14.始めが大事
よく言うよね。
始めが大事って。
ミミズもどきから何とか逃げ切った二日後に西の国の国境を越えて、それから更に四日掛けてオーナー兄が経営している娼館に辿り着きましたよ。
遠かった。もう絶対馬車には乗りたくない。
十三日間ずっとヘッドバンギングだわ、逃げるときは疾走しすぎてヘビメタのライブかって感じだし、頭振り過ぎで脳みそ崩れるかと思った。
ムチウチになってないと良いんだけど。
お尻も腰も痛くなったのは馬車のせいで、けっして歳のせいではないはずだ。
ミミズもどきの後は至って普通で……いや、普通でもなかったかな。
国境の検問でちょっとすったもんだしたんだっけ。
国境なんて一応それなりに賑わってはいるといっても留まる場所ではないし、どことなく野暮ったいらしい。
兎姐さんは肌の色も白いし、髪も真っ白、目が赤い可愛いタイプの美人だし、私は珍しい『人間』ですから? 検問時に通して欲しければサービスしてよとあったわけで、まぁ役立たずの私でよければと腰を上げたら、兎姐さんに懇々と説教されました。
別に見ず知らずの方とほいほいするほど大好きなわけじゃないんだけど、今更だし一回くらいだしそれで事が済むならと思っただけなんですがね。
自分を安売りするなと。
いくら身を売る商売とはいえ、ばら撒いてどうする。高い商品であるという自覚を持てと。
売るなら高く売れとか、娼婦についての心構えというんですか? そんな説教を正座で聞かされましたよ。
えぇ、ごもっともです。ごもっともなんですが。
兎姐さんは獣相が少ないタイプでかなり『人間』に近い。
上唇が少し割れてて猫のふぐ……いえいえ、そう! オメガの記号みたいに可愛らしい口をしてるんだよね。
私よりも小柄で目もくりっくりで大変可愛い方なんだけど、真面目な顔をして説教とか似合わない上に、そのふ……でなくて割れた唇が柔らかそうなのがまたなんとも言えないというか、フニフニしたいなとか。
説教されている間、モグモグする口から目が離せなかった。
けっしてそういう趣味は持ってない……はず。
結局、私が説教されてる間に護衛達は頑張ってたけどラチが明かず、兎姐さんが話をつけてくるからと出かけて一晩。
戻ってきたときは、やけに艶っつやで上機嫌だった。
その代わり、検問の人達はゲッソリしてたけどね。
単に自分が……と思わなくもなかったが、そこは兎姐さんを立てる分別くらいは持ってるよ!
兎姐さんはこの仕事が性に合ってるといって働いている珍しいタイプだしね。
足止め食ったのはそれだけで、後は幾らか舗装されてマシになった道を進んで到着したのが地方の中小都市並に賑わっている街。
一番最初に世話になった売春宿はうらぶれた田舎って感じで、次に世話になったオーナー弟の娼館は賑わっているリゾート地って雰囲気だったんだけど、ここは都会って感じがするなぁ。
同じ石造りの建物でも、オーナー弟の店もそうだったんだけど、白い壁が基本で赤や青や黄色とカラフルな屋根が地中海風で、こっちはヨーロッパ風の石造りなんだね。
見た目が重厚。
天気いいとそうでもないけど、雨降ったらどんよりした感じがイギリスっぽく見えるような?
前のところは暑い気候もあってか道行く人達の服装もラフだったけど、こっちは少しフォーマルっぽいなぁ。
アロハみたいな軽いシャツじゃなくて、もう少し厚手のシャツを着ているし、何となくオシャレに見える。
同じ陸続きでも南と西では随分街の雰囲気も違ってくるもんだなぁと。
まぁ、当たり前か。
出迎えてくれたオーナー兄は弟によく似ていて、弟のナンパで明るくて甘い雰囲気がイタリアンっぽい雰囲気に比べて兄はゴツ可愛い感じだ。
但し、熊だけど。二足歩行できちゃう熊だけど。兄弟揃ってゴツいけど。
顔が大きいのに目が小さくて円らなのが可愛い。
たまにいるよね。ごっつい体型でちょっと強面なのにマッチが睫毛に何本も乗っちゃうような男の人。
赤いジャケットでなくてミニTシャツに蜂蜜のツボを小脇に抱えて毛も黄色くすれば忽ち子供達に大人気となるに違いない。
一部の女性からも大人気となる事請け合いだ。
ミノちゃんと少し話した後に私達のところへ来たのはいいが、何で私だけお菓子を貰って頭を撫でられるのだろうか。
一応、これから世話になるので頑張って挨拶したご褒美か?
兎姐さんとは熱い抱擁とベーゼだったのに。
目の前で頬をもごもごさせる熱いのは勘弁して欲しいの。
いや、して欲しいわけではないけれどね。何となくね?
一瞬、兎姐さん食べるのかと焦った。……別の意味で召し上がるんだろうなぁって感じではあったが。
馬車が横付けされたのは建物の裏口で、中へどうぞと通されたんだけど、裏口なのに豪勢な作りをしてた。
後でこっそり表玄関も見せてもらったけど、大きなホールで開放的だし豪勢なシャンデリアがぶら下がってて眩しかった。
ランクで言ったら上級の娼館になるらしい。
そしてそして! 棲家がグレードアップしたっ!
勿論、客室私室は別ですよ! 備え付けの家具も、普通の家具からオシャレなデザイナーズ家具っぽくなってる。テンション上がる!
着いたばかりだからと三日間お休みももらえた! オーナー兄良い人だ!
護衛達は三日後にオーナー弟の所へ戻るんだって。
他の姐さん達を連れてこなくちゃいけないしね。
リス姐さんの事はアレ以来誰も口にしてないからそういう事なんだろうと思う。
気の毒だとは思うし薄情だとも思うが、どうしてあの時って後悔するほど余裕なんて誰も持ち合わせてないからいつまでも引きずっていられない。
仕方のないことだったんだって気持ちを切り替えなければやっていけないし。
取り合えず、これから世話になる姐さん達へ挨拶回りをしなければ。
後で、ミノちゃんに付き合ってもらってお菓子を買ってこよう。
媚びるわよ!