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Together  作者: 天城孝幸
23/25

23.恨んでくれ。

 午前3時、艦橋の角に頭をぶつけた林原は、ハッと気を取り戻す。足元がおぼつかない。当然だ。昨日からずっと寝ていない。できる限り艦橋にしがみ付いていようとして、ずっと起きていたのだ。0時をまわったころからウトウトしはじめ、さっきから数回頭をぶつけている。石野大尉や小坂さんを起こすのも気が向かないし、どちらかが起きてくるまでは艦橋にいるか、と眠気を必死に我慢していた。

 通信士席では、大谷がスースーと寝息をたてて寝ている。波の音と雪風自身の機関音しか聞こえぬ、静かな海だ。

「むこうはどうなったのだろうか…。」

敵の大艦隊と戦っているであろう本隊が、ふと気になった。自分らだけが、護衛の為とはいえ安全圏に脱することへの罪悪感も感じた。

「艦長、艦長。」

何やら呼ぶ声がした。

「…?」

暗闇で、どこから呼んでいるのかわからない。

「艦長、こっちです、見張り所です。」

ああなんだ、見張りの水兵か。

「どうした?」

「ええ、ちょっと気になりまして…。」

自信なさげに、若い水兵は答えた。

「とりあえず、双眼鏡ごらんになります?」

言われた通り、双眼鏡をのぞく。

「…。」

水平線…の向こうに何かがいる。

「バカ、もっと早く言え。」

艦橋に戻り、マイクをとる。

「艦橋より全艦。左60度水平線上に、敵らしき艦影。」

みんな気持ちよく寝ていたのにな…と悪い気もしつつマイクを切る。

「見間違いじゃないのか?」

艦橋に上がってきた石野が言う。

「この辺であの方向に島はありませんし…」

林原が言いかけたときだった。

「艦影より光っ!」

「な、いかんっ!」

石野が叫ぶ。

「面舵一杯ッ!」

ヒュルルルル…。嫌な音が近づいてくる。

 ドザァ!至近弾の水柱。艦が縦へ横へと揺さぶられる。

「え、何!?」

大谷のびっくりしたような声。どうやら起きたらしい。

「相変わらずの砲撃精度だな…、左舷50メートルに弾着ー!」

「機関両舷全ー速!」

さてどうする。本艦からギリギリ見える位置ならば、距離はおおよそ20キロメートル。

「逃げよう。いや、それとも…。」

林原は判断に迷った。考えようにも、思考能力が眠いと言い張る。

「艦長、このまま行けば船団がいる。ひとまず、船団の位置を教えることだけは避けたい。」

石野が言う。

「取り舵一杯!進路1-5-0!、逃げ切ってから船団のほうへと合流だ。」

「そうしましょう。」

しかし、なぜこんなところに敵艦隊が…?

「敵艦、また発砲っ!」

「面舵一杯っ!」

水柱でレーダーがゴーストを拾うのを避けているのか、一斉射撃がメインだ。日本側陣営ではそれを逆手に取り、発砲後急回頭で回避せよと言われている。

「なんだなんだ!?」

小坂が艦橋へと上がってきた。その瞬間、周りが水柱で見えなくなる。

「うあっ!」

「くっ!」

艦橋に水しぶきが入ってくる。再び艦が縦へ横へと揺さぶられる。

「読まれてるな…こりゃまずい。」

石野がこぼす。

「あれ、あいつどこ行った?」

周りを見ると、今野の影が見当たらない。

「今野か?あいつなら、さっき艦尾に走ってったぞ。」

「はい?」

林原がきょとんとしたその時、

タンッ!軽い音がした。艦尾砲の発砲音。

「誰だ!?発砲命令は出してないぞ?」

小坂が焦る。

「ミスか?」

そう林原がつぶやいたとき、突如空中が明るくなった。どうやら砲弾が爆発したらしい。

「空中爆発?」

「信管異常弾だったのか?」

艦橋の全員が疑問で一杯になった。

「驚かせてしまい、もうしわけありません。」

後から、今野の声がした。

「勝手に撃ったのは貴様かァ!」

小坂が怒鳴りながら今野の胸倉に掴みかかる。

「大尉!何か続きがあるのでは?」

あわてて林原が止めに入る。

「今野、勝手に撃つな。で、何をやったんだ?」

「チャフを撒いたんですよ。」

小坂に胸倉を掴まれながら、今野が言う。

「チャフってなんだ。」

小坂が低い声で訊く。

「アルミニウム箔ですよ。これを撒くと、レーダーが一時的ですが使えなくなるんです。」

今野が落ち着いて説明した。

「レーダーが使えなくなる…だと?」

そういえば、砲撃が止んでいる…?発砲の報告もなければ、弾着もない。

「アメさんに教えてもらったんですよ。これ撒けばレーダー使えなくできるぞって。」

今野がさらに説明を重ねる。

「…っ。」

小坂が今野を離した。

「今は戦闘中です。仲間割れはいけません。それと今野少尉、理由があるなら独断発砲はしないように。」

タイミングを見計らい、林原が収める。

「とにかく、敵艦隊から逃げるのが先決だ。回避運動しつつ、追っ手を振り切る。」

「…了解。」

艦橋はまた静けさを取り戻した。まだ砲撃は再開されない。

「艦長、チャフの効果がそろそろ切れます。まだ予備弾はありますが、撃ちますか?」

今野が訊いてきた。

「いや、船団に向かわれたら困る。ピンチになったらそのつど使えばいい。」

見張り所には、何枚かのアルミニウム箔が落ちていた。少なくとも、アルミニウム箔を撒いたのは本当らしかった。

「敵影より発砲!」

再び砲撃がくる。

「取り舵一杯っ!」

艦が右に傾く。思わずよろける林原。

「見張り員、敵艦隊との距離はわかるか?」

「はっ。正確な距離はわかりませんが、おおよそ20キロかと。先ほどより、近づいているような…。」

「何だと!?」

回避運動で予想以上に回り道をした?こっちは35ノットで逃げ回っているはず…。

「水柱からして、巡洋艦ではないですね。ってことは…。」

今野が言った。相手は、巡洋戦艦。

「巡戦部隊がなぜこんなところに?船団を追ってきたのか?…面ー舵!」

だが今は考えてられない。一番の目標は…

「敵艦隊を船団に近づけさせないことが最も重要だ。このまま逃げ続ける。…石野大尉。」

「なに、雪風航海長は伊達じゃないからな。」

空は明るみを帯びてきた。その前に…

「艦長!浜風より入電っ!」

大谷が叫んだ。

「船団司令船が機関故障!航行停止中!」

「停止!?」

まずい、おそらく雪風と船団はそこまで距離が離れていない。もし夜が完全に明ければ、視界が広まり発見される可能性がある。

「敵艦隊を引きつけきれるか…?」

小坂が疑問系でこぼした。

「私は…無理だと思いますがね。」

と言いながら、林原を見る今野。

「…戦うか。しょうがない。」

林原はマイクをとった。

「全艦に告ぐ、本艦はこれより敵巡洋戦艦隊との戦闘に入る。目的は敵艦隊を足止めし船団の離脱を助けることだ。」

ザバッ!右舷前方に至近弾。それでも動じることなく、林原は喋り続ける。

「本艦が沈んだら俺を恨んでくれ。危険であることを、否定はしない。」

そこでマイクを切った。

「艦長かっこいい!」

今野が茶化す。

「んなこと言ってる場合か。通信長、浜風に打電。我、これより敵艦隊との戦闘に入ると。」

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