「殿下、証拠はもう全部揃っておりますの」神様の気まぐれで三日前に戻ったので、次こそ断罪する側に回ります!~三日間のやり直しで、立場を丸ごと逆転させました!?~
「フィリシア・オーウェン! 貴様との婚約は、本日をもって破棄する!」
大広間に響き渡る第一王子アルヴィンの声。証拠もない浮気疑惑を理由に、わたくしは公衆の面前で断罪された。
(――理不尽にもほどがありますわね......)
抗議の言葉を口にしようとした、その瞬間だった。目の前が真っ白に染まり、気づけばわたくしは自室のベッドで目を覚ましていた。
「――あら?」
侍女に日付を尋ねると、返ってきたのは断罪された日から三日前の日付だった。
「神様の気まぐれかしら? 理由は分かりませんけれど、これは好都合ですわね」
戸惑いよりも先に浮かんだのは、静かな闘志だった。三日後に何が起きるか、わたくしは既に知っている。ならば、今度はこちらから仕掛けるだけの話である。
「お嬢様、顔色がすぐれないようですが大丈夫でしょうか?」
心配そうに尋ねてくる侍女のアメリアに、わたくしは静かに首を振った。
「大丈夫ですわ。むしろ、随分と久しぶりに闘志が湧いておりますの」
「は、はあ……何やらよく分かりませんが、承知いたしました」
困惑気味に頷くアメリアを横目に、わたくしは早速、これからの三日間の計画を頭の中で組み立て始めた。前回の人生では気づけなかった伏線の数々を、今度こそ余さず拾い上げてやるつもりである。
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一日目、わたくしはまず、断罪の証言者となる男爵令嬢ベアトリスの動向を探ることにした。
「アメリア、少し調べてほしいことがございますの」
信頼できる侍女に指示を出しながら、わたくしは前回の記憶を辿った。ベアトリスは“浮気の証拠”として、偽造した密会の手紙を提出していたはず.....
「お嬢様、一体何をお調べになるおつもりで?」
「ベアトリス様の最近の行動を、それとなく探っていただきたいですの。何か、普段と違う動きがあるはずですわ」
「畏まりました。ですが、何かご存知のことがおありなのでしょうか......」
「――勘のようなものですわ。当たっていれば、儲けものですもの」
適当に誤魔化しながら、わたくしはアメリアを送り出した。前世の記憶を持ち出したところで、信じてもらえるはずもない。
「お嬢様、ベアトリス様が最近頻繁に筆跡鑑定士のもとへ通われているようです」
翌日戻ってきたアメリアの報告に、わたくしは思わず口元を緩めた。
「あら、随分と分かりやすい伏線ですこと」
前回の人生では気づかなかった行動が、知った上で見れば滑稽なほど露骨に映る。わたくしは密かにベアトリスの立ち回り先を見張らせることにした。
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二日目、決定的な瞬間が訪れた。
「――これで、フィリシア様の筆跡そっくりの手紙が完成いたしますわ」
物陰から様子を窺っていたわたくしの耳に、ベアトリスの得意げな声が届いた。
「あら、ご丁寧にお仕事なさっていますこと」
「なっ……!? フィリシア様、なぜここに!?」
「あら、偶然お散歩をしておりましただけですわ。それよりも........随分と器用な筆跡鑑定士をお雇いですのね?」
わたくしが涼しい顔で声をかけると、ベアトリスは分かりやすく青ざめた。
「こ、これは、その……」
「言い訳はよろしいですわ。それより、この偽造の手紙、後学のために一枚いただいてもよろしいかしら?」
「な、なぜそんなものを――」
「証拠品として、大変重宝しそうですもの」
「わ、わたくしを脅すおつもりですの……!?」
「脅す、とは人聞きが悪いですわね。ただ、自分の身に降りかかろうとしていた濡れ衣の証拠を、丁重に保管させていただくだけですわ」
にっこりと微笑むわたくしにベアトリスは完全に言葉を失っていた。抵抗する気力も失せたのか、震える手で証拠の一部をこちらへと差し出してくる。
ーーー実に呆気ない幕切れである。
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三日目、運命の断罪の日。大広間に集まった貴族たちの前で、わたくしはアルヴィン殿下の宣言を待たずに、自ら一歩前に進み出た。
「殿下、婚約破棄のお話をなさる前に、一つご報告がございますわ」
「な、なんだ、藪から棒に.....」
戸惑うアルヴィン殿下を前に、わたくしは証拠の束を掲げた。
「本日、殿下が『証拠』として提出なさる予定の浮気の手紙......実はこちらのベアトリス様が、筆跡鑑定士に依頼して偽造なさったものですの」
会場がどよめく。ベアトリスは真っ青な顔で立ち尽くしていた。
「な、なぜそれを、フィリシア様が――」
「あら、随分と迂闊な独り言を、物陰で漏らしていらっしゃいましたもの。それに.....こちら、偽造の練習用に破棄なさった下書き、ご丁寧に回収させていただきましたわ」
証拠の下書きを掲げると、ベアトリスはとうとうその場に崩れ落ちた。
「そ、それでも、殿下は私を信じて――」
「あら、殿下が信じていらしたのは、まだ提出されてもいない手紙の存在ですわよね? 殿下、まさか、証拠を見る前から結論をお決めになっていたのかしら」
矛先を向けられたアルヴィン殿下は、しどろもどろになりながら答えに詰まった。
「わ、私はただ、事前に報告を受けていただけで……!」
「事前の報告だけで婚約破棄を決意なさるとは、随分と拙速でいらっしゃいますこと。次からは、証拠が本物かどうか、せめて確認してからになさった方がよろしいですわね」
「し、しかし、ベアトリス嬢の証言には真実味が……」
「真実味があるように仕立てるのが、偽造の目的というものですわ。殿下、その論理では上手な嘘には全て騙されるということになってしまいますけれど......よろしいのかしら?」
淡々とした指摘に、アルヴィン殿下は完全に言葉を失った。
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「――というわけで、婚約破棄のお話は白紙に戻していただいてよろしいかしら?」
会場を見渡しながら、わたくしは静かに締めくくった。
「本来、断罪される予定だったのはわたくしですけれど、証拠を精査した結果、罪に問われるべきはこちらのお二方のようですわね」
ベアトリスは声もなく泣き崩れ、アルヴィン殿下は真っ青な顔で立ち尽くすばかりだった。
手のひらを返すのはいつだって早いもので、先ほどまでこちらを蔑んでいた貴族たちの視線が、今度は二人へと一斉に注がれる。
「フィリシア様、随分と手回しがよろしいのですね」
会場の隅で成り行きを見ていた宰相が、感心したように声をかけてきた。
「あら、たまたま準備が整っていただけですわ。三日ほど、色々とございましたので」
「三日、ですか。随分と手際の良い三日間だったようですね」
「ええ、それはもう.......随分と密度の濃い三日間でしたわ」
意味深に微笑むわたくしに、宰相は不思議そうに首を傾げていた。三日前に戻ったなどと説明しても、誰も信じてはくれないだろう。
「して、殿下とベアトリス嬢の処遇はいかがなさいますか?」
宰相の問いに、わたくしは軽く肩をすくめた。
「わたくしから多くを申し上げる立場ではございませんわ。ただ、証拠を確認せず断罪なさった殿下には、今後もう少し慎重さを身につけていただきたいものですわね」
「.......肝に銘じておきます」
宰相の言葉に頷きながら、わたくしは静かに踵を返した。
「さて、次に人生が巻き戻ることがあれば、今度はもう少し優雅に過ごしたいものですわね」
独り言ちながら、わたくしは静かに会場を後にした。理不尽な断罪から始まった三日間は、こうしてまさかの返り討ちという形で幕を閉じたのである。
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もし次に巻き戻りが起きたら何が起こるのか、アルヴィン殿下とベアトリスのその後など、まだまだ書きたいことがございます。よろしければ作者フォローもしていただけると幸いです!
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