3:願望の途中
扉を少し開き、中を確認する。
「…帰った?」
「うん、追い返した」
「は〜、よかった。っと、ゴメンごめん」
「ホント、君はあたしの親が苦手だねぇ〜」
「しょうがなくねぇ?俺、お前が倒れたときに一緒にいた上に、その直前まで寒空の下で待たせてたんだぞ?今の俺は人ではなく、ただの罪悪感の塊なんだよ」
ケラケラ笑った後、イリがふぅと小さく溜め息をついた。
「大丈夫か?俺、うるさかった?疲れたなら寝ていいぞ???」
「お、あたしが病気だと優しいんだ?」
「俺はいつでも紳士だろ」
いつもの調子でちょっとふざけて冗談を言ったら、いつも通りにイリは
「…そうだね」
返してくれなかった。
え?どうしたんだろう。いつもだったら
「え〜?君が紳士だったら、世界中の男が紳士だよぉ」
と笑いながら言ってくれるはずなのに。
「…やっぱ、疲れてるのか?」
「え?うぅん。なんで?」
「いや、なんか反応がおかしいっていうか…ごめん、何言ってんだろ、俺。帰るわ。じゃ!!!」
「え、あ…うん、バイバイ…」
どうしたんだろう。変だ。イリが変だ。俺も変だ。妙に気を使う。いつものあの砕けた会話が嘘のようだ。
病院から帰ってきて部屋の中をウロウロしていると、いろんな事を想像してしまった。
イリの病気は、重いのだろうか
イリの病気は、治るのだろうか
イリが病気でどんどん変わっていったら
イリの病気に対して、何か出来ることはあるのだろうか
怖かった
前のような平穏を、切に願った
現実とは、善であれ悪であれ強い思いの方を反映する。
それが現実と離れようとも…