19.巫山の夢
よく言うよね。
巫山の夢って。
この店に来てから二年経ちましたよ。
良いんだか悪いんだか、仕事にも慣れてきたし馴染みとなってくれた固定客も二人ついてくれたし、月日が経つのは本当に早いよねぇ。
寝苦しい夜に呼びつけて一晩扇いでもらって更に百万貰っちゃったりとか、ほんとすみませーんって感じ。
デートするときも移動は馬車だし、道は当然石畳とかでデコボコしてるもんでお尻が痛くなるから、馬車の中で四つん這いになった背中へ乗せてもらうとかね。
ほんと、すみませーん。
以前に比べたら店の外へは出るようになったよなぁ。
まぁ、お客さんとデートするときくらいなんだけどね。
相変らず出不精だから、服とかの装飾品はもう直接お店に来てもらって買い物してるし。
プレゼントとかも貰えるようになったから、貯金が少しずつ増えているのが最近の楽しみ。
タンス貯金なんだけどね。銀行作ってくれないかな。無理だろうけど。
衣服もかなり溜まってきたし、順調にお金も入ってくるようになったんで、貰う給料から少しずつ借金も天引きしてもらってるから、自由の身になるのが少しは早くなるかな。
西のお店での仕事にも慣れてはきて、南のお店に戻れる日はいつなのだろうかとぼんやり思ってたら戻れないことが確定したみたい。
南のお店から一緒にやってきた姐さん妹分達は、私も合わせてこれからもこのお店に居つくことが決定したし、オーナー弟もお店畳んで本格的にオーナー兄と共同経営になったって話だし。
共同経営という割にはオーナー弟は出入り激しいので、新しいお店を作る物件を探しているのかも。
南の国、お店があった街は軍港も兼ねてたから特に激しかったみたい。
王都は街から離れた場所にあるんだけど、そっちはそっちで大変みたいだしね。
先日、中央の国が間に立って和平条約? でいいのかな。取り合えず戦争は終結したらしい。
そうなると気になるのが駄犬を始めとしたお馴染みさん達で、特権階級なんだか上流階級なんだかは分からないけど、西のお店に移動する前から顔を見せなくなったから王都に行ってるのか戦争の後片付けで今は忙しいのかもしれない。
前線に出て戦ったりはしてないと思うんだけど、みんな無事だと良いなぁ。
なんて思っていたら、新たにお馴染みとなってくれるお客さんが来たって連絡がきましたよ。
最近は新規のお客さんと会ってないし、デートを重ねているお客さんもいないんだけどなぁ。
いきなり馴染みになってくれるってどんなんだと思いながら部屋に行ってみれば締まりのない顔をした駄犬がいるんですけど。
心配していた私の健気さを返せ。
そのだらしない顔はなんだ。
というか、何でアイパッチしてんだ。
カッコイイだと? ふざけるな、ボケナス。
ちょっと何それ、何で怪我なんてしてんのよ。
左目見えなくなってんの? え、見える? じゃぁ、何でアイパッチしてんのよ。
カッコイイ? 黙れ、馬鹿っ。
傷が見苦しいって……まぁ、額から頬にかけてバッサリやられちゃってるねぇ。
目は平気だったんだ? ふぅん……痕は残っちゃったけど、もう傷は塞がってるんだね。
って、何よ。何で人の顔を見てニヤけてるわけ?
安心とかそんなんじゃ…………っ……だ……誰の許しを得て勝手に傷をつけてきたーっ!!
そこへ直れ駄犬がぁっ! 貴様が誰の物なのかしっかり躾けてやるわーっ!
ちょ……ちょっとだけ燃えてしまった。
悔しいっ。




