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Together  作者: 天城孝幸
21/25

21.嫌な…予感

 「ご、ご苦労さん。」

震え声で今野が秋原に声をかける。

「あ、お、お疲れ様です!」

秋原が緊張した顔つきで敬礼する。お互い、違う意味でガチガチだ。

「ゆ、輸送船はいたか?」

「いえ、まだ一隻もきておりません。」

見張りを林原が頼んでから、5分も経っていない。輸送船がそんな短時間に来るはずもないのだが…。

 しばらく二人にの間に会話が無くなった。

「あの、今野少尉殿?」

「え?」

突然話しかけられた今野。びっくりして双眼鏡に顎をヒットさせてしまう。

「アイタッ!」

「うあっ!あ、だ、大丈夫ですか…?」

思わずうずくまる今野。

「う、うん。大丈夫。それより…?」

何か秋原が訊こうとしてきたのことを、聞き返した。

「あの…、今野少尉はどこの科なんですか?」

「俺?は水雷科だよ。」

「え、水雷科なんですか?水雷科って、魚雷を撃つ科ですよね?」

「うん、そうだよ。」

「じゃあなんでずっと艦橋にいるんですか?佐々岡水雷長がずっと言ってましたけど…。」

背中に冷たいものが走る。意外なところから指摘を受けてしまった…。

「か、艦橋と魚雷管制の連絡役をやってるんだよ、うん。」

意味不明な言葉で濁してしまった。


 「何話しているんだろーね。」

通信士席で、大谷がつぶやく。

「たわいもない話をしてるんでしょう。今野少尉は口下手ですから。」

林原が言う。いつもなら、むしろ話が上手いくらいなのだが。

「でも恋愛かぁ…青春って感じがでてるね~。」

うらやましそうに言う大谷。

「林原君は、好きな人いないの?」

不意打ちを喰らって、たじろく林原。

「あ、わ、私は…その…。」

それは先輩ですなんて、言えるはずもなく顔を赤くなる。ついさっきまで今野を攻めたてていた勢いはどこへやら。

「あー、いるんだ~。」

大谷が茶化す。

「いや、そんなことは…ないですっ!」

顔を真っ赤にして反論する。

「ああっ!も、もしかして…林原君も秋原ちゃんのことが…。」

笑顔で言う大谷。大谷からしてみれば、林原を弄ぶのが面白い。だが林原にとっては、まさに修羅場。

「ちがいますっ!他の人ですっ。」

「あはははは…。」

艦橋の空気が、和んだような張り詰めたような…。

 外から、秋原が戻ってきた。

「あ、艦長。あの…今野少尉が後はやっておくと申しましたので…。」

「ああ、そう?じゃご苦労さん、下がってよし。」

秋原は一礼すると、ラッタルを降りていった。

「なんだあいつ、取り残されたのか?」

見張り所の方へと目をやると、今野が戻ってくるのが見えた。

「どうだ?」

腕組みしながら林原が訊く。

「え、どうって…。」

「ちゃんとお話できたのか?」

後ろで大谷がクスクス笑っている。

「あ、はい…。ちょっと、できました。」

「なんだちょっとか。」

「だって…特に話題もないですし…。」

「そこを作るのがお前の役目だろうが。第一、自分から二人きりにしてくれと頼んだじゃないか。」

大谷は、もう笑いが止まらないようだ。自分から二人きりにしてくれなど、普通は絶対に言わないからよほど面白かったのだろう。

「ちゃんとお話してあげなきゃダメだよ。頼りない男には女の子はついていかないぞ。」

大谷が笑いながら言う。

「そうは言っても…。」

「とにかく今日はこれまでだ。ま、自分から話ができただけ収穫じゃないの?」

林原が締めくくった。


 「艦長!これは確かな情報ですか!?」

今野が血相を変えて士官室へ飛び込んできた。中には林原、石野、小坂といった雪風の幹部が顔を揃えていた。

「ああ、確からしい。」

林原が真剣な目つきで言う。

 さっきの恋模様から、まだ5分と経っていない。あまりにも悲劇的だった。司令部からの命令、ノーフォーク港及びその周辺にいる全艦艇に警戒警報を発令する。敵襲来の可能性大。

 ソースはイギリス本国の諜報員。イギリス側陣営が大規模な攻撃作戦を計画している、との内容だった。それも先のブレスト・プリマス攻撃作戦失敗による戦力低下時を狙われ、すぐに発動されるであろう、と付け加えられていた。

 その参加戦力が問題だった。イギリス側から戦艦8隻、巡洋戦艦3隻、ドイツ側から戦艦8隻、巡洋戦艦5隻が少なくとも主力として投入され、その総合戦力は戦闘艦だけでも150隻にのぼるのではないか、と見積もられた。

「この作戦で、ノーフォークを襲撃するらしい。もしそうなれば、我々は大西洋に出ることすらできなくなるわけだ。」

「150…隻…!?」

日本側陣営の大西洋における行動可能艦は、旧式艦まで全てかき集めても70隻いるかどうか…。

「私たちは、指をくわえて見ているだけなんですか!?」

「いや、できる限りの艦を集めて迎撃するそうだ。何もしないというわけにはいかないからな。しかし…」

林原は今野に一冊の本らしきものを渡した。

「これは、戦闘詳報?本艦のやつですか?」

「そうだ。雪風戦闘詳報と書いてあるだろ。」

「これから、相手の弱点とかわかったんですか。」

「逆だよ。パラパラとめくって見てみ?」

言われた通り、パラパラとめくる今野。

「その戦闘詳報には、本艦が参加した戦闘が全て記録されている。詳細にな。そして、本艦はほとんどの戦闘に参加している。」

「それが…何か…?」

「単刀直入に言ってやる。その戦闘詳報に、敵艦艇が沈んだという記録はあるか?」

今野は確かめた。

「パナマ…、セーブル…、ブレスト…。」

ひとつひとつ見てゆく。

「確かに…撃沈記録はありません…ね。」

「つまりだな、仮に戦力が足りていたとしても、我々がまともにやりあえるかといったら厳しいわけだ。」

「レーダー射撃が脅威ですね。」

「脅威すぎる。アウトレンジから正確な照準で撃たれれば、なす術がないからな。」

士官室はどんよりとした空気につつまれた。

「じゃあやめるかってわけにはいかないからな。本艦にも、いよいよ正確無比の砲弾が注いでくるぞ。」

石野がそう言った。いつもの気楽な石野の声ではなかった。


 士官室から出た林原。

「今野。」

「はい、なんでしょう?」

「このことは…。」

大谷少尉や秋原二水には内緒だ。と、言おうとしてやめた。彼女らにも耳があるし、自分から訊くこともできる。

「…伝えておこう。大谷少尉と、秋原二水に。」

「…そうですか。わかりました。」

そう言うと、今野は自分の部屋へと向かった。いや、大谷と秋原の部屋と方向は同じだから、そっちへと向かったのかもしれない。

 林原は露天甲板へと向かった。特に理由はなかった。強いていうなら、大谷や秋原の反応を見たくなかったからだ。

「艦長、お疲れ様です。」

水兵が敬礼する。

「甲板掃除か、ご苦労さん。」

「はい。でも艦をピカピカにしちまったら、光を反射して本艦は見つかっちまいますね。」

「見つかったら避ければいいだろう。そんなに俺の操艦は下手なのか?」

「いやいやそういうわけでは…」

後艦橋から声が飛んでくる。

「北川二水!まだ終わらんのかぁ!」

「今終わりましたぁ!…では、失礼します。」

「すまないな。邪魔してしまった。」

「いえいえ、では。」

一礼すると、声の方へと駆けて行った。

 林原は港を見渡した。多くの艦艇が、太陽の光で黒光りしている。こんな頼もしい軍艦が何隻もあるじゃないか、なんとかなるよ。気持ちが切り替わった。

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