あなたへの感情 ~3月26日~
次の日も、私は同じ時間に
桜ノ宮公園を訪れた。
あなたとは、もう会えない。
昨日は偶然会っただけだから……。
──それに、関わってもいけない。
だから──
「……これで、いいんだ……。」
言い聞かせるように、そう呟く。
会えなくて、いいんだ……。
会わなくて、いいんだ……。
私は昨日と同じように星空を見上げた。
……──もう少し早く出会えたら。
……もう少し早く、
あなたに出会えたらよかったのに……。
私は微笑むあなたの姿を思い浮かべ、
涙を流す。
────会いたい
そんな想いが溢れた。
その時────
足音が聞こえた。
その足音は徐々に近づき、
私のすぐ横で止まる。
そして、ブランコに腰掛ける気配を
感じた。
────あなただ。
「…名前、なんていうの…?」
優しく問いかけたその言葉に、声に、
胸が躍った。
……でも、すぐに制御をかける。
────私は、この人と
関わっちゃいけない。
……どうせ、死ぬのだから。
「──教えられない…。」
そう、呟くように言った。
あなたは小さく「そっか…」と言い、
そして。
「──僕の名前は〖佐藤 翼〗。」
自分の名前を口にする。
その名前を聞き、私の目は自然と
あなたに向いた。
「──つばさ…?」
あなたの名を口にする。
まるで自由を手に入れたような
気分になった。
「そう、翼。」
「翼…。──いい…名前だね…。」
翼。
私はその名を好きになった。
「ありがとう。僕のことは『翼』って呼んでいいから。」
そう言われ、私は素直に頷く。
あなたの名前を呼べることに喜びを感じ、
笑みがこぼれた。
でも、すぐにその笑みは消える。
──あぁ……関わってしまった……。
……名前を知ってしまった。
「私、帰るね。」
そう言って、私は逃げるように
夜の闇の中へ走る。
しかし、長く走ることができるはずもなく、
私はその場に座り込む。
……地面が、やけに冷たく感じた。
「────っ!!」
全身に痛みが走り、体が重くなる。
それが……残された時間を
私に知らしめる。
────頬を涙が伝った。
「……うっ……」
小さな呻き声をあげ、
私は痛む胸を鷲掴む。
何故か、どこよりも
胸が一番痛い。
……苦しい。
────もうこれ以上、
あなたに関われない。
関わってはいけない。
彼を、知ってはいけない────……。
読んでいただき、ありがとうございましたっ!!