歌姫
君は救いの歌を歌ってくれる。
内側から闇を引っ張り上げて、汚れを丁寧に削いでくれるような歌声で、僕を安心させて欲しい。
君の歌声を初めて耳にした時、僕は人間ではなく、魔物だった。
醜く草木の中に隠れ続け、光を知らないゴブリン。それが僕の本質だ。僕には何も無い。目を見張るような魔力も、周囲を惹きつけるカリスマ性も、何度やられても立ち上がる闘志も。何かがあるとしたらーーそれは生きているという事実だけだ。僕がこの世界に存在していても、誰も僕のことを必要としない。いてもいなくても変わらない。それが僕だ。その認識は今も変わらない。君の歌と出会えた今もーー。
しかしそんな僕を、君の歌は許してくれる。
本当に申し訳なくなるくらい優しく、
柔和な歌声で。
何言ってるの。
貴方は顔の泥を拭わずに
貴方は今、私の歌を聴いてくれているじゃない。
背を曲げて立っているけれど
歌は誰かの耳に入らなければ、
たとえ泥を拭わなくても、貴方は素敵だと
歌として成立しないの。
そう言ってあげることができたなら
だから今この歌は紛れもなく、
少しでも貴方は頬を緩めて
貴方が完成させたのよ。
笑顔になってくれるでしょうか
…今僕は、人間に戻ることができた。
君の歌の魔法のおかげで、たった一瞬だけでも。
それにどれだけ救われているか、
今後の僕の行動で、
証明していきたいと思う。
そしていつかは、君の歌に救ってもらうんじゃなくてーー
純粋に楽しみながら、君の歌に聴き入りたいんだ。




