◆一日目・聴き覚えのある声◇
【読者の皆様へ】
本作を開いていただき、ありがとうございます。
本作は現代で日常に広がりつつある「置き配」を題材にした、『怪談』です。
前々作『置き配』—あなたが頼んでいない荷物—や『置き配2』—私が頼んでいない荷物—に続く作品です。
前二作を読んでから本作を読んでいただくと、世界観をより楽しめるようになっています。
本作は前二作とは違い、テーマが『怪談』となっていますので、【単体でも楽しめます。】
※重いテーマを扱っていますが全ての出来事は物語上の演出です。
※本作は直接的な暴力表現はありませんが、センシティブな題材を扱っているので、R15想定でお読みください。
※【全6話、完結済み】です。初回のみ2話公開。毎日1話ずつ、21時に更新予約を設定しています。
——ある日突然、送り状の依頼主欄が空白の荷物が届いたら、あなたならどうしますか?
前作までとは違う切り口の怪談版『置き配』の物語をお楽しみください。
寝る前のひととき、あるいは夜更けの読書のお供になれれば幸いです。
◆プロローグ・過去◇
シャワーを浴びながら、少女の登美子は泣いていた。全て自分が悪い――気が付いたら、もうそれはどうにもできなかった。このことは誰にも相談できない。
いくら連絡をしても返事はなかった。
親にだけは絶対に知られたくない。
運んだ箱の重みが胸を締め付けた。
爪の間に詰まった土……。
シャワーに涙が混じり、排水溝へ流れ落ちていた。
◆一日目・聴き覚えのある声◇
とあるマンションの一室――。
与津原登美子二十六歳は、夫に向かって言った。
「ほら、動いたでしょ?」
これから生まれてくる子どものために仕事を辞め、出産に向けて準備をする日々。
夫が登美子のお腹に耳を寄せ、優しくその膨らみを撫でながら語り掛けた。
「おい、聴こえるか?俺がお父さんだぞ。早く君の顔が見たい。元気に育ってくれよ」
登美子は目を細めて微笑み、夫を見つめていた。
「じゃあ、行ってくるね」
登美子は玄関口で軽く抱き寄せられ、しばしの別れを惜しんだ。
扉が閉まり、静けさが訪れた。登美子は居間のソファに腰を掛け、日ごとに大きくなっていくお腹を優しく撫でた。
点けたままのテレビが、ひとりでいる寂しさを紛らわしていた。
「私の赤ちゃん。元気に産まれてきてね」
テーブルの上に置いてあるスマートフォンの通知音が鳴った。
画面を開くと、『置き配』で配達された荷物の知らせ。
登美子は夫が何か注文したのかと思い、腰を上げて玄関へ向かった。
玄関扉を開けると、コツっと荷物が扉に触れた。荷物を手に取り違和感を覚えた。
なぜか送り状は依頼主欄が空白だった。
確認のため、登美子が夫にメッセージを送ると、すぐに返事がきた。
『なんだろう?うち宛なんだよね?依頼主に何も書いてないのは気味が悪いな。そうだ、中に納品書が入ってるはずだから、それで確認できるかもね』
夫の言う通りに登美子が箱を開けた瞬間……『聴き覚えのある声』が飛び出すように登美子の耳を駆け抜けた。
呼吸が止まった気がした。
視線の先の箱の中には何も入っていない。
片耳に手を添えても聴こえるように再生されるシャワーの音、雨に打たれた夜道の冷たい空気。
室内を一つ一つ、確認するように異変を探した。
静かな部屋に、テレビのコマーシャルの音楽が流れている。
脳内で繰り返し再生される聴き覚えのある声。
何度見ても箱の中には何もない。
震える手。ただ、箱を見つめた。
ドアベルが鳴った。
はっとして思い出す義母の顔。
「はーい。いま行きます」
箱とスマートフォンをテーブルに置き、玄関へ向かうと、背中を追いかけるように通知音が鳴った。登美子はお腹を庇いながら、玄関扉を開けた。
「あ、お義母さん、どうぞ入ってください」
扉を開けると、そこに立っていた義母が言った。
「登美子さん、置き配、頼んだの?」
義母が箱を持って玄関前に立っていた。
部屋へ迎え入れ、箱を見るとさっきと同じ送り状だった。依頼主が空欄なのが気味が悪いと義母と話しながら開封すると、また、『聴き覚えのある声』が耳を駆け抜けて登美子を硬直させた。
「登美子さん、大丈夫?何が入っていたの?」
心配そうに義母が言ったことに違和感があった。
箱を開けた瞬間、確かに声がしたはず。聴き逃したのかと訊ねた……。
「お、お義母さん、今、この箱の中から、声が聴こえませんでしたか?」
義母は空の箱を見て、心配そうな表情を作った。
「ええ?声?聴こえてないわよ。登美子さん、少し休んだらいいわ」
夫にメッセージを送ると返事はすぐに来た。
そこからスマートフォンは伏せ、夜は早めに床についた。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
全6話、完結まで予約投稿済みです。
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