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Together  作者: 天城孝幸
24/25

24.その名、雪風

 「よし、行くかあ。」

今野がう~んと伸びをする。

「誰だ?浮かない顔してるのは?肝っ玉ちっちぇえなぁ。」

石野が笑いながら言う。

「砲弾なんかそうそうあたらねえよ。…砲術長の俺が言うんだから信じろよ。」

そう言う小坂の隣で、今野失笑。

 いつもの、陽気な雪風艦橋だ。

「取舵反転!」

「取ー舵!」

雪風の艦首が敵の方へと向く。

「右舷砲雷戦用意!」

林原が声を上げた。水柱が後方に落ちる。

「敵艦隊の向かって左側に突入、一撃離脱を仕掛ける!」

「じゃあ、もうちょい取舵だ。」

「はっ、取舵10度!」

皆、緊張がほぐれていく。明るさを取りもどしつつある明け方の空のように。

「敵艦隊は、巡戦4、巡洋艦4、その他5隻ほどの編成の模様!」

「まさに多勢に無勢だな。これで帰れたら俺たちは英雄だな。」

「石野、んなこと言っていると、お前は靖国で英雄になっちまうぞ、ハハハ。」

タンッっと発砲音。後部砲塔からの発砲だ。

「おおっ。」

すぐに炸裂。アルミニウム箔がキラキラと輝く。

「取ー舵!」

敵艦から閃光が見えた。

「ん、なんだ撃ってくるのか?」

石野が言い終わった瞬間、水柱が上がった。だが水柱は300メートル右。それまでの精度からは信じられないほど遠くへと落ちた。

「なんだ、目視じゃああてられねーのかぁ?」

小坂がバカにしたように言う。レーダーが使えなければまだ分はこちらにある。

「お前、いちいち行くのめんどくさくねーか?」

艦橋にまた帰ってきた今野に、林原が笑いながら訊く。

「え、だって砲弾の種類違いますもの。」

「いや、それはそうだが…。」

「ああそうそう、ちょっと話が…。」

そのまま艦橋の隅へと追いやられる林原。

「なんだよ?」

「艦長、この戦闘で勝てると思っていますか?」

「やらなきゃわからんだろう。だが、平然とは帰れないだろうな。」

「じゃあちょっと約束しませんか?」

「なんだそりゃ?」

「無事帰れたら、私は秋原さんに告白するつもりです。だから、艦長も大谷少尉に告白すると約束して下さい。」

「…は?」

一瞬固まってしまった。戦闘中だということが、頭から吹っ飛んでしまうくらいに。

「え、なんでお前の告白に俺が付き合わないとならねぇんだよ…。」

「いいじゃないですか、戦場で必死に戦い抜いてから…おっとと…告白なんて。」

至近弾で艦が揺れる。

「いっしょに玉砕しましょうよ☆」

「アホか!」

とりあえず今野をごついてから戻る。

「告白かぁ…。」

つぶやいたとたん、恥ずかしくなって後にいる大谷を見れなくなってしまった。

「敵艦隊との相対距離、15キロに接近!」

「回避運動を続けろ!後5キロだ!」

「面ー舵!」

砲弾の投射量が多くなってきた。どうやら巡洋艦からも飛んできているらしい。

「撃てばこっちの…」

ドガッ!林原が言いかけた瞬間、鈍い音がした。

「後方に敵弾命中!」

「被害状況知らせ!」

小坂が怒鳴った。

「誰ですか、砲弾なんてあたらないと言ったのは?」

「絶対とは言ってねえ!」

小坂と今野がやり合っている間に、水兵が飛んでくる。

「報告!後艦橋機銃に敵弾命中!機銃大破!」

「死傷者はいるか?」

「2人軽傷ですみました。」

ふぅ。林原はため息をついた。

「そろそろ射点だ、魚雷発射用意!」

「転舵30秒前!」

「目標は戦闘のごつい巡洋戦艦だ!」

「ちゃんとレパルスって言え!アホ。」

ドゴンッ!また鈍い音。

「今度はドコだぁ!?」

「うぉすげえ!前甲板に被弾!されど貫通!」

前部砲塔のすぐ右側にぽっかり穴が空いている。

「ラッキーだぜ!不発か!」

「んじゃ、こっちも撃つか。」

射点まであと10秒。

「急げー!」

「お前が焦ってどうする。」

今野がもどかしそうにしている。こういう時の10秒とは長いものだ。

「射点到達!」

「魚雷発射!」

右舷で水柱が上がる。8本の長く鋭い槍が、40ノットを越える高速で突き進んでゆく。

「取舵一杯!」

「あとは逃げるが勝ちだ。」

右舷にひときわ大きな水柱。

「チャフ撃てチャフ!」

小坂が言うが、

「こんな近距離じゃ意味ないですよ!」

今野が反論する。

「取舵を切り続けろ!西に出すぎると、船団が見つかっちまう!」

大小様々な大きさの水柱が雪風を取り囲む。

「えっと…、周囲に至近弾!」

艦がガックンガックン揺れる。艦橋に立っていられないくらいだ。

「全力で回避運動!ここで沈んだって、誰にも気づいてもらえないぞ!」

「敵さんがしっかりと確認取りますから心配後無用ですね。」

今野が平然と言う。

「弾着までどのくらいだ?」

「あと…、30秒!」

「敵艦隊の進路は?…見張り員!」

「敵艦隊、進路変更なし!嫌味なくらい堂々と航行しています!」

「よーし、じゃああと30秒でそこに悪魔が行くからな!」

もうレパルスが肉眼でも確認できるくらいの距離だ。3基の主砲塔が、こちらをジッと狙っているのがわかる。

ズドゥン!

至近弾で艦が揺れる。あまりの水しぶきで、艦橋はビショビショだ。

「あと10秒!」

林原がたまらず絶叫した。

「5…4…3…2…1…。」

艦橋全員の視線は、敵の方へと向いていた。

「時間ですっ!」

水雷科水兵が叫んだ。

「いけっ!」

「当たれっ!」

石野、小坂…思わず声が出た。

 その瞬間、レパルスに水柱がそびえ立った。高く、大きな水柱。

「おおっ!」

つづいて後続のレナウンにも。2本の槍が、船体を捕らえた瞬間だった。

「レパルス、レナウンに魚雷命中!」

「よっしゃあ!」

今野が歓喜する。艦橋のメンバーにも、思わず笑みがこぼれる。

「バカ、戦闘中だぞ。気を引き締めんか。」

そういう林原の顔にも笑みがあった。大谷にも安堵の表情だ。

「報告っ!ボイラー室に浸水!現在防水処理中です!」

「さっきの至近弾か。」

「無事に帰してくれるなんて思ってないさ。」

これだけの砲弾投射量で、致命弾がなしは奇跡的だと林原は思っていた。だから、今さら機関浸水程度でおじけつかない。

「敵艦隊の進路は?」

「進路不明!敵艦隊、散開しはじめました!」

「やった、足止めに成功だ!」

砲弾が止まずに飛んでくる。

「さて、どこまで避けきれるかな。所詮は多勢に無勢だ。」

「なに、魚雷攻撃で統制の取れなくなった艦隊など、怖くはありませんよ。」

そのときだった。レパルスに再び水柱が立った。

「!?なんだ、あれは!?」

「次弾斉射は命じてないぞ?」

誰もが不思議に思ったとき、大谷が半泣き顔で笑いながら叫んだ。

「我、貴艦を援護す。…浜風ですっ!」

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