◆四日目・謝罪◇
◆四日目・謝罪◇
今日も午後には義母がやってきて、身の回りの世話をしてくれる。
夫からも毎日メッセージが届いていた。
お土産に何を買ったなどのたわいもない話が楽しい。
お昼に食べたご当地の定食の写真を送って来た。
『美味しそう。私も食べたい』と返した。
窓を開けて空気の入れ替えをすると、季節の香りを乗せた風がカーテンを揺らした。
毎日届く荷物だけが、登美子の日常に影を落としていた。
また、通知が来た。
登美子は通知を確認せずに玄関へ急いだ。誰が置いているのかを見たかった。
勢いよく玄関扉を開けると、コツリと扉の縁に置き配がぶつかった。
扉の隙間から廊下の奥を見ても配達員の姿はない。
その隙間から廊下を見ていると、同じ階の別の部屋の扉が開いて、男性の姿が見えた。
その男性は荷物をマンションの目の前の大きな川に投げ捨てていた。
そうだ、自分もこの川に投げ捨てればいいのか……。
真面目に付き合う必要はない。もう、この置き配から逃れたい。
登美子は男を倣い、箱を川に投げた。これで二度と来なくなればいい。
箱はぽちゃりと川へ落ち、水面に浮かんで流れていた。
部屋に戻り扉を閉めると、すぐにコツっという音がした。
扉を開けて廊下を見たが、誰もいない。
足元を見ると、荷物が二つ置いてあった。一つは濡れていて、廊下に水滴が広がっていた。
手すりから身を乗り出して川に浮かんでいるはずの箱を探したが、どこにもなかった。
こうなったら、真相を突き止め、夫が帰ってきたら一緒に問題を解決しようと考えた。
川に捨てたはずの濡れた箱が、この先の未来を全て物語っていた。
登美子は二つの箱を部屋に持ち込んだ。
濡れた箱を開けたが、いつも通りの空箱。
部屋の空気がまた一段と重くなる気がした。
空気を入れ替えたくなり、窓を開けた。
『はこ、ちいさい?』
冷たい風が吹き抜けると同時に、その声に凍りついた。登美子はもう一つの箱を開けた。
子どもの声が飛び出し、鼓膜を揺らした。
『ボクのなまえ、しってる?』
耳を塞いだ。シャワーの音が止まない。
登美子は号泣した。泣き崩れ、箱を抱きしめ、謝罪の言葉を繰り返し叫んだ。
「ごめんなさい、ごめんなさい」
玄関の開閉音が聴こえた。
義母がやって来たとすぐに分かる。
立ち上がり、涙を拭いて、無理やり笑顔を作った。
義母は「妊婦の精神状態が不安定なのは仕方のないことよ」と言って慰めてくれた。
その言葉を聴いても涙は止まらず、しゃがみ込んでしまう。
「登美子さん、大丈夫よ」
申し訳なく、義母に顔を向けられなかった。
登美子の頭には、暗く湿気の漂う廃墟の映像が浮かんでいた。
箱を見つめていると、外で風が強まる音が聴こえた。窓の隙間から勢いよく風が流れ込んできた。
『はやくこっちにきて』
目の前に置かれたティッシュ箱に何度も手が伸びた。鼻を拭い、目を拭いた。
床には丸まった白い塊が増えていった。義母がそっとゴミ箱を置いてくれた。
「すみません、お義母さん」
「いいのよ」
「ごめんなさい。まだ、そっちには行けないの……」――登美子は自分のお腹を庇うように両手で包み込んで泣いた。
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