24.蚤の夫婦
よく言うよね。
蚤の夫婦って。
館がオープンしましたよ。
オープン初日の今日、お客さん達は白熊姐さんのパトロンさんが招待したらしい。
挨拶だけ交わしたんだけど、私よりも背が低いビーバーさんだった。
ビーバーなんて初めて間近で見るから撫でたかったのを必死で我慢しましたよ。
見た目ビーバーで服を着ているとか、どんなヌイグルミなのかと。
横幅のある大きな尻尾はズボンからどうやって出しているのか、上着を捲ってみたい衝動に駆られて大変だったよ。
足が短いからズボンも短いし、無理して履かなくてもいいんじゃないかとは思ったけど、一応ステータスとか拘りがあるんだろうね。
ビーバーさんは北の国の財界では知る人ぞ知る有力者らしい。ちっこいのに。ちっこいのは関係ないけど。可愛いのに。可愛いのは関係ないけど。小さな手でシェイクハンドが可愛かった。
白熊姐さんのお肌に残った歯型はアナタでしたかと納得しちゃったり。
ライオン姐さんも背の高いモデル体型で、上唇の斜め上にあるほくろが色気っぽくて蠱惑的なタイプ。
パッと見では獣相がない『人間』のようだけど、牙と爪が伸び縮み自由なのだとか。
咄嗟の時は要注意。キャッ! とか言った瞬間に爪が飛び出るからね。
見た目はプライドが高そうで女王様って感じなのに、パトロンさんへ傅いちゃうんだよなぁ。
女王様なのは見た目だけで、話してみるととっても可愛い人。
フリルが大好きなのに、つい興奮して引き裂いちゃうのが悩みだって言ってた。
ライオン姐さんはお部屋が淡い緑なので、兎姐さんの部屋を羨ましがっていたけど、兎姐さんは素で意地悪な人だから見せびらかして楽しんでる様子なのよねぇ。困った人だ。
同じく傅いちゃう白熊姐さんも背が高いけどライオン姐さんに比べたら肉感的なタイプで、背の高さを気にしてるのか背の低いビーバー旦那の隣で小さくなろうと頑張ってるところが可愛い。
白熊姐さんの獣相は尻尾だけで見た目は『人間』なんだけど力が白熊さんなのよね。
悪戯心でちょっと尻尾を弄ったら、いやぁんと悩ましい声を上げながらテーブルを叩き割っていたのでマネージャーには土下座もので謝っておいた。
肉食系は下手にちょっかいかけるもんじゃないね。うん。
でも、性格はやっぱり可愛いんだよねぇ。とってもはにかみやでシャイな人。
兎姐さんがえげつないだけにとっても可愛い。和む。
兎姐さんも根は良い人なんだが、根っこにたどり着くまでが大変というね。
専門組の私達は今回のパーティには関係ないんで、私とライオン姐さんは私室でのんびりと寛ぎ中。
私達の私室は三階にあってお客さんは当然立ち入り禁止だし、パトロンさんも私達が招待しなければ上がってこれないのよね。
私達は無理矢理連れてこられたわけでもないので逃げ出す心配はないけれど、二人一組三チームの六人体制で私達それぞれ警護にあたっている。お金どんだけかかってんだろ。
移動するときは必ず二人がついてくるし、接客中は接客室にある控え室で待機するしね。
男手が欲しいときは手伝ってくれるし、万が一のときには雇い主のパトロンさんよりも私達を優先してくれるという大変頼もしい人達だ。
護衛もいるしお客さんも勝手に上の階へくるような不調法ではなさそうだし気楽なもんです。
白熊姐さんのパトロンさんに招待されたお客さんは六人で、生バンドも入って一階は賑わってるみたい。
窓を開けていると生演奏が上にまで聞こえてくる。
そんな優雅な夕暮れにライオン姐さんの咆哮が時折響いてくるのよね。
多分レース編みに挑戦して失敗してんだろうなぁ。
兎姐さんは飛び入りでパーティに参加しているし。
昨日、兎姐さんにパトロンさんの数を聞かれてんで答えたら何か闘志を燃やされましたよ?
見かけに寄らず多頭使いとか、やるじゃないの。って言われました。えへっ。
兎姐さんだって五人いるのに、今日のパーティで新たに誼を結ぶんだって張り切ってた。元気な人だ。
打たれ強い下僕が欲しいらしい。
ところで、多頭使いって何?