22.案ずるより産むがやすし
よく言うよね。
案ずるより産むがやすしって。
引越しの準備やらお店の姐さんや妹達へ配るお菓子と、世話になった女豹姐さんとイグアナ姐さんにはパリコレで見たような衣装のドレスを作らせて贈ってみた。
貯金半分に減ったけど気にしないっ。
みんなとお別れも済ませて引っ越す当日、やってきましたよ黒塗りの馬車が。
ピッカピカにテカってるボディに金色の装飾品がついてる馬車ですよ。
真っ白な馬もどきは四頭並んでどこの王族がおいでになるのですかって感じで焦った。
私の乗る馬車の回りには護衛が六人、荷物を運ぶ馬車にも六人、更に道中の食材やら備品やらの馬車が一両、別途ついてくる護衛もいて総勢三十名での大移動。
お陰で無事にここまでやってこれたけどね。
お尻と腰へのダメージは回避できなかったけどね。
で、やってきました新天地。
凄いわー。凄いわよー。
ここまで来るあいだ街を眺めてきたけれどオーナー兄弟が言ってた通り、確かに西の国よりも賑やかで活気溢れているって感じだった。
そんな賑やかな繁華街の裏手にある閑静な住宅街の一画に到着したんだけど、日本なら路線価はいくらになるんだろうかという高級住宅街とみた。
こっちは道路に値段ついてるのか知らないけど。
塀で囲まれた敷地の広さに比べて建物が小さいというか庭をかなり広く作ってるんだね。
塀の内と外で定期的に不審者が入らないように巡回もしているようだし、庭にもだし、建物の周りにもいてかなりセキュリティは強固な感じ。
寧ろ強固過ぎな気もするけど。
娼館にいる『商品』は他の店でも高く売れるというんで、たまに攫われたりなんてことがあるから護衛がいたりするわけなんだけど、これはちょっと多過ぎなんじゃないのかなぁ。
高級娼館ともなればこれが普通なのかしら。
上級の娼館と言われてた前のお店とはかなり違うんですけど。
庭の取り方もそうだし、柱一本なんか凝った模様が彫ってあったりとか、手抜きのなさ、お金の掛け方が段違い。
うーん、凄い。
建物の中も豪華絢爛なんだよね。
金銀ギラギラという成金的な豪華さじゃなくて、モダンな雰囲気なのに匠の技があちらこちら随所満遍なくって感じが凄い。
鋲の一つ一つにまで模様が入ってるんですけど。
ここのオーナーどんだけ金持ちなんだ。
姐さん達が居たから挨拶に行ったら、何と姐さん達も数日前に到着したばかりなんだとか。
新規オープンなの?
北の売春宿でだって三十人以上は居たのに、私を入れて十人だから店としては大きくないんだけどこれでやっていけるのかしら。
ここまで来て店が潰れて追い出されるのは嫌なんだけど。
私達以外に住み込みで働く人達もいるけど、肉食系っぽい感じのわりに線が細い男性ばかりだし。
食事や私達の部屋はもちろん客室の掃除に洗濯とか雑用を一手に引き受けてくれてるんだよね。
多分、護衛も兼ねているんだろうけれど。
店が開くまではまだ数日あるからということで運び込んだ荷物を整理したり、なぜか肖像画も描いてもらい、建物の中や庭なんかを散策していたりする日々。
肖像画なんて描いてどうすんのかと思ったら、エントランスホールに飾るそうですよ。
ほっほっほっ。
…………私、どう贔屓目に見ても美人じゃないんだよねぇ。
自己採点ではそう悲観するほど悪くはないと思いたいんだけど、娼館にいる姐さん妹分達って『商品』なだけあってタイプは様々だけど美人揃いだし。
私の取り得といったら珍しい『人間』ってだけだしなぁ。
この館にいる姐さん達はまた格別に美人と可愛い人ばかりだし、そんな中で自分の絵も飾られるとかどんな罰ゲームなのよと。
マスカレードみたいなマスクでもしたら誤魔化せないかな。無理か。
それともこれは、その手のお店によく飾られている顔写真の変わりか?
指名がなかったら切ないんですがっ!
あ、お馴染みさんがいるから大丈夫か。
借金もなくなった今、お馴染みさんが適度に通ってくれれば何とか生活していける!
貯金も半分に減ったけどまだ余裕あるしね。
新しいオーナーともまだ会ってないし。
家賃の支払いが気になって仕方ありません。