17.失敗は成功のもと
よく言うよね。
失敗は成功のもと って。
あれから半年――――女豹姐さんの研修を受けて半年、若しくは無職になって半年というべきか。いや、職にはついているから無給になって半年が経過したが正しいか。
どちらにせよ、半年が経ってるのよ。半年といっても三六五日の半分じゃないんだよね。
あっちは一日二十四時間三六五日を十二ヶ月に分けられてたけど、こっちは一日三〇時間で三十日が十五ヶ月で一年四五〇日らしいのよね。多分。
日本にいたら今頃三〇はとっくに過ぎてんだろうけど、こっちの歳に換算しなおすと今何歳になるんだろ……永遠の十八歳くらいかな。
一人でボケてツッコミされない虚しさにも随分と慣れたもんよねぇ。
そんなことはどうでもよくて、給料ないまま半年も経ったからそろそろ貯金残高が心もとない。
出不精だから買い物はそうでもないんだけど、何気にじわじわと貯金を切り崩されて残り千円切りましたよ。やばい。
本気でやばい。
女豹姐さんからは心構えの教育から始まり、アイテムの扱いやら大道具の扱いやら、獣相ごとでの急所の違いとか、加減の度合いとか、それはそれは微に入り細に入りと教えて頂きました。
そんな所を叩いたり蹴ったりしたら使い物にならなくなるんじゃないかって所は特に念入りに教えて頂きましてねぇ…………ふふ。
女豹姐さんの下僕を借りて練習したんだけど、へっぴり腰で叩いたりするから何度怒られたことか。
特別に痛いのが大好きな下僕さんだったから、変にとんでもないところに当たったりしたときはのた打ち回って悦んでたけど。
動物タイプのお客さんだと、皮膚が硬いとか柔らかいとか種類も多いし、お仕置きなんだかご褒美なんだかしらないけど、鳥黐みたいな液体を貼り付けて乾いたら一気に毛を引っこ抜くという手順とか、やって良い場所悪い場所なんかも教わりましたよ。
サービス講習にマナー講習もクリアして、技術面では合格点をやっとこもらえた。
言葉遣いと発音が綺麗なイグアナ姐さんからは共通語を教わり、且つ女豹姐さんからは主人として相応しい言葉遣いを叩き込まれたし。
イグアナ姐さんは少し虹彩が縦長気味で、頬骨の辺りに薄っすらと黄色い鱗が浮いているクールビューティーなんだよね。
そんな二人から一応の合格点は貰えたし何とか形にもなってきたってことで試しにお客さんと引き合わされたまではよかった。
初顔合わせでの挨拶のときに、足を突き出して『おにゃめ!』と噛んでしまったあの恥ずかしさと気まずさは一生忘れないと思うわ。
ナンなの『おにゃめ』って……自分でも流石にないわぁって思ったよ。
お客さんには『私のご主人様は噛んだりしませんっ』と泣きながら怒られるし女豹姐さんにも散々怒られた。
理想とする主人像を崩しちゃってごめんなさいですよ。
ちょっと噛んじゃっただけじゃん。と言い訳できればこんな苦労はしていない。
LとRの発音がちっとも正せない典型的な日本人そのもので、一年前に比べればかなり上達はしたんだけどまだまだなんだよね。
でも、この半年で日常会話には困らなくなってきた。
お金絡むと真剣さって違ってくるんだなってつくづく思うわ。
女豹姐さんからの哀れみの眼差しも最近では見なくなったのが嬉しい。
あと、北と南と西の訛りも区別できるようになってきたし、クァドリリンガルにランクアップか! と一人悦に入ってる。
とはいえ、仕事となるとまだまだ駄目だし。
いや、でも流石に噛んじゃった件では反省したけどね。
イグアナ姐さんに言葉を教えてもらいながら私もそれなりに考えましたよ。
そう。喋るから駄目なんだと。
喋んなければ良いんじゃん!
私、主人だし! 主人からの命令を待ってるとかって有り得ないし! 主人の気持ちを察してこその奴隷じゃない?
私が口を開く前に行動しろ!
これだ!!
ちょっと、今日の私ったら冴えてない?
女豹姐さんに相談だ!
怒られた。




