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6日目 依存され体質


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


ーー…寮生活が始まって一週間が過ぎた。今日は土曜日、学校は休みだ。とはいえ、昼まで寝てる…なんて事はない。土日でも部活で朝早くから学校に行く生徒もいるし。


俺の同室メンバーの中では唯一如月がダンス部で土日祝日関係なく部活がある。その為俺が起床した頃には既にいない事が多い。


ちなみに黒宮はパソコン部だった。パソコン部なんてあったっけ?と思い聞いたところ、科学部と同じでほぼ活動してないらしい。真面目に毎日パソコン室に行く部員もいるそうだが、黒宮は一ヶ月に二回ほど顔を出す頻度との事。本人曰く


「まぁそれで咎められないし、楽ですよぉ」


…だそうだ。それにしてもいわゆる名ばかり部活って結構あるんだな。放送部もゆるい方だと思ってたけど昼の放送を平日は交代で毎日やっているあたり活動してる方だな、と思った。


ーー…とまあ一週間の出来事はそれくらい。あとは学校生活。生活環境が変わっただけで、日常はさほど変化がない。


「眠…おはようございま〜す」


頭をかきながらほとんど人のいない食堂に黒宮が顔を出す。時刻は九時半。俺もつい数十分前に起床したので人の事は言えないが、黒宮は朝に弱いらしい。ちょっと前は昼過ぎに起床していた事もあったし。


「おはよう。なんか食べる?」


「腹減ってないんですよねぇ…あ、リンゴジュースある、これでいいや」


誰が買ってきたのか不明だが箱で冷蔵庫に入っていた紙パックのリンゴジュースを黒宮は手に取る。ストローをさしながら、俺の前に座った。


「燈也先輩…は部活か。朱雀先輩は?」


「知らない…俺が起きた時にはもういなかったし」


三雲はああ見えて早起きらしく、土日でも学校と同じくらいの時間に起床しているみたいだ。上のベッドなのでなんとなく、起床した時はわかる。


「意外と早起きなんですねぇ〜俺が遅すぎんのかなぁ」


「どうだろう…俺も人の事言えないし」


「あはは、紅平先輩は早起きそうなのに意外と遅いですよねぇ」


リンゴジュースを飲み干し、紙パックを潰しながら黒宮は言う。…正直、中学時代引きこもりだったのが尾を引いているのかもしれない。学校の日は起きられるけど、休みだとどうも気が抜けてしまうみたいだ。


「まぁこれでも俺マシになった方なんですけど。昔一日寝てた時とかあったし」


黒宮はそう言いながら紙パックを捨て、スマホをポケットから取り出した。気持ちはわかる。


「一日はすごいな…学校の日とか大変だっただろ」


「ん〜いや、俺まともに行ってないんで。小学校も中学校も」


俺は口を紡いでしまった。あれ、もしかして…黒宮と俺、境遇が似てる?何か察したのか、黒宮がゆっくりこちらを見る。やっぱり桜歌と同じくらい整った顔立ちだ。


「…紅平先輩、引きこもりだったでしょ」


ドクン、と胸が鳴る。別にやましい事なんてないし、悪い事でもない。でも、面と向かって他人に指摘されたのは初めてで困惑する。声のトーンや表情からして、黒宮に悪気は全くなさそうだ。


「…お前もだろ。今自分で言ってたし」


「あはは、そうですねぇ」


「…なんで高校は行こうと思ったの?」


聞こうか聞くまいか迷ったが、純粋に疑問だったので俺は思い切った。黒宮がスマホを机に伏せる。


「紅平先輩って誰かに依存された事あります?」


突拍子な質問に俺は目をぱちくりさせる。依存。自覚はない。俺は首を左右に振る。


「そうですよねぇ…羨ましい」


「羨ましいって…お前はあるの?」


「俺、絶対依存されるんですよ。異性同性問わず、友達、クラスメイト…先生もあったかなぁ」


「先生って…」


「小学校三年生の時の担任。それまでは普通に学校行ってたんですよ、俺。でもその担任は違った…やたら構ってくるというか…明らかに他の生徒と俺との関わり方が違う」


指で机をトン、トンと叩きながら淡々と黒宮は話す。何を聞かされているんだと思ったが嘘を言っている感じはない。


「四年生になっても担任はそのままだった。だから行かなくなった。その流れで五年、六年…卒業式にも出てませんねぇ」


「中学は変わるだろ、先生も…生徒はそのままかもしれないけど」


「そう。だから中学は行きましたよ。入学式の日だけ」


「え…」


「明らかに俺を見る目が違う生徒が何人もいた。なんか…洗脳されてるみたいな見方。言い方悪いですけど。気味が悪くて、それっきり行ってないですねぇ」


ーー…それを聞きながら、わかると思ってしまった。こいつ、人を惹く雰囲気というか出で立ちをしているんだ。桜歌に似てると思ったのも、桜歌も良い意味でも悪い意味でも人目を惹く雰囲気だからだ。納得した。


「で。俺、学校に行く事自体は嫌いじゃなかったんですよ。でも小学校も中学校も行けなかった…せめて高校くらいはって、地元からうんと離れたここに来たんです。俺ん家そこそこ金持ちなんで、そこの心配はナシだし?」


そう言って黒宮はちょっとシーソー座りをして、戻る。俺は話のほとんどを俯いて聞いていた。何も言えない。そんな俺を気遣ったのか、黒宮が明るめの声で続ける。


「俺、寮の同室メンバーが当たりって言いましたよね」


「…うん」


「それって、『俺に依存しなさそう』なメンバーばかりだったのが大きいんですよ。紅平先輩も、あとの二人も」


まさか、そんな意味が含まれているとは思わなかった。俺は仲良くできそうとか、相性良さそうとか…普通の事しか考えてなかったから。


しかし、黒宮は少し不安げに俯く。


「…と、思ってるんですけど。一人危なそうなのがいるんですよねぇ…」


「え?俺じゃないよな?」


「あはは、違いま〜す」


冗談ぽく笑った後、黒宮は一層声を低く、小さくして続けた。


「…燈也先輩です。あの人、人に飢えてるみたいだから」




ーー…その夜。


「おお〜!ハンバーグ!」


「形変じゃね?」


「文句あるなら食べなくていいぞ」


「あ〜嘘、嘘。紅平クンが愛情込めて作ってくれたモンを無駄にはしねーよ」


今週食事当番な俺はとりあえず昔、母さんに教わったハンバーグを作った。料理は得意じゃないけど何度も作った事のあるハンバーグならそれなりに上手くできると思ったからだ。形はともかく。


俺は朝の黒宮の話を思い出し、ちらりと如月に視線を向けた。あんな話をされてたなんて知らない如月は「うんま!」とか言いながらハンバーグを頬張っている。


(人に飢えてるって…そうは見えないけどな。でも、桜歌曰く友達いないらしいし…本当かも)


ただの憶測でしかないが。そんな如月の前に三雲が座る。形が変とか言ってたわりにそれなりの量のハンバーグを皿に乗せて。


「紅平先輩、ケチャップありますぅ?」


いつの間にか俺の隣に立っていた黒宮が辺りを見回しながら尋ねてくる。俺はケチャップを黒宮に手渡した。


「ありがとうございま〜す」


黒宮の手にしたケチャップを見て如月が身を乗り出す。


「俺も!俺もケチャップかけたい!」


「使ったら渡しますねぇ」


ケチャップ適量をハンバーグにかけ、黒宮が如月にケチャップを手渡す。如月がふふ…と笑った。


「?何ですかぁ?」


「いや…こういうやり取り、寮生活だな〜って」


「いや意味わかんな〜どういう意味です?」


「俺、後輩どころか友達ともごはん一緒に食べた事なくて!なんか嬉しい」


普通気まずくなる事を笑いながら如月は話す。気にしてないんだろうな。三雲が尋ねる。


「何?オマエぼっちなん?」


また気まずくなる事をよく言えるな、と思う。絶対悪気はない。如月はうーん、と頭を傾ける。


「なんかそうみたいですね。いっつも一人だし。何でだろ?」


「それは知らねーけど。意外だわ、オマエめちゃくちゃ友達いそうなのに」


「結構みんなに話しかけてるんですけどね〜なんか仲良くなれないっていうか」


押しが強いのだろうか。とはいえそんなにグイグイ強引に行くタイプでもなさそうだが。桜歌曰く既存のグループに無理矢理入ろうとするタイプでもないそうだし。


「だから俺、寮入って良かった!というかこのメンバーで良かったなあ」


満面の笑みで如月が言う。少年漫画の主人公みたいに真っ直ぐな奴だ。それが如月の良いところなんだろうけど。


「紅平先輩も食べましょうよ!なくなっちゃいますよ!」


如月が俺の腕を引っ張る。三雲が苦笑する。


「いや、オマエがほとんど食べてんじゃねーか」


「ちゃんと取ってますよ!あとは紅平先輩のです!」


「いや俺こんなに食べないって…一つでいいよ」


他愛のない会話をしながら、またこうして一日が過ぎていくのであった。

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