俺の力
「……マホウ、ツカエナイ……」
残酷な真実を告げられたあと、俺は町の中をとぼとぼと歩いていた。
しかし、その身は絹でできたボロい服に包まれており、腰には刃渡り80センチほどの両刃剣をかけている。
これは、リエンに「薬草採りでも普通に魔物はいるんです、そんな装備ではいけません! これ、新米冒険者用キットです、ギルドで支給してますのでこれを装備して行ってください!」と、ただで手に入れた物だ。
リエンは口に出さなかったが、やはりあの制服じゃ目立つし、俺も自分の意思でこれを着ている。
その際、いらなくなった制服をどうしようかと悩んでいたところ、横から商人が譲ってくれと頼み込んだきたので売った。
今ではこのポケットに白銀貨二枚が入り、晴れて所持金二万Gになったが、俺の気分は晴れない。
「マホウ……マホウ……」
ゾンビのように歩き、壊れたラジオのように同じことを言う俺の姿を見て人が避けるが、そんなことはどうでもいい。
魔法が使えないというのは、だいぶでかい。
それがさらに、「誰でも使える」ことが前提になっていると、俺の心に入ったダメージは計り知れない。
一応、元の世界にいたころ、
「魔法が使えないのなら、剣を使えばいいじゃない」
と、剣道をやっており、有段者を負かしたりして、腕は全国レベルと自負していたが、型が我流過ぎていたので大会などは自重していた。
なので十分魔法がなくても戦えると思う。
だが、そこは問題じゃない。
俺は、魔法が使いたいのだ。
「……はぁ、仕方ない、行くか」
気は入らないが、行くしかない。
白銀貨は一応持ってはいるし、依頼は破棄してもいいのだが、この世界に慣れておきたい。
そんな思いで、町の出口を目指す。
出口は門となっており、町全体が石塀で囲まれているので、魔物の襲撃、人の襲撃もバッチリだ。
そして、その門も魔法強化されており……
「……はぁ」
また、何度目かの溜め息をつくことになる。
「アクさーん!」
すると、後ろから俺の名前を呼ぶアルト声が聞こえた。
俺の名前を知っているやつは、この世界に一人しかいない。
「……リエンか」
「はぁ、はぁ……はい、探しましたよ……」
俺は振り返って、此方からもリエンのほうに向かって合流する。
「どうしたんだ?」
絶望以来、敬語を使うのはやめている。
「はい、あの、黒髪黒眼の人がゾンビのように歩き回っていると聞いたので、アクさんがまだ暗いのかと……」
やはり、俺はそんな風に見えていたのか。
そしてリエンは、俺を心配してきてくれたのか、なんと心が温まるエピソードだろう。
俺も照れくさくなり、頬をかく。
「あ、ああ、すまん。もう大丈夫だ。それよりも受付はいいのか?」
嘘だ、全然大丈夫じゃない。
「大丈夫です、受付はあたし以外にもいますから。それよりも、さっきの魔法のことですが……」
ピクリ。
また俺の耳が反応を示す。
再び絶望するかもしれないが、気にしない。
最大限聞き耳を立てる。
そして、リエンは、俺に救いの言葉をかけるのである。
「魔法は、魔力がなくても、魔導具などを使えば、使えますよ」
俺、復活。
果たして、アクとリエンにフラグは立つのでしょうか。