04.上手い話には裏がある
よく言うよね。
上手い話には裏があるって。
私が乗った話じゃないけどね。
行動制限があったからこの町の全てを知っているわけじゃないけれど、目の前の通りからして景気が悪そうな場所にあるこの売春宿。
向かいのお店なんて錆びた看板が今にも落ちそうだし、並んでる店なんて似たり寄ったりとうらぶれてるというのに、こんな場所でよく客が入るよなぁとは思ってました。
そう、町の雰囲気は火が消えた感じだというのに、この店だけは景気が良いのよね。
一年を過ぎた頃には流石に周りの雰囲気というのも分かるもんだし、言葉はまだ不自由してたけど、景気の良さだけは不思議だったのよ。
姐さん達は選り取り見取りで可愛いと美人が揃っていたからなのかもしれない。
こっちの美醜はよく分からないけれど、顔のパーツや体のラインは私から見ても凄いって思えたくらいだし。
この売春宿は自分よりも先にいる先輩方を姐さんと呼んで、後から入ってきた後輩は妹分と呼んで互いに世話をしあうんだけど、私も入った当初は優しい姐さん達に色々と面倒を見てもらいました。
ほんと、お世話になりましたよ。一生、頭が上がりません。
あれぇ? と思い始めたのは半年くらい前かな。
姐さん達がどんどん消えて妹分がその分増えてきたのよね。うん。
最初は身請けされてるのかと思ってたんだけど、どうやら別の場所に連れていかれたらしい。
何せ、未だに日常会話がやっとな語学力だから詳しい事情というか、専門用語なのか難しい言葉は聞いても分からないのよねぇ。
オカメちゃんは個別で売られてきたクチで、お客さんに見初められて先日目出度く店から出ていきましたけど。
そんな頼りない語弊で聞いてみたら、オーナーは半年ほど前に風俗店の組合みたいなところの会員になり、月だか年だか知らないけれど結構な額の納金をしていたと。
組合の会員になると、お客さんの斡旋と上物って言われる『商品』の派遣がウリらしい。
で、実際に入ってきた『商品』である妹分達は確かに顔は良いのかもしれないんだけど態度がいただけなかったんだよね。
最初のうちは私達に対していかにも格が違うのよって態度で、通ってくれていた顔馴染みのお客さんにも大人しくしていたの最初だけで直ぐに横柄な態度を取るようになったね、そういえば。
元々、姐さん達のお馴染みさんだったんだけど、その姐さん達が居なくなったから新しくきた妹分を呼ぶことになるわけで、結果としてはろくに仕事をしてなかったから馴染みのお客さんが徐々に減っていったりってね。
とある姐さんを贔屓にして通ってたお客さんの一人で、妹分に分けてあげてなんてお菓子を持ってきてくれるような良い人が凄い怒って帰っていっちゃったしなぁ。
今思えば態とだったのかも。
これが全部手の込んだ詐欺だというから驚きだよねぇ。
乗っ取りっていう詐欺らしい。多分。
やってきた妹分達も桜だし、斡旋されてきたお客も桜。
会員になった当初は宿の売り上げも一気に跳ね上がる。
調子に乗ったカモは更に会費を上乗せしてもっと良い商品を派遣してもらう。
組合からくる妹分達は組合の『商品』だとかで、消えた姐さん達は担保として組合に引き取られたらしいと。
で、先月に桜の妹分が桜の斡旋客に粗相をし、斡旋客が激怒で妹分に怪我をさせたんだよね。
店先で騒ぐ客にお金を包んで事を何とかその場で済ませたはいいけど、今度は組合から『商品』を傷付けたので賠償しろと言われたそうで。
そんなすったもんだが今月で三回目。
元々いた馴染みのお客さん達もすっかり足が遠のいちゃって、店として成り立たなくなっちゃったんだよね。
収入なければ払うモンも払えませんし、組合への会費なんて当然払えませんが、あちらさんはそれを狙っていたわけで、抜けるといっても抜けられないようにできているらしいと。
理解できないから、全部らしいらしいなんだよね。ストレスだわぁ。
もう少し言葉の勉強に気合を入れないとだね。
詐欺の手口とか細かい仕組みはサッパリちんぷんかんぷん。
まぁ、契約がどうたらとかそういう事なんだとは思うけど。
そんな話で騙されるのか? と思わなくもないけど、現にオーナーが騙されたんだし、色々と巧妙に話を振ってきたんだろうけどねぇ。
こういう商売してるんだから、もう少し狡賢い人かと思ったのに案外騙されやすかったのかな。
そんな訳で、三日前からオーナーが夜逃げしちゃっていませーん。
今現在、店で姐さんと呼ばれているのは私入れて三人だけ。
一人は癖のある人で、もう一人はやり手ですか? ってくらいにこの店にいる一番古い人。
残る妹分は全員組合が派遣してきた子達ね。
私はこの店の目玉だったのでオーナーが最後まで組合に渡さなかったみたい。
二人の姐さんはこれからどうなるんだろ。
それと組合に連れていかれた姐さんや妹分達はどうしてるのかな。
かなり心配ではあるんだけど、私も悠長に人のことを心配していられません。
私、別なお店に売られるらしいんで。
いきなり引っ張っていかれそうになったのを拝み倒して、急いで少ない荷物をかき集めましたよ。
見送ってくれた二人の姐さんが凄い良い笑顔だったから、何か関係していたのかもしれないけれど私の知るところじゃないというか、今更知りようがないよね。
で、三年間世話になったお店とお別れしまして、今馬車に揺られています。
売られる子牛の歌を口ずさみながら。
はぁ……また借金背負うのか。