表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こんなに  作者: アロウ
4/8

4:記憶の消滅


もし、こんなにイリを好きにならなければ、俺はこんなに苦しまなかったのに。



病院の白い壁に、微かにつたうツルを見つめて、俺は溜め息をついた。ツルはイリの病室まで届いていた。まるで、眠り姫を外敵から守り王子の訪れを待つ城の外壁のようだった。


わからない。昨日の違和感は、結局なんだったんだろう。


「イリ〜…」

「…おはよう」

「あ、ぉおはよう!」

「何焦ってるの?」


こんなときに、いつもはクスクスと笑っているはずのイリは、静かにふんわりと笑って俺から視線を外した。


「なぁ…」

「ん?」


落ち着き払ったイリは笑顔で、また振り向いた。あまり長くない髪が風もないのになびいた。ベッドの白が顔に光を呼び込み、きららかな微笑みがあまりに自然な女らしさで、あまりにイリらしくない不自然さで、一瞬ドキリとした。


「あ、あの…前に言ってたコサージュって、どんなやつ?」

「コサージュ?」

「ほら、店の中で言ってたじゃん、最後の一個のコサージュ」

「…?」


もしかして、覚えていないのだろうか。何のことだかわからないとでも言いたそうに、微かに首を傾げて考え込んでしまった。


「…ぁ…えっと…」


何も言えなかった。

何がどうなったのかわからない。イリに何があったのかわからない。

この日を境に、俺の知っているイリは消えた。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ