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過剰なまでのストーキングとボディーガードを兼ね備えた男

作者: 澤西雄二郎
掲載日:2026/09/05

この街に大型のショッピングモールが出来上がる話は、なにも唐突ではなかった。

だれも、それに異を唱える者もいなかった。

そう、いなかった


工事は着々と進んだ。

そのころだったと思う。

工事現場の近くの公園でみすぼらしい少年が現れるようになった。

年はおそらく10代前半ほどだろうか

服は全体的に黄ばんでおり、袖口もヨレヨレだった。

いつもベンチに座り、口を開けぼーっと僕たちの方を見ている。

ただそれだけ

こちらに特に干渉してくることなく、半年がたち、いなくなった。



そして工事着工から一年

ついに大型ショッピングモールが完成した。

連日大賑わいで、店はえらく繁盛したらしい



半月が経ってあるうわさが流れた

『西のエレベーターの3から4階に上がるときに知らない少年が乗ってきて食べ物を盗む』

というもの

少年というのは、非常にみすぼらしい男で、全身黄ばんだ服装でずっと薄ら笑いを浮かべていたらしい

そこで警備会社が少年を捜索したが、発見できず一時的に西のエレベーターが封鎖された。



さらにその日の朝、三階の日用品売り場で棚が倒され、商品が散乱する事件が起こった。

監視カメラの映像では、深夜の2時にみすぼらしい少年が商品棚を倒して回る映像が記録されていた。

被害届を受理した警察は、ついに本腰を入れて調査を開始した。

しかし、何日経っても少年を逮捕どころか、見つけ出すこともできず、また新しい被害が増える一方だった。




私はメモ帳を手に近所のスーパーで買い物をしていた。

次の目当ては牛乳だ。

弟の春谷が失踪してから2週間

母は家事はおろか、起きている間ずっと泣いて、他の時間は寝たきりになった

父は会社を休み、マスメディアの取材を受け、自分でうわさや、目撃情報があった場所に行ったり、春谷をさがしている。

私も父に協力しているが、母が無力になった今、家を回すのは私しかいない。

こういった家事や買い物もすべて私が担っている。

過去の母には感謝の毎日だ。

こんにも大変な家事を毎日しているなんて、昔の私だったら考えられない。

今は、まぁ

今の母に思うところもあるし、家事も毎日楽しいと思えるようになってきた。

「に、西岡さん」

なんだ、こいつ

よく見ると、同じクラスの相沢浩じゃないか

いつみても平凡な顔をしている

しかも制服.......

悪いとは言わないが、この時間帯

それにさっきからの気配はこいつか

私に話しかけるのに2分か3分は迷ったな

「.......たの?」

しまった、

何も聞いてなかった

「ん?」

「あ、いや、その....春谷くん....だったっけ、だ、大丈夫なのかな.............って、それだけ」

絶対に違う

こいつ、面倒くさいな

語尾からして絶対に違うだろ

「うん、毎日心配だけど、私もくよくよしてられないからね」

「そっか…西岡さんはつ、強いね」

「そうかな…」

マジで面倒くさいな

こいつ

大好きな西岡さんと話ができて超ハッピーってか

マジでくそだるい

こんなやつとの会話いつ切り上げてもいいんだが、周りがいる

私はいつだってそこそこいい人間でありたい

ネットで文句を言っても、文句を言ったことに対する文句が出ない程度にはいい人間でありたい

「じゃあまた明日」

「う、うん!また明日」

よし、さっさと帰ろう

私はようやく目星だった牛乳に手をかけた

こんなままじゃいけないとわかっているのにな



.............ゾクッ



なにか再び跳ねた、そんな気がした





家に帰っても明かりはついてない

父は埼玉の北部にいる

春谷はそんなところにはいないのに

春谷の居場所を知っているのは、春谷と私と母親とクラスメイト20人

クラスメイトと言っても私のではなく、春谷の

ジャガイモの皮をむく

春谷は簡潔に言うと「転生」したのだ

恐ろしい出来事であった

鍋に水を入れ、火にかける

ニンジンの皮をむき、ジャガイモと一緒に鍋に入れる

冷蔵庫に入っていた肉を取りだす

春谷は教室で死んだ

鍋にコンソメを入れる

あとここですりおろしにんにくを入れるのが西岡流

母が馬乗りになって春谷を殺した

クラスメイトも死体に向かって石ころを投げた

私は春谷の大好きだったマシュマロを供えた。

そして解凍した肉を鍋に入れる

春谷は強い男だった

母に30発は殴られたというのに死ななかった

ゆっくり鍋を混ぜ、母を呼ぶ

まぁ来るわけなどないが

春谷は強い男だった

文房具が右目に直撃したというのに、そのつぶれた眼球でこちらをにらんでいた

本当は玉ねぎがあればよかったのだが、春谷が取って行ったか

春谷は甘かった

マシュマロを供えるとすっと消えた

春谷は手のかからない、とてもいい子だった

姉の私としても誇らしいほどだった

私の春谷はそこまでだ

今の春谷は春谷ではない

今はどこにいるか

彼は今、母の体内にいる

体内と言っても、腹部を無理やり嚙みちぎって入っていった





教室には春谷とクラスメイト20人と母と私がいた

ここでの私は暇つぶしのモブBであった

母はPTAの役員をしていたため、たまたま学校に足を運んでいた

そこで春谷はどこからか持っていたガラス片で首を掻き切った。

クラスが悲鳴で包まれた

それと同時に窓の外の景色が紫の渦ねじれた景色に変わった

春谷は半狂乱、床を飛び回り自分を執拗に傷つけた

母は咄嗟に春谷を抑えるために、馬乗りになった

しかし春谷はそれに従わず、反抗とばかりに母の腹部や、胸部をかんだり、殴ったりした。

そこで仕方なく、母は顔面を複数発殴った。

しかし母は押し返されてしまった。

そしてゆっくりと立ち上がり、一人の生徒に向かって歩き出した。

その生徒は自分の身を守ろうと、後ろに尻這いをしながらいろいろなものを投げつけた。

一本の鉛筆が春谷の右目を正確にとらえ、深く刺さった。

私は嗚咽感を覚えた。

その目で私をにらんだ

そこで春谷は倒れた

仰向けだった

そこから春谷は春谷でなくなった

気づくと春谷の姿はおろか、血痕も荒れた机もなにもかもがなかった

残ったのはとした顔の私と母とクラスメイトであった

あの狂気から戻ってこれた安心感

春谷を失った絶望感

数分後、学校に警察がやってきて。春谷の居場所に心当たりがないか尋ねた

誰も違和感には気づかなかった。

この数分間、誰一人、警察には連絡していないのだ

そんなことは当時の私たちは気づくわけもなく、みな必死になって春谷を探した。

その日の晩、母の元を彼が訪ねた

刹那、母の腹部は食い破られ母は泣き叫び、ベッドにうずくまった。

そして眠りについた

春谷のクラスメイトは彼が、「あれは出来の良い夢であった」と言いまわっていた。





私ももうじきダメになる

そんな気がする


ガチャ


父だ

「おかえり」


バチン


「てめぇ!お前は弟がいなうなったっていうのに、なんだその態度は!少しは悲しんでやれないのか、母さんだってああなっているといるというのに!!」

胸ぐらをつかまれ、頬をぶたれ、床に乱暴に投げられる

キッチンに向かい、鍋の料理を乱暴に蹴り飛ばす

あぁ

だめだ

「おねがい.............やめて.............」

「今更めそめそ泣きやがって!!‼都合のいい時だけ泣くのは」







赤い血しぶきとともに、目の前に父の首が転がった

階段には彼が立っている

口元はやや赤い

「ごめんねお父さん」

私は父の額にそっと唇と近づける

「.............」

父の顔は、彼の鋭利で長く伸びる舌のせいで壁に飛んで行った

私は仕方なく、料理で汚れた床を掃除する

せっかく作ったのにな。






彼に気づいたのは、1年半前

顔にできたできものに腹が立っていた

鏡を見るたびに思い出し、腹がった

すると頭上から何か触手が伸びてきた

私は驚きしりもちをついたが、その触手はできものをきれいさっぱり無くしてどこかに行ってしまった

そして、学校からの帰り道、工事中のショッピングモールの横を通りかかった

この工事のせいで私がいつも使う抜け道が使えなくなったことをぼやいた。

彼は私のことをストーキングしていた

24時間365日

彼は人間ではない

別の何かだ

1年が経ち、いろいろ分かった

私が不快感、苛立ちを感じたものに対し、攻撃的になり、その原因を取り除こうとする。

私が好意を示したものに対し、嫉妬、攻撃を行う

私のボディーガードとでもいうのだろうか

一体こいつはどこからやってきたのか

ちなみにこいつが原因で私が把握しているうちでだが、42人が負傷、19人が体調不良を起こしている

そしてある日を境に、彼の攻撃性が上昇した

きっかけは些細である。

私に好意を向けていたクラスの男子が告白をしてきたのである

その男子はその場で死亡した

このときはさすがに血の気が引いたし、吐き気がした。

その時は通り魔に刺されて死んだ

と公表されたが、そんなわけない

犯人も彼がでっち上げたもの

さらに範囲も広がった

ショッピングモールの前でたむろする中学生を見つけた

最近このショッピングモールが出来上がってから治安が少し悪化した、そんな気がした

するとその次の日、あるうわさがクラス中をめぐった

『西のエレベーターの3から4階に上がるときに知らない少年が乗ってきて食べ物を盗む』

最初は、また治安が悪くなったのか。

そう思い、ショッピングモールに対する不快感を強めた

するとその日の晩、日用品売り場で棚が倒され、商品が散乱する事件が起こった。

彼がやったのだ

そう直感的に思った。

いつもだったら私の体の範囲内でしか行動を起こせなかったのが

彼が成長している

そう思った瞬間だった

そこから数日

歯車が完全に壊れてしまった

母の付き添いで学校にいる最愛の弟に会いに行った

結果がこうだ。

今、彼は春谷の皮をかぶり、母をむさぼり殺し、父の首をはねた

今日も一人死んだかな

まぁあいつは仕方ない

正直気持ち悪かったからな

彼が春木の皮をかぶるようになってから、より一段階狂暴性、見境がなくなった

だからなにに対しても、ニコニコしていたのに。

私の感情の変化という大義名分を掲げて、彼は森羅万象を破壊する

以前自殺を試みた

失敗に終わった

彼は私に何もしてこない

ストーキングと過剰な防衛だけだ

こいつの目的は何なのか。

一体私が何をしたというのか。

考えるだけ無駄である

私は力なくソファに倒れこみ、眠りについた




朝、悲鳴で目が覚めた

足元の白色のカーペットは赤色に染まっていた

前には、血にまみれた警察官と春谷が立っていた

外には拳銃を構え、私の家を包囲する警察官の姿があった

私はそっと立ち上がり、冷蔵庫に入っていた豆腐を取り出した

こんな日には冷ややっこを食べよう。

「.............」

ふ

ふふふ

少し味がした

何もつけていないはずなのに

ただ、ただそれだけである


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