8:血約の誓約
どうしてあの時…
なぜその時に…
後悔ばかりが残る
なぜなら、俺は子供過ぎたからだ
いや、大人になってもきっと同じだったかもしれない
「…なぁ」
「ん?」
イリの傷は、思ったより浅かった。出血量を見ると腕が取れたのかと思うほどの血だったが、実は擦り傷程度の傷が広範囲に渡って広がっているだけだった。
とはいえ、尋常ではない傷の広さだった。ガーゼで覆いきれるかどいか。
「この傷、どうしたんだ?」
「…猫にひっかかれた」
「どんだけ強い猫だよ?!」
「ん〜、ゴジラくらい?」
「ゴジラと戦ってこの傷だけだったら、お前人間じゃねぇな」
「なんだとぉ!」
顔を見合わせクスクス笑った。久しぶりのやりとりだった。なんて懐かしいのだろう。
「…もう良くなったんだよな。学校にも、くるんだろ?」
「…どうだろ」
「なんで?まだ具合悪いのか?」
「…ゴジラの傷が治んなきゃなぁ〜」
一人でクスッと笑って言ったイリは、なんだか痛々しかった。俺は物凄い不安に襲われた。
「なぁ、茶化さないで教えてくれ。本当はなんなんだ?どんな病気なんだ?なんで怪我なんてしたんだ?俺は、何も出来ないのか!?」
「…」
イリは黙りこんだ。イリの手を掴み、俺の意思を無視して目から涙が溢れた。
「…頼むよ、不安なんだよ…!!!」
「…ゴメンね」
「謝んなよ…」
「…うん。ゴメン」
小さな手は、震えていた。
「ひとつだけなら…」
「え?」
「さっきの質問。ひとつくらいなら、教えてあげてもいいよ」
「じ、じゃあ…!!!」
「ただ………後悔するよ?」
「…」
少し迷ったが、力強く答えた。
「…かまわない!!!」
「…ありがとう、本当は、ずっと君に言いたかった。助けてって言いたかったの…」
「俺はずっと、助けてって言って欲しかった」
「…不安にさせてゴメンね。……あたしには、姉がいたの…」
涙を一雫落とし、静かにイリの口は言葉を生み始めた。
後悔は、絶対にしないと誓った。己に。イリに。