25.言いたい事は明日言え
よく言うよね。
言いたい事は明日言えって。
白熊姐さんを皮切りに、ライオン姐さん、兎姐さんのパトロンさん達が順にやってきて接待をしていたけれど、私にはそういう接待パーティの機会がないのよね。
姐さん達のパトロンさん達は定期的に接待で利用してるのに。
まぁ、楽だからいいけれど。
いいんだけど、兎姐さんはあれから新しい下僕が調達できないまんまで、他の接待パーティにもこまめに顔を出しているうちに、なぜか白熊姐さんとライオン姐さんのパトロンさん達と意気投合してんだよね。
そして、なぜか私に接待パーティをしないのかとせっついてくる。
私がしてるんじゃないんで知らないですよ。
接客するわけでもなく一人寂しくしているかといえばそういうわけでもなくて、マネージャーさんが日にちの調整をしてくれてるのか、被ることなくパトロンズが交代でやってくる。
楽だわ。凄い楽。
借金もないし、炊事洗濯掃除もしてもらって、しかも家賃はタダ。
姐さん達のパトロンさん達に乞われて接待しているお客さんへたまに挨拶をしたりはするけれどそれ以外の仕事は一切なし。
セキュリティーは万全だし、何この極楽。
上げるだけ上げて、後で思いっきり落とされたりしたらどうしよ。
流石に立ち直れないと思うんだけど。
と自堕落に心配ごとなんてしながら過ごしていたら一年経ってるし。
パトロンズの理想的な主人であるために、一応体は引き締めてはいるけど気が緩むわぁ。
前の店に居たときからやっていた勉強は暇潰しに続けているけど、護衛さんにお願いして護身術習うとかは無理だしなぁ。
勉強といっても、語学と芸術と音楽に歴史だけどね。
花魁の教養が高かったように、こっちでもそれなりに学とか教養が求められるみたい。
それともこれもパトロンズの理想の一つなのかな?
覚えて損になるもんでもないからいいけど。
そろそろ亀さんが来るころかなぁ。
お迎えの準備でもしますか。
準備するのは亀さんの方だけどね。
…………。
どこで間違えちゃったのかなぁ、ほんとに。
ほんのちょっと駄洒落を思いついちゃっただけなのになぁ。
亀をちょっと縛ってこれが本当の亀甲縛り…………なぁんちゃって。
って思いついちゃった私の馬鹿っ! ばか、バカ、馬鹿っ! なんちゃってじゃないでしょうがぁっ。
いや、思いついたときは楽しいと思えたのよ。うん。その時はね。
きっと慣れてるだろうからと思ってライオン姐さんに協力を仰ぎ、マネキンになってもらって練習したまでは問題はなかった。
いや、ライオン姐さんにお願いしたのが間違いの元か。
ネット画像で縛られた醤油メーカーの瓶を見たときに、うっかり知的好奇心を刺激されちゃってちょっとだけ試したことがあったんだよね。簡単だったし。
思い出しながらやっていたら、なぜか白熊姐さんと兎姐さんが覗きにきてて、ここはどうだあれはどうだと。
練習がいつの間にやら講義になっていた。
兎姐さんグイグイ引っ張ったりするから、ライオン姐さんはハァハァだし。
それを見ていた白熊姐さんは指を咥えながら羨ましそうに見てるし。
そんな目で私を見ないで欲しい。
なんて言えるわけもなく、兎姐さんの練習に白熊姐さんが相手をしてた。
まぁ、ここまではギリギリ。ギリギリ、ガールズトークの延長とでも思おうじゃないか。
何でビーバー旦那とライオン姐さんのパトロンさんにまで教えなくちゃいけないわけ?
ライオン姐さんのパトロンさんはアリクイさんで、獣相が少ない人なんだよね。
尻尾と爪がごつくて舌が細長いの。目は離れてるけど物凄い優しそうな顔立ちのくせに兎姐さんと同類なのかと思うと微妙だわ。
パトロンさんの後ろで期待の篭った熱い眼差しを送ってくる姐さん達を前にして、嫌ですなんて言えるわけないし。
仕方なく教えてあげましたよ。
何であの時私は醤油瓶を縛ることに情熱をかけたのかっ! 悔やんでも悔やみきれないっ!
亀さんにサービスしちゃおっかな。なんて思いつきは疾うに冷めちゃったし、そのまま無かったことにしようと思ったら誰が教えたんだが無言の圧力を掛けてくるし。
もう面倒になっちゃったし口頭で説明して自分でやらせてみたら一回で覚えやがるし。
今じゃ扉を開けると亀甲な亀がお待ちかねですよ。
何かやってらんない気分なんだけどっ!