それぞれの印象
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「は〜そりゃまあ…ドンマイ」
翌日、朝のホームルーム前に翡翠と式人に俺は昨日の事を話した。寮の事…というか同室メンバーの事。
「…三雲が悪いやつじゃないのはわかる、わかるんだけど…!」
「あいつ怖えもんな。俺が言える立場じゃないけど」
翡翠は怖くない。友達だし。と思いながら翡翠の話を聞く。式人はというとずっと黙っている。…だいたい何を考えてるのか想像つくけど。
「…式人、お前が思ってるような関係にもならんし何も起きないから」
「な!?なんで僕が『同室…何も起きないはずもなく…』って思ってたのわかったの!?」
「わかるわ!お前の事だからどうせ俺達を勝手にくっつけたりしてるんだろうなくらい想像つく!」
先述した通り式人は腐男子だ。二次元だけでなく、三次元にも適応される。つまり、男四人同室というのは式人が妄想するに容易い環境なのだ。こっちからしたら迷惑でしかないが。
「まあ…紅くんには桜歌くんもいるし月下先輩もひーくんも…」
「いねぇよ!!やめろや気持ち悪い」
話を聞いていた翡翠が声を荒げる。この場にいない前部長、月下さんも桜歌も巻き込んで妄想し、式人はニヤニヤとしている。
「朱雀はともかく、あとの二人は好印象なんだろ?」
翡翠が話を戻す。俺は頷いた。
「好印象…というか悪い印象はないよ。三雲と比べたらな」
「どっちも知らねーしな〜如月?の方は二年だから桜歌が知ってるかもだけど」
そういえば如月は桜歌と同じ二年生だった。桜歌の事聞いてみようかな?と思ったが、桜歌自身がそこまで他人と関わるタイプじゃないから印象にすら残ってないかもしれない。そもそも、同じクラスじゃないかもだし。
「今日聞いてみるよ、桜歌に」
ちょうど始業のチャイムが鳴った。俺と翡翠は一組、式人は三組の教室に戻った。
ーー…放課後。
「紅平っ」
「お、っと…桜歌、いきなり抱きつくなって」
放送室のドアを開けるなり飛びついてきた桜歌。放送部唯一の二年生で、放送部員には懐いている。綺麗な金髪が揺れる。
「だって紅平、最近あまり来ないもん。なんでなの」
「あー…ごめんごめん、寮に入ったらまあ色々忙しくて」
とはいえやる事は身の回りの整理整頓とかだけなのだが。同室メンバーとも何かを一緒にやらなきゃならないってわけでもないし。これからはなるべく放送部に顔を出したい。
「そうだ桜歌、如月燈也って知ってる?」
朝の会話を思い出し、桜歌に尋ねる。桜歌は少し考えた後、答えた。
「…知ってる。同じクラス」
「そうだったんだな。話した事ある?」
「話した事ある…っていうか、あいつ全員に話しかけてた。暇なんじゃない」
はは…と苦笑する。想像に容易いな。会話というより一方的に話を進めてそうだが。
「一年の時はクラス違ったのか?」
「うん」
桜歌は机に置いてあったクッキー缶に手を伸ばす。桜歌、翡翠が貰ったから食べていいぞって言ってたの、覚えてるな。俺も便乗してクッキーを取る。
「あいつ、変だよ」
桜歌がクッキーをもぐもぐ頬張りながら言う。話の流れからして如月の事だろう。変…なのは申し訳ないが少しわかる。
「全員に話しかけてるわりに友達誰もできてないみたい。一年の時に仲良かった人もいなさそうだし」
俺はクッキーを飲み込んでふん…と声にならない声を出した。人懐っこいのは確かだが、そこから友人関係に発展しないのだろうか。
「お昼、一人で食べてたし」
「へえ…?どっかの輪に入ろうとかもなかったの?」
桜歌は頷いた。元々形成されているグループに突撃する事はしないのか。遠慮してるのだろうか。
「わかった、ありがとう」
「うん」
少しは如月の事がわかった気がする。桜歌も変、とは言っていたが嫌ってはなさそうだ。
ーー…寮に戻ると何故か三雲が俺のベッドで寝転がって漫画を読んでいた。しかも俺の持ってきた漫画。俺は漫画を取り上げた。
「あ!?ちょ、まだ読んでんだけど!?」
「勝手に読むな寝るな!お前上だろ!」
「いや上がんの面倒くさくて〜」
「…じゃあ代わる?」
「嫌だ。下はなんか負けた気がするから」
意味がわからない。呆れ顔で俺は取り上げた漫画を鞄にしまう。黒宮と如月はまだ戻ってないらしい。三雲と二人はなんか気が重い。
「…何してんの…?」
気づくと三雲が床に大きめの画用紙を広げて何か書こうとしていた。画用紙、どこにしまってたんだ。
「担当決めようぜ、洗濯とか掃除の。俺戸締まり確認係やるわ」
「戸締まりって入り口と窓だけだろ!というかそんな担当いらないだろ」
「いるいる!どーすんの、夜中に族とか侵入して来たら」
「来るわけないだろこんなところに…」
学生しかいない寮に族どころか強盗すら入らないだろう。金目のものなんてないし。そもそもセキュリティ対策もバッチリなんだから、この寮。というか…
「俺達だけで決めちゃダメだろ…黒宮と如月もいないと」
「あいつら何してんの?デート?」
「部活じゃないの」
そう言ってふと、そういえば黒宮と如月、そして三雲の所属する部活を知らない事に気づいた。校則的にどこかに必ず所属しているはず。
「三雲って何部なの?」
「科学部〜」
「科学部!?」
驚いて思わず大声になってしまった。その声に驚いた後、三雲がこちらを見る。
「わかりやすく意外っつー反応だな、紅平クン」
「あ、うん、ごめん」
「ま〜ほとんど活動してねーしな。名ばかり部活みてーなモンよ」
校則のせいか白亜高校にはたくさんの部活がある。その中には三雲の言う通り、名ばかり部活みたいな部活もあるわけで。それもどうかと思うのだが、ただの生徒である俺が声を上げる必要もないだろう。来年卒業するし。
「紅平クンはアレだろ?翡翠クンと同じ…放送部だっけ」
「そう…というか聞きたかったんだけど三雲って翡翠と友達?なんだよな?」
画用紙に色々書いていた三雲の手が止まる。なんかマズい事言ったのかと身構えてしまう。が、返ってきたのは予想外の答えだった。
「友達っつーか、ライバル的なやつよな」
「…ライバル?」
ポケ◯ンみたいだな、と言いそうになったが口を紡ぐ。三雲が続ける。
「中学の時、翡翠クンってめちゃくちゃヤンキーだったろ?それは知ってるんだっけ」
「うん」
「俺もめちゃくちゃヤンキーだったワケよ。翡翠クンとは違う学校だったんだけど、そん時何度かやりあったワケ」
「やりあったって…」
「喧嘩」
だろうな。納得した。やはり三雲も翡翠と同じで元不良なんだな…三雲はペン回しを始めた。なかなか上手だ。
「俺結構喧嘩強かったんだけど…唯一負けた事あんの、翡翠クンに。毎回じゃなかったから、互角だったんだろうけどさ」
…なんだか新鮮だ。翡翠が元不良だったという話も、実際高校一年生の最初の方くらいまでそうだったらしい(式人曰く)から知ってはいたけど。翡翠の中学の時の話をこんなに聞かされたのは初めてだ。本人は話したがらないし、俺も無理矢理聞いたりしなかったから。
「…で、そんな翡翠と決着をつける為にこの高校に」
「あ?いや違う違う。それはただの偶然。入学したらいた、みたいな」
ヤンキー漫画の王道みたいな展開ではないらしい。互いに本当ただの偶然だったそうだ。
「お、ヤベーこのウサギ、すげー上手く描けたわ」
気づくと何故か画用紙は絵だらけになっていた。全部一人で話しながら三雲が描いたらしい。…お世辞にも上手いとは言えない画力だが。
「ただいま参上ー!!」
大声を上げながら勢い良く如月が入って来る。その後を黒宮がゆったり続いて入って来た。
「えっ、何してるんですかこれ?」
「遅えーんだよオマエら。画用紙がお絵描き帳になっちゃったじゃねーか」
「不気味なのしかいない…モンスターの原型とか考えてたんですかぁ?」
「モンスターいねーよこん中に」
わいわいと話す三人を見ながら俺は少し三雲の事もわかったような気がした。あとは、一番掴みづらい黒宮。一年生だから俺達も桜歌もわからないし、友人関係とか、そういうのも謎だ。
(…本人自体が掴みどころないしな…まあ、嫌なやつじゃないのはわかる)
ーー…結局、担当はまともに決まらずまた今度で!という事で一日が終わった。




