表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『置き配の怪談』—捨てられない過去—  作者: 説人


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/6

◆六日目・告白・エピローグ七日目◇

 ◆六日目・告白◇


 朝になって目が覚めると、玄関から義母の声がした。

 スマートフォンで時間を確認したが、約束の時間よりも早い。


「登美子さん、不用心ね、鍵が開いてたわよ。あら、どうしたの?電気は?」

「あ、昨日、寝てしまって。いつの間にか……たぶんブレーカーが落ちてるんです」

「あらま、ブレーカーはどこにあるの?」

「私がつけます。座っててください」

 登美子はブレーカーを上げ、電気を回復させた。


「電子レンジとか、いろいろ同時に使うとたまに落ちちゃうんですよ」

「あるある、気にしないでいいのよ」

 義母はそう言って、テーブルの上に荷物を置いた。


「お義母さん、それ……」

「ああ、これ、あなたよく通販で買い物するのね。玄関前にあったのよ。置き配は便利ね。いつも何を買ってるの?開けていいかしら?」

「あ、どうぞ。でも、何も入ってないと思います」

「あら、どういうこと?」

 そう言って義母は箱を開けた。しかし、登美子が言う通り、中には何も入っていない。


「本当ね。何も入ってないわ」

 義母は不思議そうに箱を持ち、くるくると手で回して何かないか探していた。


 箱が開くと登美子にだけ声がささやく。


 『ねえ、なんでボクをころしたの?』


 登美子は驚き、力が抜け、床に崩れ落ちた。

「違う!私は殺してない!あなたは最初から……」


「登美子さん、何を言ってるの?」


「お義母さん、ごめんなさい。突然涙が出てきて……でも、大丈夫ですから」


 登美子は全てを打ち明けることは出来なかった。

 幸せな生活が目の前にある。

 それを壊したくない。


「そう。あなたがそう言うなら、深追いはしないわ。明日は洋司が出張から帰ってくるから、泊まっていくわね」


「はい。お義母さん。いつもすみません」


 義母は優しく微笑んだ。


「あ、そういえば……洋司さん、昨日連絡したんですが、まだ返事が来なくて。お義母さんの方には何か連絡ありましたか?」

「いいえ、何にも。おかしいわね。私から電話しようかしら?」


 登美子のスマートフォンが鳴った。


「あ、お義母さん!洋司さんです!出ますね」

「噂をすればね」


 登美子は笑顔でスマートフォンを耳に寄せた。

「もしもし、洋司さん?」


「ああ、俺だよ登美子。連絡が遅くなってすまない」

「心配したわ。でも繋がって良かった」

「ところで昨日、どこに行ってたんだい?」

 夫の予想外の問いに登美子は絶句したが、すぐに理由が分かった。


「洋司さん、あの時間にGPSを見たのね?」


「そうだよ。いつも君のことを気にかけているからね。実はあの日、サプライズで帰る予定で病院へ向かっていたんだ。すると、君は駅の方へ向かって歩き出した。だからそのまま追いかけたのさ」

「……どこまで追いかけたの?」

「それは……それより登美子、あの箱の中身……」


 登美子の鼓動が跳ねた。


「どうしてそれを……」

 洋司は、登美子の動揺を無視するように続けた。


「実は君に言ってなかったことがあってね……」


 洋司は登美子が普段から、何度も夜な夜な発している寝言のことを語った。

 そこで廃墟の場所や箱のこと、後悔していることなど、苦しそうに泣いて、全てを語っていたと……。

 尾行をして、すぐに廃墟に向かっていると分かった、と。


 登美子はまさか自分から、あのことを語っていたとは全く気付かず、何も返せずに視線が泳いだ。そして言葉を捻り出すように言った。


「び、尾行するなんて、酷いわ」

「そうだね。すまない。でも登美子、俺は君を、愛する妻を守りたかったんだ。そしてこの話には、重大な続きがある。俺はあの箱の中身を……」


 そこで電話が突然切れた。


 慌ててGPSを開くと、夫はまだあの廃墟にいると表示された……何かあったとしか思えない。


 しかし、絶対に警察には頼れない。警察に言えば、捜査の先に、きっと箱の中身まで知られてしまう。

 登美子は義母に電話の内容の詳細は語らず、洋司のGPSが廃墟を示したまま、電話が途絶えたことを伝えた。


 義母は一人息子を心配して、廃墟に迎えに行くと言って出て行ってしまった。

 自分も一緒にと伝えたが、お腹を理由に許されなかった。


 ひとりになった登美子は、静かに泣きながら、スマートフォンでなんとか夫と繋がろうとメッセージを送り、電話を繰り返しかけ続けた……。


 二度と返事はなかった。


 その日は一日中不安の中、何度も洋司と義母に連絡を繰り返したが、なぜか一度も電話にも出ず、メッセージの返事も来なかった。


 数時間が経ったが、GPSを見ると、洋司はあの廃墟から動いていない……。


 その日の夜、ベッドの上でなかなか寝付けない中、やっとウトウトとして、眠りについた。


 そして、あの夢を見た……。


 シャワーを浴びると、ぬるま湯が身体の線に沿って流れ、足首から床へ続き、汗や涙などが混じった赤黒い液体が排水溝へと吸い込まれていく。

 爪の間に詰まった土は、こびりついているようで、簡単には洗い流せなかった。

 呼吸を激しく繰り返し、身体が震えていた。

 打ちつける温かいシャワーだけが登美子を癒し、乱れた呼吸が少しずつ静かになっていった。


 田舎の夜道を、廃墟へと向けて自転車を漕いだ。


 自らの過ちが胸を締め付け、涙が止まらなかった。


 夜空は曇り、小雨が降り始めた。


 帰り道、自転車を押して歩いていると、先に見える十字路をパトカーが横切った。

 登美子は血の気が引き、ハンドルを握る手に力が入った。


 もしも、この先でパトカーに呼び止められたら……。

 

 十字路に辿り着く。街灯の下で暗闇を見つめた。


 もう、どこにもパトカーは見えなくなっていた。


 ひとりで自転車を押す登美子を、静かに小雨が濡らしていた。


 ◆エピローグ・七日目・母子手帳◇


 朝、目が覚めると、少しだけ開けてある窓の隙間から風が流れ込み、カーテンが揺れていた。


 窓の外の空は曇り。


 ベッドから起き上がり、昨日見た夢を思い出していた。


 通知音――玄関扉を開けると、置き配があった。


 登美子はまたかと思ったが、部屋へ戻り箱を開けた。


 中には土まみれの母子手帳が入っていた。

 母子手帳を開くとバランスの悪いひらがなで、『おかあさん』と書かれていた。


 登美子の目に涙が溢れた。


 声が聴こえた。


 『おなかのこの、はこ、もってきたよ』


 登美子は固まり、震えた。


 『おかあさんがはいれる、はこもあるよ』


「もうやめて!」


 ピンポーン――ドアベルが鳴った。


「また、何度、来るの……」


 登美子はふらつきながら、玄関口へ向かった。夫が元気に帰ってきたベルならどれだけ嬉しかっただろう。


 玄関扉を開けると、そこには、通路を塞ぐほどの大きな箱が二つ置いてあった。


 送り状はいつもと同じ内容。


 品名はどちらも同じ、『かぞく』――目立つ位置に『フラジャイル』のシールが貼られ、登美子はその置き配を見て、すぐに事態の察しがつき、悪心が込み上げた。


 廊下に出て、手すり越しに眼下の川を見ながら哀咽した。


 荷物の天面がテープで閉じられていなかった。


 それに気付き、そっとダンボールを開けると、見慣れた顔の濁った目がこちらを向いていた。


 背後から音がした……トットット……ト。


 『おかあさんのおおきいはこ、おいておくね』


 ――《了》

最後まで読んでいただきありがとうございました。


本作はこれで完結となります。


(全6話、完結まで予約投稿済みでした)


少しでも面白かったと思っていただけたら、下にある

【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして応援していただけると嬉しいです。


また、感想を頂けたら喜んで熟読します。


ぜひ、感想の投稿をよろしくお願いします。


この度は貴重な時間を使って読んで頂き、ありがとうございました。


※作者が生成AIで作成した本作のイメージ画像です。

挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ