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Together  作者: 天城孝幸
19/25

19.成功…のはずが

 「天津風より入電!了解とのこと!」

今野がニヤッとした。まず一隻。

「浜風より入電です!了解した、と。」

二隻ともついてきてもらえるようだ。林原がこの戦闘で、初めて笑顔を見せた。

「機関そのまま取り舵いっぱーい!」

「取ー舵!」

3隻が艦隊から離れる。今野が叫んだ。

「通信長!無線機の調子はどうですか?」

「え?」

何を聞かれているかわからない、といった言い方で大谷が返す。

「艦長!無線に不具合あり!正常な無線通信ができません!」

「え?え?」

完全に大谷はテンパっている。林原が大谷のところへと向かう。

「後で艦隊離脱を訊かれた時、言い訳にします。」

すばやく言うと、大声で叫んだ。

「無線故障!」

「仕方ないな、無線故障とは…。」

石野が合わせる。石野としても、いちいち指揮艦である神通の言うことを聞かなくてすむからだろう。

「天津風と浜風以外からの電文は返信しないで下さい。」

さりげなく大谷に耳打ちする。

「う、うん。でも、大事なことはどうするの?」

「呼んでくれれば来ます。内容だけ教えて下さい。」

とりあえず言い訳の体勢を整え、窓際に戻った。

「お、砲弾が寄ってこなくなりましたね。」

今野が嬉しそうに言う。

「神通の砲でも届くってことは、レーダーが必要ないくらい接近してるんだろ。」

石野もニヤリと笑ったように見えた。

「敵艦隊向かって左側から突入、魚雷攻撃を仕掛けるぞ!左水雷戦用ー意!」

「水雷戦、用ー意!」

敵の発砲炎が左側に見える。

「発光信号で後ろに伝えろ!水雷戦やると。無線使ったらばれちまう。」

今野はこういう時だけ仕事が早い。

「目標は先頭艦だ!距離10キロでぶち込んでやる。」

距離10キロは、水雷戦にしては遠い距離だ。だが目的はあくまで誘引、無理に突っ込みをかけて沈んでしまってはしょうがない。

「この暗闇だ。93式なら当たるだろうよ。」

小坂が余裕の台詞をはきだす。艦橋はだいぶ落ち着いてきた。

「敵艦隊との相対距離、およそ15キロ!」

「タービンがぶっ壊れるまで回せ!気づかれては面倒だ!」

雪風は陽炎型駆逐艦の8番艦だ。最大速力は35ノット出るが、こういう時はどうも遅く感じる。

「じれったいな…、早く!」

目標地点まで10分もあれば到達できる。その10分がどれだけ長いかを思い知らされた。

「あっと!」

見張り員が叫ぶ。見ると、後方に炎。

「神通被弾!」

隣にいた秋雲を照らし出す。はっと何かを感じた。

「しまった!」

今野が叫ぶ。

「操舵員!回避運動とれ!こっちに撃ってくるぞ!」

また艦橋があわただしくなる。

「あと…30秒!」

「転舵準備!」

向こうは今頃、こちらへ照準を合わせていることだろう。さあ向こうが撃つのが早いか、こっちが魚雷を放つのが早いか…。

「あと10秒!」

「転舵用意よし!」

一秒が長い。まだ経たないのか…。

「敵艦隊発砲!砲撃、きます!」

「転舵開始!」

グッと艦が右に傾く。

「艦長!時間です!」

「魚雷発射!」

林原は叫んだ。直後、何かが水面へ沈む音がかすかに聞き取れた。魚雷は無事、放たれたらしい。

「ウォッ!」

敵弾が落ちる。距離は50メートルもない。すぐ後ろにも落ちたらしい。

「敵弾回避!」

「進路1-5-0!後はトンズラだぁ!」

「取ー舵!」

周囲は砲弾の水柱ばかりだ。前もろくに見えない。艦は再びジェットコースター状態だ。

「航続艦はついてきてるかぁ!」

「まだ浮いてるようですよ~。」

今野が陽気に答える。まだ攻撃は続いてるんだぞ…。

「やっぱり小さい駆逐艦には当てられんようだな。」

石野が勝ち誇ったように言う。

「敵戦艦と思しき艦影に水柱!」

見張り員が嬉しそうに報告する。

「時間から見てうちのじゃないか?こりゃあ佐々岡水雷長に一杯奢らねばならんな。」

小坂がこぼす。いつもと違って嬉しそうな愚痴だ。駆逐艦乗り、戦場での数少ない至福の時である。

「水柱視認!魚雷3、命中を確認!」

「お?二本当てた艦があるのかよ?」

今野がうらやましそうに言う。

 再攻撃と行くか、と林原が考えた時だった。

「林原大尉。」

大谷が呼んでいる。

「どうしました?」

「扶桑より入電です。第二艦隊全艦は、撤退せよと。」

「撤退?終わったのかな?」

無事終わったにしては「撤退」というのが何か引っかかった。

「どうしました、艦長?」

今野が近づいてきた。

「作戦が終わったらしい。だが撤退しろと言ってきた。」

「撤退?失敗したんですかね?」

「艦砲射撃して帰るだけの作戦に失敗なんてあるのか?」

「他の港でも撃っちまったんじゃないですか?とりあえず、やることはやりましたから帰りましょうよ。」

まあ囮任務は達成できたから帰るか。

「本艦はこれより、戦闘海域より離脱する。扶桑から撤退せよと電文が来た。」

「なんだ、もう帰るのか。」

いろいろ聞こえたが、石野の返事で意見は固まった。

「まあいいだろう。最後の命令くらいは聞いておくか。」

砲撃はいつの間にか止んでいた。海が静けさを取り戻している。

「艦長、秋雲と神通はどうしますか?」

「発光信号だ。天津風に打電してくれ。電文は以下、扶桑からの命令に従い撤退する。我が艦は無線設備に故障あり。変わって神通及び秋雲に伝えられたし。以上だ。」

伝令は一礼すると、ラッタルを駆け降りていった。ふぅ…と、一息つく。

「なかなかいい指揮だったな。君は艦長の素質があるんじゃないか?」

石野がそう言ってきた。

「いや、そんなことは…。」

「まあまあ謙遜するな。始めは不安だったが、勝手に指揮を執れるくらいずうずうしくなくちゃな。ま、俺のことが気になるなら、帰ったら一杯奢れ。」

「なんでそうなるんですか…。」

ハハハ、と笑い飛ばした石野。


 ノーフォークに帰投した雪風、さらに天津風と浜風乗員は、驚きの事実を聞かされた。作戦は失敗、それも大失敗だ。

 第二艦隊は全滅。第三艦隊も巡洋艦が全滅した他、主力戦艦が損傷。駆逐艦も数隻失った。理由はおびき出しの失敗であった。

 第二艦隊の戦艦群は水雷戦隊を切り離した後、別の敵艦隊に遭遇。レーダーによるアウトレンジ攻撃と時間差魚雷攻撃という見えない敵との戦いであえなく全滅。神通と秋雲は機関損傷により航行不能になり、後の集中攻撃で沈没した。まさに雪風含む3隻の囮作戦は脆くも崩れ去った結果となった。

 アメリカ艦隊も被害を受けた。予定海域で多数の艦艇と交戦したが、交戦相手は旧式艦ばかり。不思議に思っているところへ、潜水艦からの集中魚雷攻撃を受けた。巧みな戦術で駆逐艦の損耗率が5割を超えたという。

 第二艦隊の戦艦群が全滅してしまった為、雪風は第二艦隊の臨時旗艦となった。もちろん、旗艦といっても書類上のことである。


 神通と秋雲を見捨てたことについて司令部に糾弾された林原は、かねての予定通り無線機器の故障で意思疎通が上手くいかなかったと押し通した。

「ふぅ…。」

2時間にも及ぶ論戦を繰り広げ、ようやく開放された林原はため息をついた。近くまで来て、雪風を見上げる。

「艦長!」

高い声が聞こえた。艦橋で大谷が手を振っていた。振り替えし、舷梯を上がる。

「艦長。お疲れ様です。…ああ、今野少尉が呼んでおられましたよ。」

甲板で水兵にこう言われた。

「今野が?」

あいつが俺を呼び出すとは珍しいな…、と部屋へと戻った。

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