26.蝦で鯛を釣る
よく言うよね。
蝦で鯛を釣るって。
私、作曲家デビューします!
パトロンズが雇ってくれたんだと思う家庭教師は四人。
それぞれ語学、歴史、芸術、音楽について教えてくれるのよね。
興味ある分野の先生がくると、接待職の姐さん達や専門職の姐さん達も顔を出して授業を受けたりしてて案外楽しかったり。
語学というか方言だね。
心もとないけど一応三カ国の方言は喋れるから今は東の国の方言を教わってる。
先生もついてくれてるし、私も漸く質問できるくらいには話せるようになったから、以前ほどは苦労しなくて済んでるのは正直嬉しい。
歴史もね、知らなくて構わないけど、来るお客さんは有力者だったりするんで恥をかかないようにってことらしい。
芸術関係の授業だと審美眼を養ってるのかな。
模造品の簡単な鑑定方法なんかも教えてもらっててなかなか興味深いのよね。
歴史の授業よりかは楽しい。
音楽の授業も、女性の嗜みとして教えてもらってんだけど、世界が変わっても楽器はそんなに変わるもんじゃないね。
楽器のデザインは少し違うけど見たことのある楽器はだいたいあって、一通りこなせるようにってだって。
授業には姐さん達もやってくるし、家庭教師の先生だけじゃ手が足りないから接待のときにきてくれるバンドさんも手伝ってくれてるから賑やかで楽しい。
バンドもオケみたいな大所帯じゃなくて、十五人だからビッグバンド程度になるのかなぁ。
この間、時間が少し余ってたから何か演奏しましょうかって流れになったんだよね。
日本からほっぽり出されてそろそろ十年。
もう今更帰りたいといって泣きはしないけど、ちょっと郷愁に浸ってみるのも有りかなと思ってこんな感じの曲を弾いてとおねだりしてみたら何それ凄い状態。
え? そぉ? なんて調子に乗って思いつく曲を全部口ずさんでたり。
先生なんか必死にメモしてたけど楽譜に起こしてたのかな。
こっちの楽譜って五線譜じゃなくて、音に記号が振られてるんだよね。
まぁ、慣れればどうってことないんだけど。
それから音楽の授業があるたんびに、他の曲は他の曲はとせっつかれて十年以上も前に流行った歌謡曲まで披露して聞かせてたんだけど、先日先生とバンドマスターがご挨拶にいらっしゃってお金をくれましたよ。
五十万くらい? 曲の相場として高いんだか安いんだか分からない。
前の店で買ってた服数着は買える金額なんだけど、聞かせた曲を色々とアレンジして劇団へ売ったその一部らしいのよね。
一部。一部ってことは、もっと高く売れたってことよね。
一応、アレンジしていいかとか、どこぞに売っていいかと聞かれたんで適当に頷いてはいたんだけど随分前の話ですっかり忘れてた。
いつの間にアレンジしたんだとか、いつの間に売りつけてたんだとか、こんな大金いきなり貰っちゃってウッハウハとか舞い上がってたから、合計幾らで売れたのか聞きそびれてしまったよ。
今更聞くのもちょっといやらしいしなぁ。でも幾らで売れたかは気になるのよね。
まぁ、今度聞けばいっか。
売った劇団は各地を旅するタイプじゃなく街でやってるタイプらしくて、評判良くて上演回数が増えればその回数分五十万入るんだってー!
他にも曲があれば教えて下さいって言われちゃったしね。
昭和演歌から歌謡ポップ、クラシックに童謡を今必死になって思い出している毎日ですよ。
今こそ甦るがいい、私の記憶!
流石に例の財団法人はここまで取り立てにはこれないだろうしね。
この館から一番近い街で上演しているから一度観に来て下さいって誘われちゃった。
でも、外に出るの面倒臭いなぁ。