴音ちゃん、紗也ちゃん」


待ち合わせの祝福の噴水広場でクラスの子達は待っていた。辺りは光魔法の灯りで満ちていた。みんな初期装備で始めての人が多いらしい。


「鈴音、じゃなくてリン、だよ」

「あ、そうだった。ごめん」


そしてこれからここで初心者の説明会の様なものが行われる。リンが辺りを見回すと結構な冒険者がいた。


「みんな、よく来てくれた。俺はギルド バース•Dragon のギルドマスター、コウガという」


突然灯りが消えたと思うと広場の中心部分に一人の男が立っていた。先ほど自分で名前を言った通り、コウガだ。

この男、実はリンの知り合いだったりする。

そんなことはお構い無しに、コウガはどんどん説明をしていく。


「さて、初心者の諸君にこれからしてもらいたいことは一つだ。自分の入りたいギルドを決めて欲しい。多分一人はとても危険だ。いくつかギルドがあってだいたいが纏まっているように言ってあるからとりあえず聞いて回ってくれ、では始めてくれ」


リンは結局最後まで命令するのか、と思いながらどうするかを隣で聞いていたサーシャに聞こうと横を向いた時だった。


ドガガガガガガガ……… ドガガガガガガガ………


激しい揺れにリン達は立っていられず膝をつく者もいた。

いくらこのゲーム世界でも起こりえない自然現象がいくつかある。例えば洪水、停電などだ。その中のひとつに地震もあげられる。

リンを含む多くのプレイヤーが混乱していた。何故地震が起きたのか。その時、また激しい揺れが来た。


「うわっ」


リンの軽い体はその衝撃で宙へ浮かび、リンの意識は虚空へ飛んだ。




「…。…ン。リン」


はっ、と気付くとそこは数分前までリン達のいた広場だった。


「よかったわ、目が覚めて」

「どうなったの?」

「さぁ、全然わかんない」


リンとサーシャは現状を把握しようと周りを見回した。そしてリンが気付く。


「あれ?なんか人、減ってない?」

「あ、確かに…」


サーシャはキョロキョロと見回す。

さっきまでは確かに初心者を含めてかなりの人がこの広場に集まっていたはずなのだ。それなのに今はその半分いるかいないかぐらい。いくらなんでも人数が減り過ぎている。


「おい、どうなってんだ⁈」

「ログアウトが出来ない!」

「そんな…」


やがて周りのプレイヤーが騒ぎ始めた。話を聞くとどうやらログアウトが出来ないらしい…。


「うっそ⁈」


リンは慌ててメニューからログアウトボタンを確認する。そして…


「な、無い…。ログアウトボタンが…無い」


そう、本来そこにあるべきのログアウトボタンが無かった。ぽっかりそこだけ穴が空いたかのよう。

その時、目の前に白いページが浮かび上がる。


冒険者プレイヤーのみなさん。ようこそ、貴方達の Another Rial《もうひとつの現実》 へ。

ここはもうゲーム世界ではありません。貴方達のもうひとつの現実なのです。ですから、ただいまよりHPヒットポイントが0になった方は強制的に排除させていただきます。それではこの世界の新しい日々に、Good ruck.】


実に、実に簡潔な文だった。今のこの状況をリンが完璧に分かってしまうぐらいに。

つまり、このゲームはいや、もうゲームじゃない。この世界は現実…。


「痛い…」


リンは試しに自分の頬をつねってみる。普通に痛かった。しかし、本来ゲームでは痛みは感じないはずなのだ。せいぜい微妙な不快感を感じるほどである。

サーシャはリンの頬をつねった時の反応から察しがついたようだ。


「これ、死んだら死ぬのか?」

「まさかデスゲームってこと?」


リンは悟った。もうここはゲームでもデスゲームでもない。異世界だと。

人の感情は人に伝わりやすい。恐怖がどんどん感染していき、辺りの空気がかなり重々しくなった。

そんな空気を和らげるようにリンの目の前にページが出てきた。


「心話だ。誰からだろ」


リンはコールボタンに触れた。

心話とはフレンドリストに登録した相手とならどんなに離れていても会話ができるというものでとても便利なものである。


『あ、マスター?』


心話から聞こえてきた声は幼い少年の声だった。


「誰?」

「うん、ツカサ」


ツカサ、は今リンが心話をしている少年の名前である。


『マスター、今どこですか?』


ツカサの問いにリンは一瞬迷った後、コウガの真っ正面、と告げた。


『分かりました。これからみんなでそっちに行くので待っていてくださいね』

「あのさ、周りに友達がいるからなるべく近く、でも知り合いだって分からないぐらいの距離を置いて欲しいな」

『了解しました』


リンはツカサとの心話を切ると今度はリンから心話をする。心話の相手は目の前にいる奴。


「ちょっと、どうしてくれんの?」

『う。リンかよ…。やべぇ俺もう死んだかも…』

「はぁ?まだ死んでないでしょ」


まぁ、つまりコウガだ。リンは特大の睨みを効かせながら話す。


「完璧に今、ここは ゲームの世界とかじゃなくて現実になったの。初心者や他の冒険者を引っ張って行くのはコウガ、あんたでしょ」

『んなことは分かってんけどよ。ど〜も苦手なんだよな俺。』

「そんなとこをどうにかするのがあんたの役目でしょ?」


う〜、と意味不明なうめき声をあげたコウガは、ボリボリと頭をかきむしる。


「なぁ、こんなギルドってなかったか?」

「え、どんな?」

「あぁ、知ってるわ。あのギルドでしょ?」


コウガとの心話中に耳に入ってきた話。この中で話題になってるギルドは…


「べア’s シークレット」


やっぱり! なんていいながらケラケラ笑っている。そしてそれを聞いていたリンは彼らと同じ反応にはならなかった。


「え、もう話題になる⁈」


このベア's シークレットというギルドはリンがギルドマスターのギルドである。人数は10人ほどの小さいギルドではあるが、沢山のギルドから信用されている。

なにで、といえば《情報》である。街のプチ情報から攻略中に出てきた情報まで、様々な情報を売買している。

最近は裏ルート以外とも取り引きしたからかな、なんて思いながらリンは考える。そんな時。


「なぁ、コウガ。ベア's シークレットの人に合わせろよ」

「ねぇ、ギルドマスターと話がしてみたい!」


なんてわけのわからないことを言い始める奴らがいた。


「ん〜、でもなぁ」


口を濁すコウガに、周りの冒険者達のテンションは勝手にどんどん上がっていく。

いつの間にかリンとサーシャ以外は「マスター」とコールしていた。

うつむいていたリンは視線を感じ、顔を上げた。


「うっ」


コウガが見ていた。まるで助けを求めるリスのように。リンははぁ〜、とため息をついた。そしてコートから杖を取り出して足元の小石を拾う。


「【フーラハルク•ウィザードバルス】」


小石に向かって魔法スペルを詠唱する。この魔法スペルは風属性の魔法。小石を対象に風を起こす。そしてそれを、コウガの額へ飛ばした。


「だぁっつ!」


小石を当てられたコウガはうめき声をあげる。リンは近くにいるであろうツカサ達に声をかける。


「待ってるみたいだから行こうか」

「はい、マスター」


返事は以外と近くから帰って来た。リンは特に驚きもせずにコウガのいるところへ足を進めていく。コウガの隣に着くとリンとサーシャはメニューを操作して本来の自分の冒険者装備に着替えた。


「私がベア's シークレットのギルドマスター、リンです。ベア's シークレットは様々な情報を売ります。買います。用があるなら私に言ってください。ギルドホームでお待ちしています。」


おお〜、とあちこちで拍手が上がった。リンは軽く受け流しながらコウガを見て一言言う。


「貸しひとつね」


コウガは驚愕したように固まっているが、リンは鼻で笑い、サーシャ達のところへ戻った。


「さぁ、私達のギルドへ行こうか」

「「はい!」」


この日からリン達のもう一つの現実で生きる日々が始まった。






葉の重なり合う音、小鳥のさえずり。リンが目を覚ました時に聞こえたのはこのふたつだった。


「あれ、寝ちゃったのかな」


リン達がこの世界に来てから3日がたつ。リンは、というかベア's シークレットの全員が、毎日の仕事に追われていた。

原因はリンがみんなの前で「用があるなら私に言って」と言ってしまったからなのだが。


「やっぱりみんな疲れてるんだね」


リンは1人、1人に毛布を掛けてあげた。

リン達が寝ていたのはギルドホームのリビング。2階建てのここは中央が吹き抜けになっていて風通しが良い。


「あら、おはようリン。意外に早かったわね」


朝の挨拶をして来たのはサーシャだった。


「サーシャも疲れてるでしょ? いいよ、寝てて」


これにサーシャはううん、と首を振った。


「いいの、私はもう十分に寝たから」

「そっか」


ダイニングで2人、朝ごはんを食べていると後ろから声をかけられた。


「おはようございます。マスター」


ツカサだった。そしてその後ろには男の子が1人、女性が1人立っていた。


「おはよ、リン」

「おはよ〜さん。リンちゃん」


男の子はリンと同じクラスだったカイト。もう1人はこっちで知り合った、ヨウリだ。


「2人ともおはよう。あのさ、ちょっと話したい事があるからみんなを集めてくれる?」

「りよーかい。待ってろよ?あっちでいいよな?」

「うん、お願い」


リンはカイトに頼むとサーシャに向き直った。


「ほら、昔クエストでもらったアレの話だよ」


あぁなるほど、というような顔をしたサーシャにツカサとヨウリは首を傾げる。

リンは2人の反応を見てふふふ、と笑った。


「リーン、みんな起きたぞ!」

「はーい」


カイトの声に呼ばれ、リン達はダイニングを出てリビングへ向かった。


この先にどんな世界が待っているかワクワクしながら。

誤字脱字があったら是非コメント下さい。

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