20.いつも月夜に米の飯
よく言うよね。
いつも月夜に米の飯って。
南と東の国での戦争も一先ずは終息して、南の店で馴染みなってくれてたお客さんがそれぞれ顔を見せにきてくれた。
駄犬は前線に出てたんで傷をこさえてきちゃったけど、駄豚に駄山羊に駄蝙蝠もみんな無事でしたよ。良かった、良かった。
もう一人お仲間を紹介してもらえる話は、慌しさで流れて結局四人のままだったのよね。
南の国からだと距離があるんで頻繁に通えないだろうし、これからは疎遠になっちゃうのかな。
休暇を取ってまた来るとは言ってたけど、どうなんだろ。
まぁ、心配事が一つ減ったしね、平和平凡退屈な日々万歳ですよ。
南の国でのお馴染みさんが減った分、こちらでの馴染みさんが三人になって借金も着々と減っていっているし。
三人ならあと二~三年ってところで借金がなくなるはずなんだよね。
もう一人くらい増えてくれたら一年か二年弱で借金はなくなると予想。
あまり過ぎた期待はしないようにと思っているんだけど、オーナー兄からこのあいだ紹介されたお客さんがかなり羽振りが良い。
他の国から来て暫く滞在しているらしく、短い期間でデートを重ねてるんだよね。
そんなに急がなくてもと思いつつ、小遣いを稼げるので私としては嬉しいんだけど、何でそんなに通ってくれるんだろうか。
私を気に入ってくれたからなんだろうけど。
普通というか、馴染みになってくれたお客さんは一~二週間に一回という間隔だったのに、今デートしているお客さんは一週間に二~三回なのよね。
私、そんなに喋らないし、馬車が嫌いだから遠出はしたがらないのに、何が楽しいんだろう。
いつもニコニコしているから満足はしてもらえてるんだろうと思うけど。
カメの獣相をしたお客さんなんだけど、オサガメのように巨体なんだよね。
熊の獣相しているオーナー兄弟も大きいんだけど、負けず劣らず大きい。
鼻が低くて上唇が薄いというか、鼻の下が長いというか、目も真っ黒でのっぺりとしてていかにも亀って顔。
亀っぽくて老けた顔をしているけど、実際幾つなんだろ。
こっちの人って獣相によって寿命が違ってくるから、本当によく分からないのよねぇ。
『人間』の私が長生きして百歳くらいだとすると、オカメちゃんみたいな小動物や小鳥系の獣相は五~六十歳くらいだし、大型の肉食系や猛禽系は百歳を超えるみたいだし、亀顔のお客さんはもっと長寿なんだとか。
オカメちゃんは短命だけど、こっちの一年って長いから日本というか地球なら普通になるのかな。
計算面倒だからしてないけど。
どっちにしても亀さんは長生きするタイプで私よりも寿命が長いってことは確かだね。うん。
亀さんとのデートは店の近所にある公園まで行ってぼんやり日向ぼっこが定番。
帰りにオシャレなカフェなんかに寄っちゃって早い時間ならランチをしたり、おやつタイムならお茶をしたり、時間が遅かったら高級レストランっぽい店でディナーをご馳走になったりとか。
これで日給一万プラスチップなんだから楽だわ。
楽なんだけど、亀さんって一体何者なんだろうか。
馴染みになってくれたあとの二人もなんだけど、ボディガードもどきがいつもついてくるのよね。
見るからに腕っぷしが強そうな護衛さんが、一定の距離を保ちながら後からついてくるのが何気に気になるんだけど。
外を出歩かないときは部屋の外で待機しているみたいだし。
上流娼館だから? ボディガード付きって、どんだけ金持ちなんだろ。
でも、私が貰う給料が一回百万相当なわけだし、お客さんが払う額はもっとなんだよね。
一回に幾ら支払ってるのか詳しく聞いてないけど、軽く二百万以上は払ってるよね?
プレゼントも結構良い物っぽいし。
洋服なんかも麻とか棉じゃなくて絹っぽい手触りだから、かなりいい額なんだとは思ってるけど。
う~ん、謎だ。
このあいだ亀さんから貰った煙管はやけに意匠の凝ったものだったしなぁ。
一緒に葉も貰ったけどこれもかなりお高そうだった。
煙草みたいに葉を乾燥させているのは安いんだけど、生葉は鮮度がよいほど高いんだよね。
ブレスケア感覚だから、生葉を噛むタイプもあるし。
火で燻すと口の中に香りが残る葉っぱは数口吸えば済むから煙管で丁度いいのかも。
ミントタイプや花の香りシリーズとか色々あるけど私はバニラタイプが好きだなぁ。
猫系の姐さん達が集まると水煙草みたいな道具でマタタビでも吸ってるのか、ゴロンゴロンしているのは可愛いけどね。
暇なときは何となく煙管に手を伸ばしていたけど、最近はもっぱら鞭を持ってブンブン振り回してることが多くなった気がする。
…………。
あまり煙管は使わなくなったのにプレゼントしてくれたってことは、灰吹きとして利用してくださいというアプローチなんだろうか。
私、かなり毒されてきてる?