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Together  作者: 天城孝幸
17/25

17.ようやく…話せた

 大谷は林原と今野が部屋に入ると、ドアを閉めた。秋原は既に部屋にいた。4人が狭い部屋の中に集まった。

 林原は大谷を見た。大谷がコクリと頷く。

「二人とも、これから話すことをよく聞いて。で、聞いても絶対に口外しないでね。」

「ちょっと、聞く前に質問が…。」

今野が手を上げた。

「なに?」

「これから話すことって、何に関することなんです?作戦に関することなんですか?」

ああそうか、扶桑へと行ったのも大谷先輩とだったっけな…。

「ううん。作戦は一切関係ないの。…私たち、二人のことよ。」

今野はそれを見てニヤッとした。恋花を咲かせたのかと思ったのだろう。だが林原の真剣そうな表情を見て、すぐさま笑顔を消した。

「私は言いませんよ。だって、私などに話してくれるのですもの。それだけ信頼されてることに感謝します。」

秋原は少し笑顔でそう言った。わずかではあるが、場の空気が和んだ。

「まあ私も、よほどのことで無ければ言いませんよ。…おっと、よほどのことってのはつまり、その…」

「言わないと約束してくれるのなら、それでいいわ。」

大谷は、林原にアイコンタクトを送った。林原は、声を絞り出した。

「俺と大谷少尉は、この世界の人間じゃないんだ。」


 「え…?」

「なに…それは…?」

今野、秋原の表情がにわかに険しくなった。林原は続けた。

「いきなりこんなこと言って、信じられないだろう。半信半疑で聞いてくれてもいい。だが、話しておきたいんだ。」

「…。」

沈黙がおりた。何を言ってるんだ、といわんばかりの顔をする今野。

「私たちは、もっと科学技術の進んだ世界から来たの。例えば…飛行機が音よりも速く飛ぶような世界からね。」

今度は大谷が口を開いた。今野、秋原の両氏は真剣な目つきで聞いている。

「私たちは士官学校の卒業試験で好成績を収めたの知ってるでしょ。あれはこの世界では高度な知識とされてることを、誰もが基本的な知識として習っているからなの。私も林原君も、勉強ができるわけじゃなくて始めから知っていることを復習しただけだったのよ。」

いまいちよくわかりづらい説明になってしまった。

「えっと…、つまりお二人さんは、この世界よりもっと進んだ世界からやってきて、ここにいるってことですか?」

確かめるように、ゆっくりと今野が訊く。

「そうだ。」

「そんなことが…。」

今野が固い表情を浮かべる。秋原は一言も口を開かない。

「元の世界では、お二人さんはどんな関係だったんですか?」

また少し沈黙があった後、今野が訊いた。

「私と林原君は大学生よ。私が2年生で、林原君は1年生。同じサークルなの。」

「サークル?科みたいなもの?」

「違うわ。部活みたいなもの。えっと、この世界でそれらしきものは…。」

「大学ってことは、やっぱり頭いいんじゃ…。」

「いや、私立大学だからな。俺と大谷先輩のいた世界は、私立大学ならレベルにもよるけど大体入れるんだ。」

「へえ…。」

うん、うん、と自分を納得させるかのように今野は頷いていた。

「どうやって…この世界に来たんですか?」

初めて秋原が口を開いた。

「学校帰りの電車の駅でね、突然霧が出て、気づいたらもうこっちの世界だったの。私たちは、何がなんだかわからないまま来ちゃったのよ。」

また秋原は沈黙した。

「それで、我々にどうして欲しいんです?」

今野が訊く。林原が返答した。

「まずそのことを知って欲しかったんだ。それで、俺と大谷先輩を知って欲しいというか…」

「色々と理解して欲しいの。具体的にだせるわけじゃないけど、私たちは戦争のない世界からやってきたわけだから。そういうことに関しては疎いんだ。」

寂しそうに大谷が言った。

「艦長、航海長、砲術長、水雷長。士官室へおいで下さい。」

艦内放送が流れた。林原が立ち上がる。

「じゃあ私は行きますので。大谷先輩、後を頼みます。」

「うん。」

林原はドアノブに力を入れ、ドアを開いた。


 呼び出された件は、補給品の確認だった。艦長である林原は他の士官からの報告を元にチェックを行うだけなので、大した用事ではない。

 士官室での用事を済ませ、部屋に戻った。明日は早起きして艦の指揮を執らねばならない。

「だから、大谷少尉と仲がよかったんですね。」

部屋に戻った林原に、今野が声をかけてきた。

「時々、大谷先輩って呼ぶでしょう。あれは大学の先輩だからですか?」

「そうだよ。ここでは階級が上だから、先輩って呼ぶことも敬語を使うこともできないけどね。」

「大変ですね…。」

今野がここまで気にかけてくれるヤツだとは思わなかった。内心、嬉しかった。

「艦長、話してくれてありがとうございます。私は、いままで人に信頼されたことがなかったですから。」

「いや、感謝するのはこっちだよ。…信頼されたことがないってのは?」

「ああ、実は私、家を勘当されてるんですよ。…人を殺したってね。」

始めてみた、今野の顔だった。笑っているようにも見えれば、泣きそうにも見えた。

「何が、あったんだ?」

「友達の自殺を手伝わされたんですよ。そいつ、いじめでものすごい追い詰められてたみたいです。」


 初等教育学校(現代の小学校に当たる)最上級生の頃、今野は友達に呼びつけられた。呼ばれた先は山奥だった。

 深い森の中、友達は刀を差し出した。

「おい…なんだよこれ?」

「…こいつで、俺を切ってくれ。」

そういって、友達は短刀を取り出した。

 今野には、こいつが今から何がしたいのかを持ち前の洞察力で呼んだ。

「ちょっと待てよ!俺にはこんなことできるわけないだろ!」

「いいから頼む。今野にしか、頼めないんだこんなこと。」

「じゃあやるなよ!つらいのはわかるが、自殺なんてあんまりだ!」

「誰にもわからないよ、俺の辛さなんて…。」

そういうなり、友達は短刀を腹にブスリと差した。鮮血が、流れ出ているのがわかった。

「今野…痛い…苦しいよぉ…」

「お、おい…今医者を呼んでくるからな!」

「よ…ぶな…。刀で…俺を…切れ。」

「そんな…そんな…」

「早く!…俺の辛さが…わかるなら…切ってくれ…」


 「で、切ったのか。」

「はい…。出血も多かったですし、なにより苦しそうでしたので。…こんなの、言い訳にしかなりませんよね。ハハハ…。」

作り笑顔で、今野は笑い飛ばした。

「それで、それを偶然見ていた者がいたらしくばれたんです。父親に、人殺しなんかうちにおいておけないって放り出されました。」

「その後は?」

「警察は、自殺の疑いがあるとして私を逮捕はしませんでした。が、噂だけは風のように伝わり、人殺しの印象を与えられてしまったんです。人殺しは信用できないって。」

「…。」

林原は黙って聞いていた。今野は話を続けた。

「それ以来、どこへ行ってもその噂がついてくるんです。おかげでキレやすいだとか、騙して殺そうとしているとか、根拠もないことを言われて誰も信頼してくれなくなりました。」

今野の声のトーンが、落ちているのがわかった。

「だから、さっき話してくれたのは嬉しかったんです。数年間、誰にも信頼されずじまいだった私が、艦長の秘密を話してもらえるくらい信頼されているんだと。」

「今のお前はお前だろう。人殺しでもなければ、詐欺師でもない。一人の軍人としてここにいるんだろ。」

少し力を入れて、林原は言った。

「お前に話したのは、他に話せる人物がいなかったからだ。それは信頼されてると受け取ってもらっても構わない。ただ、こいつは誰にも言わないで欲しいんだ。」

「承知してますよ。私を、誰だと思ってるんですか。」

顔を合わせ、林原は言った。

「楽天家でサボリで適当な雪風の水雷科員、だろ?」

笑いとばして、布団を被った。

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