16.運根鈍
よく言うよね。
運根鈍って。
女豹がいます。
…………。
鞭を持った女豹が目の前にいます。
豹の獣相をした姐さんが研修期間中の教師となってくれるようです。
よろしくお願いします。と頭を下げたら、持ってた鞭で後頭部をペンペンされました。
いえ、一応挨拶は基本かと。すみません。金輪際、二度と頭は下げませんっ。
黒豹ではなくて普通の方、金の毛に黒斑の豹なんですね。
顔や体のラインは人間で、豹の耳と尻尾にが生えているとコスプレっぽい。
あ、背骨のラインにも毛が生えてるんですね。
しかし、ボンッキュッボンッな体してるなぁ。
肉感的な姐さんだ。
ロイヤルブルーのドレスは正面からだと首から足首まできっちりと覆っていてお堅そうなのに、背骨を覆う毛皮はスリットからチラチラしてて何だか色っぽくみえる。
こっちの世界はオーナー兄弟みたいに体が動物なんて人もいるから、露出度の高い服よりもきっちりと服を着ている方がそそられるらしいんだよね。
チラリズムか?
オーナー兄なんてジャケットは着ているけど、人間なら真っ裸にジャケットだもんね。
下半身丸出し。露出狂もいいとこだ。
駄犬共がくれた服も、アレ何て言うんだっけ……ラバーでできた全身タイツ。貰ったのは皮製だったけど。
どんな罰ゲームだよと。嫌な思い出だ。
ジロジロと見るな? あ、すみ……いえ、お姐様の美しさに魅入ってしまいました。これは合格ですか。
本日は、心構えを教えてくれるそうです。
きゃつ等を下僕と思え。奴隷として扱え。えぇ、よく言いますよね。
そうではない?
主の姿をその目に映すだけで僥倖と思えるよう躾けろ、ですか?
自分を知っているので僥倖とかそんな自惚れ……あ、鞭怖いですっ! 僥倖と思え! これですね!
仕えさせてやっているのだから感謝の気持ちを忘れさせるなですか……はぁ。
はいっ! 感謝しやがれですねっ!
……溜息つかれた。
先に奴隷の心構えから教えてくれるそうです。
奴隷は主人に仕えることを喜びとし、仕えるのではなく仕えさせて戴いてるという気持ちでなければならないと。
ふむふむ。
使って戴けることに感謝をしなければいけないんですか。
奴隷も大変……ひぃっ! 当然ですよねっ!
いついかなる時でも主人が呼べば駆けつけられるようにすべき……ここ娼館というか相手お客さ……っ! あの駄犬を呼びつけてやりますともっ!
鞭で床叩くの止めてもらえないだろうか。
きついタイプの美人だから鞭持ってるだけでも迫力満点なのに。
はいっ! 上の空だなんてとんでもありませんっ! 一言一句聞き漏らすことなく肝に銘じております!
奴隷は主人の命令には絶対服従で、無理難題だろうと努力しなくてはいけないと。
主人へ微塵も負担をかけてはいけないし、不快にさせてもいけない。
もしや! 全身タイツはお仕置きへのプレリュードだったのかっ?!
えー……奴隷は主人の所有物なので、主人の許しもなく勝手に体へ傷を作ってはいけない。
まぁ、この辺なら多分大丈夫かな。
奴隷は何事も求めてはならず、主人が与えるものはどんなことであっても感謝しなくてはいけない。
……なんか、色々と自分を勘違いしちゃいそうなんだけど。
というか痛いことをするだけじゃないのね。
えーっと、つまり……奴隷に対しては天上天下唯我独尊で傍若無人であれ。
こういうことでいいのかしら。
頷いてくれたから良いみたい。
しかし、何で私が喋るたんびに可哀想な子を見る目で見るんだろうか。
心構えよりも先に言葉をどうにかしないとですか。
そんなに訛ってるのかな。
え? アホな子みたい?
えっ?!