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Together  作者: 天城孝幸
13/25

13.正しい判断なのだろうか…

 大谷が打電すると、すぐさま回答が返ってきた。

「貴艦に判断を委ねる…以上です。」

「向こうも決めかねている、ということか。」

石野が腕組みをする。

「艦長行きましょうよ!一隻でも多くの戦力があったほうがいいはずです!」

「甲板上に負傷兵を乗っけたままいけというのか?本艦が被弾すれば、それこそ甚大な人的被害を被るぞ。」

今野と小坂の論戦は平行線のままだ。

「伝令、時津風生存者の中で最先任のものを連れてこれるか?」

林原が令を発する。

「はっ、行ってきます。」

ラッタルを伝令が駆け下りていく。

「こういうのは当人に訊くのが一番ですからね。」

帽子を深くかぶりなおし、林原が言う。

「艦長!お連れしました!」

艦橋に一人の男が伝令と共に上がってきた。

「時津風砲術科の和田一曹です。」

「艦長の林原です。お疲れのところ、申しわけない。」

軽く挨拶し、林原は続けた。

「本艦はこれから戦線に復帰すべく、艦隊を追うことになる。だがあなた方負傷兵がいる。このままノーフォークに帰投するか考えているところだが、そちらとしてはどうかな?」

和田は少し考え、こう述べた。

「私には決めかねることです。ですが、我々時津風乗員が貴艦雪風、更には僚艦天津風の行動を妨げるのは不本意です。」

語尾は力強かった。

「わかった。ありがとう、下がってよし。」

和田は一礼すると、ラッタルをゆっくりと降りていった。

「艦長、どのように判断されますか?」

小坂が下手に出て訊く。

「行きます。ここでは、むしろ下がるのは時津風乗員の意思を無視してしまう格好になります。」

小坂がゆっくりと頷いた。今野が笑顔を見せる。

「大谷通信長、陸奥に打電。これより第五戦隊の駆逐艦隊は本隊へ合流すると。」

「はい、わかりました。」

「今野少尉、そこにボーっと立っているなら天津風に信号を送れ。」

「はっ、了解です。」

「機関第二戦ー速!黒50!」

石野が声を張り上げる。

「ハッ!機関両舷黒50!」

ググーっと艦が増速する。タービンの音が徐々に高くなっていくのが聞こえた。


 艦隊には3時間経ってようやく合流した。だがそこで見たのは目を疑うような光景だった。

 戦闘は既に終結したらしく、隊列を整えて進路を変更している最中だった。だが隻数が明らかに少ない。よく見ると、陸奥の煙突は根元からバッサリなくなっている。最上は後部が平らだ。見慣れぬ艦が一隻あると思ったら、なんと艦首を切断した浜風だった。暗くなりかけている為、いっそう悲壮感が走る。

「うわぁ…」

艦橋の全員が息を呑んだ。第二艦隊の無残な姿に、さすがの今野も声が出なかった。

「陸奥より入電です。第二艦隊本隊は、ドイツ艦隊と交戦、駆逐艦谷風、野分、嵐が沈没。最上と浜風が大破、その他全艦が中波ないし小破。敵への損害は不明。以上です。」

つまり艦隊がボロボロになるほどやられた、というわけだ。

「それじゃあ、第七戦隊の駆逐艦隊全滅じゃないか。こりゃひでぇ…」

「陸奥が生き残ってただけ、幸いか…?」

重く張り詰めた空気が艦橋に満ちていた。

「追電です。雪風は浜風を曳航せよと。」

「了解。伝令っ!」

「はっ、後に伝えてきます。」

「おーい、面舵だ。浜風前方100につけ。」

皆、重い空気から逃れるように、仕事を見つけて黙々と作業する。大谷は肩身が狭い思いをしていた。


 次の日の朝、第二艦隊はボロボロになりながらも再びノーフォークへと帰投した。

 港では、現地のアメリカ軍人が驚いた様子で損傷艦を見ていた。ここまで、完全に砲火を交えるような大規模海戦は起きていなかったからだ。

「今野少尉…、司令部から各艦長に召集がかかっている。ついてこい。」

「はっ、了解しました。」

本当は大谷を連れて行きたがったが、大谷は秋原を慰めている。石野や小坂は艦に必要だ。林原は今野を連れ、陸上のアメリカ海軍司令部へと向かった。

 司令部施設へ入ると、すでにほとんどの顔ぶれが集まっていた。アメリカ海軍側の人物も何人か姿が見える。誰も彼もが厳しい顔をしていた。

 「揃ったか。では…」

天津風艦長が来たところで、第二艦隊司令の入野 幸太郎(中将)が口を開いた。

「本艦隊は現地時刻1730頃、大西洋上セーブル岬南400浬において、ドイツ艦隊と交戦し被害を被った。これにより、ドイツを含めた英国陣営側が本格的な戦争へと状況をシフトさせていると思われる。有村。」

「は、今回の海戦についてご説明します。敵艦隊は戦艦ビスマルク及びティルピッツを基幹とした、戦艦4隻、重巡6隻、軽巡10隻、駆逐艦22隻、その他艦種不明が6隻の大艦隊でした。戦艦隊の砲撃により、陸奥が第一煙突根元に直撃弾を受けました。陸奥は他にも多数の直撃弾及び至近弾を受け大破しました。」

やはりビスマルクがいたか…。

「ビスマルクがいたってことは、中核艦隊ですかね?」

「近いし、そう見ても間違いないだろうな。」

有村は続けた。

「他に、時津風が直撃弾を受け沈没。谷風が直撃弾により損傷し、浸水により後沈没。野分は魚雷1本を被雷し沈没。野分を救助中の嵐が直撃弾により火災、弾薬庫引火により沈没。計4隻が沈没しました。」

更に最上が後部甲板で大火災を起こしたことや、浜風が被雷して艦首を折ってしまったことなどが報告された。

「雪風艦長、天津風艦長、貴官らは一時的に別行動をとっていたが、報告はあるか?」

林原は首を横に振った。天津風艦長も特にありません、と言った。

「では本題に入る。」

入野が座りなおす。

「状況より、これからは熾烈な戦闘が行われるであろうと思われる。そこで、日本政府にこれを伝えたところ、第三艦隊及び第四艦隊が増援として来ることとなった。第一艦隊も、一時横須賀に帰投したのち再度大西洋に投入される見通しだ。」

「これより我が艦隊は、アメリカ海軍と共同で敵艦隊の牽制にあたります。沿岸砲撃を目的としてくる可能性があるため、ローテーションで哨戒を実行します。通報があり次第、戦力を集中して叩きます。」

戦力を集中するということは、逆を言えば集中しないと歯が立たないということである。まあ先の海戦でも、二倍以上の隻数を持つ艦隊に歯が立ってなかったのは事実だ。第二艦隊の被害報告はあっても、敵艦隊へ与えたダメージの報告はなかったのが根拠だ。

「ローテーションは、日米共同で組まれるのか?」

誰かが質問した。

「はい、基本的には4隻あたりを一組とし、第二艦隊及び第38任務部隊が共同で哨戒に当たります。第42任務部隊は、帰投したのち第38任務部隊に引き継ぎます。」

有村が答えた。

「現在の損傷艦はどうするのか?」

「はい、損傷の激しい陸奥、最上及び浜風は本国へと回航させます。長門など比較的損傷の少ない艦は、ここノーフォークで修理します。」

「他にご質問はあるか?」

誰も声をあげなかった。

「では解散とします。ローテーションはこちらで作成し、後ほどお伝えします。各艦は出港準備を整えておいて下さい。」

やれやれ…、結局休暇なんてのはなかったか…。


 「お疲れ様。」

舷梯を上がると、大谷と秋原がいた。

「大谷さん、なぜこんなところに…」

びっくりした様子で今野が訊く。

「秋原二水と上陸してましたー。振り向いたら二人が見えたんで待ってたんですよ。」

笑顔で上陸の話を並べる。とりあえず、大谷の笑顔が見れて林原はほっとした。

「艦長、私たちはどうなるんですか?」

秋原が訊いてきた。

「いくつかの戦隊に分かれて哨戒をすることになった。前回の敵の多さにビビったんだろう。」

そう言うと、秋原は変な顔をした。

「まあまあ、まだここにはいるんでしょ?」

大谷が横から訊いてくる。ついつい上下関係がなくなってしまうが、まあ誰も聞いていないから大丈夫だろう。

「うん、いきなり哨戒の順番が回ってこなければ…ね。」

上官として話すべきか、後輩として話すべきか迷いつつ林原が言う。大谷はそんなに気にしていないようだ。

「じゃあ、また明日陸へ行こっか♪」

「今度はどこ行きましょうかね~。」

楽しそうな二人。

「やれやれ…、いい気なもんですね。」

今野が笑いながら言う。楽しそうな二人だ。

 さて、大谷先輩との秘密、二人だけの秘密。今野には言っておくべきだろうか…。言ったら大谷先輩はなんて反応するのだろうか。あれだけ嫌がってたけど、このまま秘密を守り通すってのは…

「艦長?どうかしました?」

今野が顔色をうかがってくる。

「え?ああ、何もないよ。」

作り笑顔で林原は返した。

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