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1日目 新学期


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


ーー…四月。


俺、高山紅平たかやまこうへいは下駄箱前に張り出されているクラス分けの表を見ていた。自分の名前を探す。


「…あった、一組か」


ぽつんと呟き、校舎に入ろうとするとポン、と肩を叩かれた。


「おはよ、紅平」


翡翠ひすいか、おはよう」


紫の髪に黄色い目。相変わらず着崩した制服。俺より少し身長の低い彼は水上翡翠みなかみひすい。俺の所属する放送部の新部長だ。


「紅平、クラスどこ?」


「一組。翡翠は?」


「俺も一組だよ。今年は一緒だな〜よろしく」


わざとらしく丁寧に翡翠は頭を下げた。俺もつられて頭を下げる。去年は違うクラス…というか俺は去年転校してきたので翡翠と同じクラスになるのは高校三年生になる今年が最初で最後だ。


「…二人とも下駄箱前で何をしてるの…?」


頭上から困惑の混じった声が聞こえた。翡翠と同じタイミングで顔を上げるとふわふわとした緑のくせっ毛が目に入る。先に翡翠が彼の名前を呼ぶ。


「シキ!おはよ」


「おはよう、紅くん、ひーくん」


シキこと真宮式人まみやしきひとはゆるりと笑った。のほほんとした雰囲気だが俺達の中で一番背が高いので少し圧がある。まあ、雰囲気にかき消されているのだが。


「式人、クラス見た?」


俺が聞くとわかりやすく式人はがっくりと肩を落とした。


「僕…三組なんだよ…僕だけ違うクラス…」


ブツブツと呪文のように式人が言う。俺と翡翠は顔を見合わせた。やはり同じ部活のメンツは同じクラスにならないよう振り分けられるのだろうか。


「僕、去年紅くんとは一緒だったけど紅くんは転校生だったし…放送部に入ったのも偶然だったし…」


「結局シキとは一度も同じクラスになってねぇな」


「そうだよ!!いやまあ…一年生の時はそもそも仲良くなかったんだけど…」


「放送部入るまで名前も知らなかったしな」


ーー…俺達が通うこの白亜はくあ高校は部活には強制入部という変わった校則がある。その為、帰宅部が存在しない。唯一生徒会に入れば入部は免除されるのだが一部の部活よりハードスケジュールなので生徒会に人が集まる事も少ない。


そんな高校に去年転校してきた俺はこの二人が所属する放送部に入部した。中学の時は色々あってほぼ引きこもりだった俺は当然帰宅部だった為、楽そうという理由だけで放送部に入部した。


…が。実際はアニメや漫画が好きないわゆるオタク…今はあまりそう呼ばれないかもしれないがそんなメンツしかいない部活だった。実際翡翠は二次元幼女好き、式人はBLボーイズラブ好きの腐男子だ。


そして俺は二次元の巨乳が好きなオタクである。卒業した前部長も二次元黒髪美少女好きのオタクだった。




「まーそう落ち込むなよ。昼休みとか部活の時は会えるじゃん」


新しいクラスに向かう途中の階段を上がりながら翡翠が式人を励ます。式人は頷く。翡翠の言う通りだ。実際死に別れるわけじゃないんだし…


「じゃあ…また部活でね、二人とも」


三組のドアを開けながら淋しげに式人が言う。俺は式人に手を振り、翡翠は足早に一組のドアを開けた。


「おー!水上!」


「よっすよっす」


「お前三年一緒じゃん!腐れ縁ってやつ〜?」


「いやお前と腐れ縁とか嫌だわ」


「何でだよ!」


あっという間に翡翠は新たなクラスメイトに囲まれた。元々交友関係が広い翡翠だ、俺以外にたくさん友達がいる。


すると、そんな人の波を強引にかき分けて一人の生徒が翡翠の前に立った。かなり背が高い。式人と同じくらいか、それより少し高いかもしれない。少し離れた自分の席から翡翠とその生徒を見守る。


「…あ?」


翡翠がその生徒を睨む。元々不良だった翡翠のガン飛ばしはかなり怖いものだが、生徒は動じない。むしろ、ニヤニヤと笑っている。


「そのガン飛ばし、俺には効かねぇよ」


「だろうな〜つーか何でいんのお前」


「何でって俺、クラスここだもん」


翡翠があからさまに嫌な顔をする。そんな二人を眺めながら俺は考えていた。あの生徒、去年俺とは違うクラスだったな…翡翠とは同じクラスだったんだろうか。


「嫌な顔すんなよ〜」


「嫌だろ。去年も同じだったのに…」


「それこそ腐れ縁ってやつっしょ」


「いや一年の時違っただろ」


いつの間にか翡翠の周りから人が引いており、遠くから様子を眺める感じになっている。それもそうだ、翡翠と話してる生徒、翡翠と同じくらい迫力ある。正直怖い。同い年なのに。


「…お前の事怖がってみんな引いてるけど」


周りの静けさに気づいた翡翠が言う。生徒はクラスを見回し鼻を鳴らした。


「俺『達』だろ?翡翠クンの事も怖がってんじゃねーの?」


「お前と一緒にすんなよ、さっき見てたろ、俺が普通にみんなと話してるの」


「まぁね〜」


そう言うとその生徒はつかつかと黒板前に立ち、チョークを手に取った。大きい字で何かを描く。どうやら自分の名前らしい。


「信頼を得る為にも自己紹介しとくか〜三雲朱雀みくもすざく、すげー名前だろ、ヨロシク〜」


生徒…三雲朱雀は手についたチョークの粉を乱暴に払い、自分の席についた。というか…


(俺の隣かよ、こいつ…)


思わず窓の方に目を向ける。翡翠の友達(?)とはいえ怖い。俺は不良じゃないしそんな肝が据わってるわけでもない。そんな俺には興味なさげに三雲朱雀はスマホを弄っている。


「紅平」


名前を呼ばれ、正面を向くと翡翠が立っていた。翡翠は俺の前の席の生徒に断って前の席に座る。まだ朝のホームルームまで少し時間があるからか、話しかけに来てくれたらしい。


「いいな〜紅平の席。窓の真横じゃん」


「いいかな…?冬寒そう」


「それまでには席替えとかしてるだろ。俺ここの席がいいなぁ」


そんな話をしていると隣から視線を感じ、目を向けると三雲朱雀が俺と翡翠をじっと見ていた。スマホはとっくにしまっている。翡翠が引き気味で尋ねる。


「…何?」


「いや、俺コイツ知らんわと思って」


三雲朱雀が俺を見る。反射で目をそらしてしまった。大丈夫だろうか。


「そりゃ知らねぇだろ。去年転校してきたんだし、俺達とクラス違ったじゃん」


俺から目を逸らされてもまじまじと三雲朱雀は俺を見るのをやめない。そして、ああ!と言わんばかりに指を鳴らす。


「転校生!いたなそんなの。なんかクラスの奴らが騒いでたわ」


「そんな騒いでたっけ」


「あっちのクラス、転校生が来たらしいぜ〜って。まあ女じゃなかったからみんなすぐ忘れてたけど」


「全員現金すぎるだろ…」


「なあ、なあ」


…どうやら俺に声をかけているらしい。俺は恐る恐る三雲朱雀と目を合わせる。


「…はい」


「はいて!いや俺らタメだろ。名前何?」


ケラケラと笑いながら三雲朱雀が尋ねる。怖いけど、悪い人ではなさそうだ。まあ翡翠と友達なら悪くはないか…少し安堵する。


「た、高山紅平」


声が微妙にうわずってしまった。自分でも情けない。さすがにビビりすぎだ。


「こーへい。フーン、漢字どう書くの?」


くれないに…平均の平」


「へ〜俺と色一緒じゃん」


「色一緒って何だよ…」


俺の代わりに翡翠が突っ込む。でも、確かに朱雀って赤のイメージがある。正直三雲のイメージに合っている気がする。


始業のチャイムが鳴り、新たな担任が教室に入って来る。翡翠も他のクラスメイトも自分の席に戻って行った。




ーー…今日は始業式なので午前で学校は終わり。帰りのホームルームが終わり、みんなそれぞれ部活や居残り勉強などで教室から出て行く。


「紅平、部活行こうぜ」


「うん」


翡翠が先に教室を出ると、廊下の隅でちっちゃくなっている式人の姿が目に入る。俺と翡翠を見るなり、ぱあっと顔を明るくした。相変わらずわかりやすい。


「二人とも待ってたよ…!」


「ハイハイ。どうよ、新しいクラスは」


「…僕、やっていけないかもしれない…」


またわかりやすく式人は肩を落とす。式人は人見知りだし、正直俺達以外に親しい人はいないみたいだから苦痛だろう。


「大げさな…」


廉太郎れんたろう七尾ななおは一緒だろ?話さなかったの?」


廉太郎と七尾は去年俺と同じクラスで放送部外での友達だ。式人と四人で昼休み、昼ご飯を食べた事もあったし、その時少し話したはずだが。


「あ、うん…二人は話しかけてくれたよ。でも三人だとやっぱり僕余っちゃって…」


奇数となると自然と式人があぶれるのだろう。そもそも廉太郎と七尾が幼馴染で仲良いし。翡翠が腕組みをする。


「まあ、そりゃしゃーねーな。まだ話せる二人がいるだけいいと思えよ」


「そうだね…」


去年と比べたら式人はずいぶん立ち直りが早くなった気がする。一年と少ししか一緒にいない俺が言うのも変だが。




「…ん?」


放送室に向かう途中の掲示板の前で翡翠が足を止めた。俺と式人も立ち止まる。


「どうしたの、ひーくん」


「これマジ?」


翡翠が一枚の張り紙を指差す。そこには『白亜高校、男子寮・女子寮新設!入寮希望者は担任まで』と大きく、カラフルな文字で書かれていた。俺達は顔を見合わせる。


「儲かってんな〜この高校」


「私立だもんね…」


「翡翠、入寮するの?」


俺が聞くと翡翠はうーんと唸る。翡翠は母親との折り合いが悪いから入寮しそうだが。


「いやー…うちはほら、母子家庭だから正直ここ通ってるのも俺が特待で学費免除だからだし。寮って金いるよな?」


「タダではないだろうな」


「だろ?じゃあ無理だわ。シキは?」


「うーん…僕はあまり…家族じゃない人と過ごすのは苦手かな」


「まあシキは出る理由がないわな。両親とも仲良いし、ミキとも」


ミキとは式人の弟の未樹人みきとくんの事だ。一度だけ会った事がある。確かに、式人との仲は悪そうじゃなかった。


二人は最後、俺に目を向ける。


「…俺、入寮しようかな」


「え、マジ?」


「紅くん、お家嫌なの…?」


「あ、いやいや全然そんなんじゃなくて。でも…興味ある。俺別に他人と過ごすの嫌とかじゃないし、一人っ子だし」


…父さんと母さんも反対しないだろうと思った。そもそもこの学校を勧めたの母さんだし。それに…


「俺、ここに来てから放送部の人としかほとんど関わってないし。他の人と関わってみるのも楽しいかなって…あ!いや二人が嫌とかではなく」


色々と言ったが聞いている二人は穏やかな表情だった。


「いいんじゃね?別に俺らだけと仲良くしろ!とか思わねーし」


「そうだよ…僕も頑張ろう!」


「そうそう」


二人が肯定的で安心した。俺は帰って早速両親に入寮の相談をする事にした。

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