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宿屋『鷹の巣』

新キャラ続々登場。


ヴェルランでの一日目が、ようやく終わります。

 宿屋、「鷹の巣」。

 なるほど、きてみて名前の由来がすぐにわかった。

「いらっしゃい」

 受付、いや、間違いない、こいつが店主だ。

 宿屋に入ると、まず俺の目に入ったのは、大柄の鷹男。

 俺より高い身長、筋骨隆々とした肉体。

 そして、鷹のような大きな翼が背中から生えている。

 一瞬、その猛禽類特有の強面と鋭い眼差しにびくりとしてしまったのは内緒だ。

 俺はあくまで冷静に要件を伝える。

「ここに泊まりたいんですが」

「何日だ?」

「え、えと、とりあえず手持ちがないので一週間で。多分、その後もお世話になると思いますが……」

「そうか。ならゆっくりしていくといい。7000Gになる」

「は、はい」

 ビビりまくりながらも、なんとか済んだ。

 俺はポケットから白銀貨一枚を渡し、お釣りとして鷹男から金貨三枚を受け取る。

 ……その容姿で、ピンクのエプロンは反則だろ。

 右目を額から頬にかけて続く切り傷があるのに。

 装備がエプロンて。

「なんだ?」

「なんでもありません!」

 いかんいかん、笑ってしまったら食われてしまいそうだ。

「俺の名はホルク。これがお前の部屋の鍵になる、202、二階だ。よろしくな」

「あ、俺の名前はアクです。これからよろしくお願いします」

 互いに自己紹介を交わし、俺は部屋の鍵を受け取った。

 鷹男……ホルクさんは、強面だがいい人そうだ。

 盗賊がここを襲っても、難なく撃退してくれそうで、安心である。

 仲良くなっても、敬語抜きで話せそうにはないが。

「……ちなみにホルクさんって、レベルはどれぐらいでしょうか……?」

「レベル? 100から先は覚えていない。それと夕食だが、後の七時になる。遅れるなよ? 風呂はいつでも湧いている、好きに使え」

「はい、ありがとうございましたぁああ!」

 ほら、やっぱり。

 何でこの人宿屋なんてやってるんだよ。

 確か100レベって、魔物で言うと竜ぐらいの強さだぜ!?

 俺は半ば悲鳴混じりで返事をし、自分の部屋に走っていった……。




「……すげぇ」

 俺の部屋は二階の202号室。

 この宿屋は二階建てなので、一応最上階であり、外の景色も綺麗だが、なによりも部屋の内観がすごく、俺は感嘆の声を漏らす。

 木造で、壁も床も木でできているのだが、神木なのかと思うほど模様は美しく、息を吸い込めばまるで森の中にいるような気分。 部屋は二部屋あり、一つはベッドとクローゼットが置いてある寝室、もう一つは椅子が四つにテーブルが置かれたリビングだろうか。

 どちらも八畳は広さがあり、元の世界にいた頃には見たこともないほど豪華だ。

 大理石やコンクリートなどでできた高級ホテルのスイートルームよりも、俺はこちらのほうが断然よいと思った。

「うぉおお! ベッドダーイブ! ……ふかふかだぁ」

 掃除も手入れも行き届いている、部屋にはほこり一つなく、ベッドもお日様の香りがしてふかふかだ。

「あぁ……もう、ずっとこうしていたい……」

 装備は明日でいいか……。

 俺は一度身体を起こして部屋の鍵を閉め、再びベッドに飛び込み、疲れからきた眠気に誘われ、そのまま意識を手放すことにした。



 リエンの言っていたことは、どうやら嘘だ。

 あんな言葉では表せない。

 ここの飯は旨すぎる! あれからたっぷり寝て後の七時半。

 俺はリエンが絶賛していた鷹の巣の料理を口いっぱいに頬張っていた。

 危ない危ない、こんな美味い飯を逃すところであった。

 自分でもわからなかったが、余程疲れていたのだろう、俺は七時に起きる気配はないぐらいぐっすりと眠っていた。

 しかし、そこでホルクさんが起こしにきてくれたのだ。

『おい、起きろ! 飯の時間だ!』

『は、はいぃ!』

 ドア越しから聞こえたその声に、俺は囚人のような気分で跳ね起きたものだ。

 んで、一階にある食堂に移動し、今に至る。

 食堂は広く、テーブルに椅子四つのセットが16つほど置かれているぐらいのスペースだ。

 外観からはわからなかったが、結構この宿屋は広いらしい。

 うん、ホルクさんが昔、ドラゴンを倒して稼いだGで建てたに違いない。

 しかし客はまばらで、俺を合わせても八人ぐらいしかいない。

 もったいない。

 このトンキーの生姜焼き? もおいしいのに。

 因みに料理はホルクさんの奥さんが作っている。

 奥さんも鷹族、とても仲が良さそうで、家族のいない俺には、温かい家庭の雰囲気がして心地よい。

 しばらく夢中で食べていると、近づいてくる足音が聞こえた。

「すみません、横、いいですか?」

 声のほうに目を向けると、純白のマントに身を包んだ、長い金髪の天使さんがいた。

「あ、はい。どうぞ」

「では、失礼しますね」

 俺の横の席に座る天使さん。

 背中から生えている翼が当たるのではと思ったが、器用に折り畳んだのでその心配は杞憂に終わった。

 それよりも、天使である。

 文字通り、天使という種族だ。

 このヴェルランには様々な種族が存在している。その中の一つが天使。

 神に使えてる訳でもなく、頭に輪っかがあるわけでもないが、その美しさは正に天使。

 それは横に座った天使さんも同様、見える横顔は恐ろしいほど整っており、思わず見とれてしまった。

 天使ちゃんマジ天使である。

「……どうかしました?」

「いや、綺麗だなと」

 おい。

 何言ってんだ俺。

 すみません! 口が勝手に動いてしまったんです!

「ふふっ、ありがとうございます」

 優雅に微笑む天使さん。

 俺の軽口を笑って許してくれるなんて、寛大な心だ。

 ありがたや、ありがたや。

 そのまま、天使さんは話を続ける。「人、少ないですね」

「ああ、そうですね。こんなにいいところで、ご飯も美味しいのに」

「はい、本当に美味しいですよね、ここの料理! ……あ、すみません。まだ名前を言ってなかったですね。私、セレアと言います」

「俺の名前はアクです。セレアさんは一人でここに泊まっているんですか?」

「はい、そうですよ。アクさんもですよね?」

「ああ、はい。寂しい独り身ですがね」

「私もです。なので、お隣に座らせていただいちゃいました。迷惑でした?」

「とんでもない! 天使が俺の横に座ってるなんて、夢のようですよ!」

「そうですか? うふふ、少し照れちゃいますね。そう言っていただけるとありがたいです」

 しばし談笑。

 他愛もない会話だが、人の温もりが寂しい俺にとって、セレアさんとの会話はとても楽しいものだ。

「あ、それよりも。早く料理を頼まないと、時間になりますよ?」

「そうでした! すみません、フィラさん! C定食を一つ、お願いします!」

「はいよー」

 立ち上がって、厨房のほうに慌てて叫ぶセレアさん。

 その光景がおかしくて、俺は少し笑ってしまった。

「うぅ……笑いましたね?」

「あ、すみません! そんなつもりは……」

 頬を膨らまして、可愛らしく怒って見せるセレアさんに、俺は慌てて謝罪する。

 が、セレアさんは先ほどとは逆に、俺の姿を見て優しく笑う。

「……ふふっ、別にいいですよ。その代わり、自然に話してくれませんか? その方が私も気が楽なので」

「……そう、か。わかった、改めてよろしく頼むぜ、セレアさん」

「はい、こちらこそですよ、アクさん」

 その後、セレアさんにも料理が運ばれ、セレアさんの話や、俺の話をしながら、楽しく夕食の時を過ごしたのであった……。




「……やっと、一日が終わるのか」

 長かった。

 突然異世界に飛ばされ、騎士に捕まりそうになり、ギルドで依頼を受け、山で薬草を摘み、宿屋で食事をし。

 俺は岩で作られた自然の湯船につかり、一日を振り返る。

 石鹸はないので、身体をお湯で流すのみだが、突然の疲労にやられた精神と身体には、とても気持ち良かった。

 ……もう、元の世界には戻れない。

 これからは、この世界で生きて行くんだ。

 自分の身は、自分で守る。

 元の世界とは違うんだ。

 お湯をすくって、顔にかける。

 ……よし。

 ほかに風呂に入っている客はいなかったので、俺は思う存分叫ぶことにした。「うっしゃぁああ! 俺は自分で生きていくぞ! もう、親戚を頼る必要はねえ! 自分の力で、生きていくんだぁああああ!」

 声に出した決意。

 心は、もう決まった。




 ……こうして、俺のヴェルランでの一日目は、幕を閉じるのであった。

なんだか新たな展開がきそうな終わり方ですが、これからもダラダラといきますのでご安心を←

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