08.棚から牡丹餅
よく言うよね。
棚から牡丹餅って。
今、私の目の前には焼き菓子がある。
バスケットに盛りだくさんの焼き菓子である。
いい匂いだ。堪らんっ。
フィナンシエっぽい焼き菓子で、匂いに少し癖があるんだよね。
フィナンシエは焦がしバターとアーモンドの香りが独特のお菓子だけど、これはなんだろ。
ナッツみたいな甘い香りがするハーブを混ぜたバターのせいかな。
材料を確かめる気なんてこれっぽっちも無いけどね。
サイズもフィナンシエより大きくて掌くらいはある。嬉しい。
食感はしっとりしてて香ばしい。美味しい。
ポソポソした感じもないし、これ何の香りかなぁ。
最初、この香りにびっくりしたんだけど、今じゃこの香りでなくっちゃと思うくらい癖になってる。
変なの混じってないといいんだけど。
まぁ、この街で有名なお店のお菓子らしいし、姐さんがお詫びにってくれたお菓子だしね。
…………。
これは棚から落ちた牡丹餅と思っていいのだろうか。
一応、お詫びだし。
そう、お詫びなんだよね、これ。
焼き菓子をくれた姐さんにせっつかれて、お客さんに言いましたよ。
部屋に入ってきたから教えられた通りに挨拶をしたんだけど、目を見開いて興奮とか喜びで打ち震えていたって感じだった。
とにかく、凄い喜んでた。何でなのか未だに分からない。
あまりの喜びっぷりにドン引きしてたら、いきなり手を取られてんで思わず払いのけちゃったのに更に喜んでた。
分かんないっ!
その後ちょっと残念そうな顔だったけど、至って普通にお支払いまでの流れをこなしたまでは良い。
それで、翌日にプレゼントが贈られてきたのよね。
犬の獣相を持つそのお客さんは軍人なんだか階級職っぽいお硬い雰囲気の人で、その日は三回目で多分これからも贔屓にしてくれそうだなぁとは思っていたのよね。
普通は五回以上通ってくれて気に入ったらプレゼントを贈ってくれたりするのに、三回目でプレゼンってかなり気に入ってもらえたんだなとは思った。うん。
ただ、プレゼントが……どう見ても鞭なんだけど? どういう事?
ちょっと軽く机を叩いてみるとパシッて良い音がしますね。
思いっきり叩くとかなり痛そうな音がしますね。
試しに自分の手の甲も軽く叩いてみるけど……うん、加減によっては手の甲に傷ができるね。
これで何させるつもりなのかな? ん? 察するスキルは持ってるよ? 大人だから。
長さは指から肘までより少し長めで、握る部分はしっかりと作られてるし、鞭の先は細長くて小さい長方形の皮がくっついてる。
見た目、私の知っている乗馬用の鞭っぽい。
うふふっ。
姐さんにコレ持って、何を言わせたのか詰め寄ってみたけどお腹抱えて笑うだけで教えてくれないし、他の姐さん達も教えてくれないし、妹分達も教えてくれない。
すんごい、ストレスなんですが!
ブン剥れてたら拗ねないでって姐さんがお詫びとしてお菓子をくれたんだけどね。
ご機嫌伺いのお菓子よりも言わせた意味を教えて欲しいんですがー。
とは言っても、これだけあると一人じゃ食べきれないし後で皆に分けておかなくては。
保存料なんてないからねぇ。
それにしても一体何を言わせたんだろうか。
この鞭をくれた客の次回来店が恐ろしい。
用途の想像が容易くできるだけにマジで恐ろしい。
私、そういう趣味これっぽっちも無いんですけどっ!
取り合えず先にお菓子を配ってきちゃおう。
はっ! そこを行くのはミノちゃんじゃありませんか! 待って! ミノちゃん、待って!
ミノちゃんとは何かって?
細かい事はどうでも良いのよぅ。
これ、お菓子のお裾分け。
うん、貰い物なんだけど一人じゃ食べきれないから。
美味しい? よかった。ところでちょっと聞きたいんだけどね?
いやいや、お菓子のお礼に教えてくれていいのよ?
『ようこそいらっしゃいました。今夜は宜しくお願いします』ってどういう意味?
って、何で咽てんの?! ちょっ! 逃げるなっ!
お菓子食べたんだから教えて! 狡くない、狡くない。諦めて教えてよっ!
え? 耳を貸せ?
何々?
犬の分際で『人間』様へまともに挨拶もできないなんて……駄犬ね。
ですと?
ジーザス!!