9.裏─乗合馬車
隣街へと急いで行かないといけない。
可愛い娘と息子が合わせて流行り病に掛かってしまったからだった。
旦那は働きに出ているから、私が急いで隣街の医者から専用の薬を貰って来ないといけない。
薬はそれなりに高いが隣の薬師さんは優しく低価格で売ってくれる。
流行り病の影響なのか、一緒に乗り込んだ人達は知り合いの主婦の方も居た。
そして、身なりがそれなりに悪いけれども。弟が流行り病だという【少女】も乗り込んで来ていた。
御者の方も気を利かせてくれては、少し人道からは【外れる】が早く着ける道を駆けてくれるそうだ。
皆、薬師さんが開院してくれてるのを祈りつつも、最近の有名な商家の気狂いの噂や、その影響で街の物価も大変な事になっている等、愚痴や噂が絶えなかった。
少女も【妙に聡い】ようで相槌を打っては、私らに質問を投げ掛けていた。
主には隣街の話が専らだったが、気立てが良いのか私も含めて皆楽しく質問に応えては笑いながら話していた。
けれども、御者の方が「そろそろ道を一瞬外れるんで! もし、魔物とか居たら怖いので皆さんお静かに!」と、声を掛けては道を外れると少女の笑みが怪しく深いものになった気がした。
そして、きっと人道が外れては半ばくらいだろう。
ふと、気付いたら御者の頭から血が咲いていた。
「は?」と、気付いた時には隣の奥さんが消えた。
「え?」と、気付いた時には馬がナニカに呑み込まれていた。
「あれ、一気にやるのはやっぱり難しいですね。なるほど、確かに練習というのは大切ですね。スキルや経験を学んでも【自身が学ばないと、その真価は発揮しない】そう言う事なんですね。興味深いです」と目の前の少女だけが乗合馬車に残っていて、私にニッコリと微笑んでは「そう思うでしょ?」と、先程と同じように気立ての良いように笑っては話し掛けて来ていた。
逃げ、な、いと──子供が、流行り病が、そのままだ、と死んじゃ、う。
あな、た──。
子供と旦那の顔を思い浮かべて、ガクガクと何故か震えていると耳が妙にガタガタとなる音を拾っては気付いた私は目の前のニコニコと笑う少女がドロっと変形しては、よく知っている商家の娘に成り代わっては──「あ、あ……」と、言葉に出来ないうちに、全てが真っ暗になっていた。
──ご馳走様。




