2:日常の終焉
こんな毎日が続いたって、つまらないだけだ。
そう思っていた。
黄色の手袋を見つめる彼女の横顔は、さして物欲しそうな顔ではなかった。
「イリ?手袋?」
「ん?うぅん、その横」
ガラスケースの中の手袋の横を見てみたが、そこには何もなくただがらんどうの空間が漂っているだけだった。
「何もねぇじゃん」
「今はね。…前は、三日前にはコサージュが置いてあったの」
「ふ〜ん。探せばどっかにあんじゃねぇの?」
「うぅん、ないんだって。最初に見たときに店員さんに聞いたら、置いてあるのが最後の一個だって言ってた」
「そっか、残念だったな」
「ん…」
諦めたような残念そうな、読み取りずらい表情のイリを連れて俺は店を出た。
「なぁ、腹減らん?」
「え〜?早いよぉ」
「だって、俺朝飯食ってねぇもん」
「起きるのが遅いからでしょ。そんなことしてたら、太るぞ〜」
「ケーキ三個食べるって言った女に言われたくありませんな」
「な!?そ、それは、君への罰なんですよ〜だ」
「ほ〜?じゃぁ、一個だっていいじゃん?」
「え?!やだやだ、ちゃんと奢れ!嘘つき!!!」
ぐぅぅ
俺の腹が鳴り、二人は顔を見合わせてクスクス笑った。近くの喫茶でお茶をすることにした。
「でさ、そんときアイツが…イリ?」
軽食を食べながら話していたとき、俺は彼女の異変にやっと気付いた。
「イリ?イリ!?」
「…」
「イリ!!!」
「…あ、あたし…なんか…変」
俺が席を立ち上がるのとイリが椅子から転げ落ちるの、どっちが早かっただろう。
彼女の体が床を叩く音と共に、日常の扉は閉じられた。