表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Together  作者: 天城孝幸
14/25

14.どきどき初デート!

 哨戒のローテーションにおける、雪風の順番は最後の方だった。司令部から命令としてきたものだから理由は不明だが、なぜ最後の方なのか不思議だった。

 おおよそ一週間でローテーションは交代になるが、順番が近づくごとに士官には重い空気が漂い始めていた。

 ちょうど一ヶ月くらい経ったとき、哨戒に出て行った三隈、浦風、磯風、萩風が行方不明になった。当然司令部は大騒ぎになり、第二艦隊の残存艦艇はもちろんアメリカ艦隊からも艦艇を出してもらって大捜索をしたのだが、結局見つからず沈没扱いとなってしまった。

 その更に一週間後、今度は第38任務部隊の巡洋艦ナッシュビル以下3隻が「敵艦隊見ゆ」の打電を最後に消息不明となり、沈没とされた。他にも被害は軽微ながらも、哨戒に出る度に損傷艦が帰ってくるはめとなっていた。


 「今日もか…」

艦橋で大谷から電文を受け取った林原が嘆く。内容は「我敵艦隊発見できず」。

「相手の方が足が速いですからね。」

困ったように今野が言う。哨戒に出た艦の報告から、敵は巡洋戦艦主体の高速機動部隊が主らしかった。

「艦の根本的思想が違うからな。仕方ないと言えばそれまでなのだが…」

「それはどういうこと?」

大谷が訊いてきた。林原が答える。

「日本は太平洋が主戦場だったから航続力が重視されるんだ。でも、イギリスやドイツは大西洋が主な活動拠点だからそこまで気を使う必要はないってこと。」

「でもビスマルクとかは大和よりも航続力が長いよ?」

「あれは通商破壊を念頭に建造されたからね。本格的な戦闘をするように設計しなおしたら、もっとヤバイんじゃないかな?」

今野が変わって説明した。ふぅんと大谷がうなづく。

「艦長、もうすぐ我々の順番も回ってきますが、どの艦と組むんですか?」

「そうか、まだ伝えてなかったな。」

そう言ってポケットから紙を取り出す。

「えっと…、川内と天津風と浜風だな。浜風は何で入れてあるんだろ?もう日本に回航したはずだけどな。」

「どうせ司令部のバカが間違えたんでしょ。あいつら第三艦隊が一週間で来れると呼んでいたやつらですからね。」

苦笑しながら今野が皮肉る。さすがにそれはないだろうと林原が突っ込む。

「ハァハァ…。お、大谷少尉、届けてきました。」

「ああ、ありがとう。こっちは片付いたわ。」

秋原が息を切らせてラッタルを上がってきた。

「あれ?皆さんおそろいでどうしたのですか?」

不思議そうに秋原が見渡す。

「いや何も。」

「そうですか…、あ、何かありますか?」

「今はないわ。部屋で休んでいいわよ。」

大谷の言葉に一礼し、秋原はまたラッタルを降りていった。

「さて、俺はこれから陸へ行ってくるよ。たまには上がらないと体がふやけちゃう。」

「あ、私も行く!」

ガタッと椅子から立つ大谷。

「じゃあ、私はこれで。すぐ戻ってきて下さいよ。」

と、言った今野の目が笑っていた。林原の顔は真っ赤。

「あ、そですか?じ、じゃあいっしょに行きましょう。」

珍しく、後輩らしい林原だった。


 特別、陸にあがって何かしたいわけではなかった。やりたいことがあるわけでもなければ、欲しいものがあるわけでもない。ただ艦内にずっと閉じこもっているのが嫌だったのだ。と、そんな軽い気持ちで上陸したつもりが、大谷を隣に連れちょっとしたデートとなっていた。

「アメリカは現代とあまり変わんないなー。」

そう言う私服姿の大谷。軍服姿を見慣れてしまったせいか、いつもより可愛らしかった。

「それは…アメリカですからね。」

「何それー、答えになってないよ。」

全く理由になっていない林原の回答に、アハハと笑いながら大谷が返す。

「そうだ!部屋の小物でも買っていこっと。林原君、ちょっと付き合って~。」

付き添い…のはずだが完全に大谷ペース。林原はそのまま雑貨店に連れ込まれる。

「ずっと時計が無いのよね…。あ、これどう?」

ちっこい時計をみせてくる。直径5センチくらい。なんでこんなものが売ってるんだ…

「あー、ちょっと小さくないですか?これの方が…」

と、近くにあった四角い時計を指す。

「もっと小さい方がいいな。サイズ的にはこれくらい。」

といって見せてきたのはせいぜい10センチあるかないかくらいの時計。どうやら手のひらサイズの時計が欲しいらしい。

「小さいのがよろしければ、腕時計買ったらいかがですか?」

「えー?私は普通の時計が欲しいの。」

と一生懸命になって時計を漁っている。

その間、自分も腕時計が欲しいなぁと見ていた。現代人の馴れのせいか、他の人のように懐中時計を持ち歩くというのに抵抗感を感じる。

「大谷先輩、こんなのは…」

と振り向くと、店員と一生懸命喋っている。どうやら値引き交渉をしているらしい。

「ねえねえ聞いて聞いて。この時計、半額にしてもらったの!」

と言って見せてきたのは直径30センチくらいの時計。

「小さいのが欲しかったんじゃないんですか…?」

「これならね、半額でいいって言ってくれたの~。」

鼻歌歌いながら歩く。

 雪風に帰る頃、林原はあることに気づいた。

「…自分の時計買ってないや。」


 部屋に戻ると、今野がニヤついていた。

「どうでしたか?デートは?」

「バカ言うな。」

軽く頭をゴツいてベッドに横になる。

「またまた~、向こうからいっしょに行きたいって言ったんですよ?」

「関係ねぇだろ。」

まだ心臓がドキドキしている。さっきまでのことを思い出すだけでも顔が赤くなる。

「そうやって逃げていると、いつまで経っても…」

「だから関係ないだろ!」

思わず声が大きくなる。しかし顔は真っ赤。

「艦長、顔が赤いですよ。まあお二人さんでお買い物なんてそんなには…」

「だから…」

と、言いかけた瞬間だった。

「緊急、緊急。総員出港準備にかかれ。」

艦内放送だ。

「何があったんだ?」

「さあ…、とにかく行きます?」

軍服の上着に腕を通しつつ、艦橋へのラッタルを駆け上がる。

「どうした!?」

艦橋へ上がるなり、すぐそばにいた伝令に怒鳴り込む。

「哨戒に行っていた友軍が敵艦隊発見です。」

「詳細は?」

「まだきていません。」

「よし、出港準備を急がせろ。」

艦内はたった5分の間に目の回るような忙しさとなった。

「司令部より入電。準備出来次第、順次出港せよと。」

「了解と伝えろ。こっちはあと何分で行ける?」

「整備の関係でボイラー暖めてたんで30分でいけます。」

「よし、あとは乗員だな。」

甲板でも水兵たちが駆けずり回っている。ノーフォークの港が忙しくなってきたようだ。

 30分後、雪風は川内のあとの2番目に出港した。とりあえず現場へと向かう。

「味方艦隊は、現在バミューダ島沖400浬で敵艦隊と交戦中。」

大谷が電文内容を喋る。

「2日はかかるぞ?それでも行けというのか…」

石野が難色をしめす。

「追加電…交戦中の味方艦隊から直接電文です。本艦隊は壊滅状態とのこと。」

「…行く理由あるのかよ。」

と、今野が爆弾発言。あわてて林原が

「おそらく、今度こそは尻尾を捕まえたいという思惑だろう。」

と返答する。

「川内より信号!我につづけ。繰り返す、我につづけ。」

「了解と伝えろ!」

 その後も次々と追加電がくる。味方艦隊は戦艦 コロラドが旗艦の全4隻の艦隊であること。敵勢力は戦艦4隻はいるのではないか、第三艦隊はまだかという雑談のような電文も入ってくる始末だ。

「敵勢力の詳細がわかりました。戦艦 ネルソン級2隻を中心とした計16隻の艦隊です。戦艦3、重巡2、軽巡4、駆逐艦7。現在はバミューダ島沖100浬を針路3-2-0で進んでいる模様。速度は…ふぁぁ~、…失礼しました、14ノットだそうです。」

大谷があくびをしながら報告を入れる。もう日が暮れた。

「さっき味方艦隊全滅の報が無かったか?ネルソン級はちょっとまずいな…」

「なぁに、今ノーフォークにいたほとんどの艦隊が出撃してるんだ。今度はやれるさ。」

石野と小坂がこんなやり取りをしている。

「大谷少尉、交代を。もう今日は遅い。」

大谷を気遣って林原が言った。

「わかりました。待機します。」

「林原、君も交代しなさい。どうせ海戦は早くて明日だ。」

はぁそうですか、と林原もラッタルを降りた。

 いくつもの黒煙が、大西洋の空に見える…

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ