◆二日目・欠けたチョコパイ◇
◆二日目・欠けたチョコパイ◇
朝、チョコパイを食べようと戸棚から出してテーブルに置いた。
食べる前にゴミを出そうと玄関を開けると、扉の縁に物が当たった。
視線をやると、荷物が置いてある。
『置き配』……手に取り、送り状を見ると昨日と同じ。
玄関の下駄箱の上に一時的に置き、ゴミを捨てて戻ると、下駄箱に置いたはずの荷物が、また玄関前に置いてあった。
鍵をかけて出たはずと、戸惑いながら玄関に入り、下駄箱の上を確認した。
すると、そこに荷物があった。手にももう一つ荷物がある。
ゴミを出しに行った数分の間に置き配が増えていた。
宅配業者は見かけていない。急に荷物が増えたようだった。
部屋の中に持ち込み、また、声がしたら嫌だと思ってためらったが、中身が気になる。
結局、二つとも次々と開けた。
しかし、どちらの箱からも、あの声は聴こえなかった。
ただ、少しだけ湿気で箱が緩く感じただけ。
背後で音がしたので、さっと振り返るが、見慣れた部屋に変化は見つからない。
そこで急に左腕の袖を下に引っ張られるような感覚があった。
視線をやるが、袖が何かに引っかかったようには見えなかった。
一人だけのはずの部屋に声をかけた。
「誰かいる?」
急に何の気配もなくなり、テレビのニュースが鮮明に聴こえた。
テーブルの上に視線がいった。
食べようと戸棚から出していたチョコパイが目に入る。
近づいて手に取ろうとすると、袋が開いていた。
中を見ると誰かが齧ったように小さく欠けている。
ドアベルが鳴った。義母が来るにはまだ早い時間。
スマートフォンに配達の通知。
玄関扉を開けると置き配。
午前中、立て続けに三つ目の荷物が届いていた。荷物を拾って部屋へ戻る。
箱は同じように軽く、振っても音はしない。登美子は箱を開けた。
もう声はしない。中身は空。
今度は少しだけ、箱に乾いた泥のような物が付着していて、手触りで固い部分があった。
視線を泳がせて部屋を見回す。
ふと、チョコパイを見ると、さっきよりも欠けていた。
一瞬、ネズミでもいるのかと疑ったが、考えても答えは出ず、衛生的な問題を感じ、そのチョコパイは捨てた。
冷蔵庫から水を取り出し、流し台の前でコップに注ぐ。
一口飲んで、今朝起こったことを立ち尽くしたまま考えた。
流し台に置いてある水桶を見ていたら、急に蛇口から水が一滴垂れ落ちた。
広がる波紋を見ていると考えが巡り、お菓子をしまってある戸棚が気になりはじめた。
コップを置き、スマートフォンを手に取り、夫に連絡をした。しばらくすると返事が来た。
『チョコパイは君から赤ちゃんがこっそり出てきて食べたんだよ笑』
冗談の返しが冗談には思えなかった。どう返そうか迷ってしまった。
ついさっき、波紋を見ていて浮かんだ戸棚……それを機にふと思い付いた。
チョコパイをテーブルに置き、スマートフォンを立てて録画したら、チョコパイはどう映るのか……もし変化があったらその動画を夫に送れる。
戸棚を開けると、そこにあるチョコパイは全て開封され、すでに小さく齧られていた。
なぜか一つだけ未開封で残っていたチョコパイをカメラの前に設置した。
リモコンを向けると、ぷつっと音が切れるテレビ。
寝室に隠れるように引っ込む。
長い数分が経った。
録画の様子を見ていると、何も起こらないはずが、チョコパイは、齧られたように小さく欠けていた。
スマートフォンで証拠動画を夫に送った。
動画はノイズで一瞬画面が歪み、次の瞬間には齧られたようなチョコパイが映っていた。
夫には『何あのノイズ?チョコパイはまた買いなよ』と言われた。
軽い返事だった……夫からしたら、お菓子の話をしているだけに思えたのかもしれない。
部屋にひとりでいて、客観性を失っているだけなのか……。
その後はいつものように義母と過ごした。
二人で買い物へ行き、戸棚には多めにチョコパイを買い置いた。
パタンと戸棚を閉めた音と同時に、また声が聴こえた気がしたが、義母の反応は何もなかった。
「登美子さん、雨よ」
そう言うと義母は、さっとベランダに出て洗濯を取り込んでくれた。
部屋は義母と二人だけのはずだった。
気を紛らわすように、ベランダから取り込まれた洗濯物を畳んだ。
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