23.陶朱猗頓の富
よく言うよね。
陶朱猗頓の富って。
一週間掛けて全員の肖像画が描き上がりましたよ。
もう少し時間が掛かるものだと思ってたんだけど、オープン日の都合で急いで仕上げたのかなと思いつつ、出来上がったアテクシ像は本人の二割増しで美人になってました。
ありがとう、画家さん!
勿論、他の姐さん達も二割三割増しなので平均値は変わりませんけどね!
門を潜ると庭を眺めるように敷地を一周してから正面玄関の車寄せならぬ馬車寄せに到着し、丸いエントランスホールへ入ってくると放射線状に繋がっている小さな――といっても十畳くらいあるんだけど――待合室に通されるって流れになってるのよね。
待合室から上や下に行ける階段があって、それぞれ接客する部屋へと繋がっているんだけど、このスペースの無駄遣い振りが豪華だわ。
私達が接客用に与えられた部屋は待合室も入れると四部屋。
各部屋を見せてもらったら色というかテーマ? が全部違ってんだよね。
私の部屋は茶系色で統一されてて、焦げ茶色の木材を使ったフローリングに、柱も家具も同系色で壁はベージュだった。
淡いピンクのお花畑、じゃなくてレースたっぷりな乙女部屋を使うのは兎の獣相をした姐さんで、以前世話になっていた兎姐さんとはまた異なる可愛い人なのよ。
顔にある獣相は目だけでくりっくりの真っ黒い目が大きくて可愛い。
カチューシャをはめたみたいに小さなオレンジの耳がピヨッと頭についてて尻尾もある。
首は天然毛皮の襟巻きがついていて、それはそれは儚げな可愛らしい方なのに、やることはかなりハードだそうで。
嬉々として棘々したお道具のあれこれを見せてもらいました。
駄犬に貰った鞭を見て、兎姐さんは何本も枝分かれしている鞭を譲ってくれそうになりましたが、謹んで辞退いたしましたよ。
だって、先に棘ついてるのなんて恐ろしくて使えませんって。
時間も余っていたこともあり、なぜかその場で棘々鞭のレッスン。
いえ、多分実践する機会はないと思いますが、筋は良いと誉められました。
女豹姐さんのお陰です。
他にも淡い水色や薄緑、アイボリーといった具合で、どの部屋も全体的にパステル風な色調で整えられていてお上品な感じだったし。
聞いて回って知ったんだけど、十人のうち兎姐さんと私は同じ専門職で、ライオン姐さんと白熊姐さんは私とは逆の専門職、残り六人は一見さんとかノーマルさんを相手にするらしい。
うん。一見さん。
店ではなく館と言うようにって注意されましたが、この館は会員制なのだそうですよ。
なので、専門職の姐さん達もお馴染みさん、ではなくパトロンが数人いらっしゃるんだとか。
この館のオーナーは専門職組み四人のパトロンさん達で、それぞれが出資しあって作ったんだって。
館オープンに伴って雇われた六人の姐さん達は、接待用とか付き合いの都合上で招待したお客さんのお相手をするという仕組みらしい。だから、一見さんのお相手もするし、専門的な方も軽くやりますよって感じなんだとか。オールマイティにこなすわけだね。
会員の招待がなければこの館には入れないし、招待される側もそれなりの人格が求められるんだって。
加減もできないただの加虐趣味とか乱暴者が出入りされても困るしね。
違法ってわけではないんだけど、金持ちが密かな趣味のために道楽で作った秘密クラブって感じなのかなぁ。
オーナー達が認めた者しか入れない、招待しないということで、なぜかオープン前にもかかわらず予約で一杯だそうです。
オーナー達どれだけステータス高いんだろう。
オーナー達の顔はまだ見てないんだけど、館を取り纏めるマネージャーさんが昨日挨拶にはきた。
ナイスミドルな狐のおじ様でした。
上背のある二足歩行の狐さんがスリーピースを着ているのはなかなか素敵だと思った。