7.交流、そして怖い…
「貴官と俺とは同期の桜~♪」
兵員室からは歌声が聞こえてくる。世界は違っても、日本は日本らしかった。
「本当に私たちは、軍艦にいるんですかね?」
林原の部屋で、今野 健二少尉が訊いてきた。今野は林原と同室になった雪風の水雷科員である。林原よりも一期先輩らしかった。
「なんでそう思うんだい?」
「なんでって…訓練以外は特別なことしてませんし、なにより戦闘もしてませんので。本当に軍艦に乗ってるのか…そんな気がしまして…」
もっともだと思った。林原も、自分が軍艦に乗りしかもその副長を務めているなんて夢の中のようにしか思えなかった。
「もう2週間も経てば、砲弾が雨あられと降り注いでくるさ。その頃には、ああ前は平和だったなと思えるよ。」
半分ほど意味不明なことで茶を濁してしまった。艦の副長たる自分が、軍艦を軍艦と思ってないなんて言えるか…
「あの林原大尉。」
「ん、なんだ?」
「大谷少尉とは恋人なんですか?」
ガンッ!思わず下の段のベッドの天井に頭を思い切りぶつけてしまった。
「あつつ…。」
頭を強打して、抱え込む。痛くて反論もできない。
「あ、図星なんですね。」
嬉しそうに今野が言う。
「お前なぁ…いったいどこからそんな考えが出てくるんだよ。」
「え?だってよくいっしょにいるじゃないですか。今日の上陸だって二人仲良く…」
まあ確かにいっしょに行動しているが、それは…
「いいですね。あんな可愛い大谷少尉といっしょになれて。私も恋がしたいですよ。」
夢見心地で今野が言う。
「じゃあ何も海軍に来ることなかったろう。陸にいれば女の子なんてたくさん…」
「他に行くとこがなかったんですよ…。うろついていたら親父に軍隊にでも入ってしごいてもらえなんて言われて…」
頭をかきながら照れくさそうに今野が言う。
「こ、恋なら勝手にすればいいじゃないか。例えば、え~と…」
と言っても「女性」で出てくるのは大谷。それから…
「ああ、大谷と同室の女の子いたじゃん。名前は…たしか秋原。」
途端に今野の顔が赤くなった。
「あ、あ、あの娘は、わ、私にはちょっと…」
もごもご言いながら上段ベッドへともぐりこんでしまった。
(図星じゃねーか…)
明日も早いと、布団をかぶった。
次の日、雪風はハワイの東沖を進んでいた。目指すはパナマ運河。この世界では、パナマ運河は拡張工事ができており、最大艦幅33メートルから41メートルに大幅アップしている。
パナマ運河まではほぼ2週間かかる。一度、西海岸に寄る案もあったそうだが大西洋の状況が切迫してきているため、ダイレクトに大西洋へと行くことになったそうだ。噂では、アメリカ巡洋艦がドイツ潜水艦に撃沈されたとか、イギリス海軍の大艦隊が出撃準備をしているらしいが…
「戦争になるのか…」
「インド洋から来た友軍と挟撃するんじゃないのか?」
日が経つに連れ、艦橋ではこんな話がヒソヒソと囁かれるようになった。
林原はだんだん怖くなってきた。
(俺は戦いになったら上手くやれるのだろうか。士官学校でいい成績をとっても、それは実戦では役にたたないんじゃないだろうか。ひょっとして、日々の訓練通りにはできないのだろうか…)
元々ネガティブ思考の持ち主ではない。だが大西洋という戦場へ近づくにつれ、悩みの種は頭の痛いの原因ともなっていた。
大谷は林原と対象的だ。訓練も日を重ねるごとに上達してゆく。通信処理の早さが倍になったように思える。そんなちょっとしたことも、自分への不安としてコンプレックスとなっていった。
「林原大尉、このところ元気ありませんね?」
最初に気づいたのは今野だった。
「そうか?別になんともないけど…」
「ほんとに大丈夫ですか?艦橋にいてもほとんど喋りませんし、朝は青い顔してますよ。」
「大丈夫だ。特に何もない。」
振り切ってしまったが、それほど自分はやつれているのかと思った。この頃ご飯もおいしくない。艦橋で立ってるのがつらかった。




