表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こんなに  作者: アロウ
6/8

6:偽物の欠片


俺の手はあまりに短かった

月を望んだわけではない

星を願ったわけではない

ただ君を抱き締めたかっただけなのに

それさえ許されなかった



「今…なんて…?」

「だから、しばらくあの子に近付かないでって言ったのよ」


イリがいなくなった待ち合わせ場所で一人佇んでいた俺に声をかけたのは、イリの母親だった。今まであまり話したことはなかったが、知らない人ではない。何となくお堅そうで好きなタイプの人間ではないが。

おばさんに言われるがままに、近くのベンチで二人並んで座っていた。


「あの子、今ちょっと変でしょう?」

「…」


肯定も否定も出来なかった。そんな俺を見て、おばさんは優しく微笑んだ。


「優しい子ね。…あの子、イリはね。今ちょっと体調が安定しないから、言動がおかしいのよ。だから、あなたも戸惑っちゃうでしょ?でもその戸惑ってるあなたを見て、余計あの子は焦っちゃうと思うのね。だから、しばらくあの子に会わないで欲しいの」

「…ぁ…えっと…」


イリがおかしいのはわかってる。だが、体調のせいか?俺と会わなければ良くなるのか?

しかし、どれだけ考えを巡らせても答えなんてわからないのだから、ここは言う通りにしておくべきなのだろうか。


「…わかってくれる?」

「………はぃ…」


追い詰められた俺は、つい返事をしてしまった。


「ありがとう。…聞きわけの良い子」


なんとなく、誉められたというより品定された気がした。


「あの、イリは…イリさんは、そのことはもう了承してるんですか?」

「………えぇ、そうよ」


間があった。まぁ、さっきイリが帰ってその直後だもんな。少しの嘘は、親だし大人だし仕方がないということで許した。


「…メールとかも…?」

「ごめんなさいね」

「学校は?」

「しばらく休ませるわ」

「…ノートとか、イリさんの分も俺がとっておくから気にせずゆっくり休んで下さいって伝えて下さい…」


ありがとうと呟き、おばさんはベンチを立った。


また、一人になった。いろいろ考えて独りで沈んだりしないために、俺は足早に帰った。

ケータイがバイブになっているため、震えていることに気付かなかった。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ