8.裏──アメリア。
アメリアが無事? に帰ってきた。
いや、嘘だ。
無事では無かった。
アメリアは放心状態で心神喪失していた。
私の妻はそれを見ては泣いていた。
そして、酷く衰弱していたが、アメリアが話せること。知識はある事があると嬉しそうに回復していった。けれども、妻はあの最初のアメリアの様子を見た時に壊れてしまったのかも知れない。どんなアメリアでも彼女を受け入れるようになってしまったのだから。
私は恐ろしかった。
アメリアの姿で声で、記憶も朧気ながら有りそうなのだ。
けれども、何もかもが違ったからだ。
まずは正確だ。
アメリアは良く笑ってはたまに理性を見せる笑みをしていた。
アイテムボックス持ちでもあり、商家の娘としても気立てが良かった。
けれども、確かに今のアメリアもアメリアなのだが。その笑顔は作り物めいていて、理性と言うには俗物的過ぎるくらいに学ぼうとしているのだ。
気立ての部分もどこか慎重に人を見定めているような。私たち親子に対しても、従業員に対してもそうだ。
妻は何も分からないのだろうか? いや、心が弱ってしまっては見える範囲を絞っては自衛しているのだろう。アメリアの望むままに本や知識を買い与えては、彼女は時間さえあれば睡眠を厭わずに学んでいる。
私は怖くなってしまった。
いや、怖いのだ。
だから、明くる日の夜中に一言注意をしようと彼女の絶対に覗かないようにと言われていた部屋を覗いてしまった。
「な、んだ、これは──」
壁一面に、色んな言語や魔法理論? これは経済学? こっちは料理? 薬草、毒草学? 武術指南? これは禁書指定じゃないのか? 暗殺術、禁術、なんだ、コレは? 誰が買い与えた? いや、妻だ。
あれ、そう言えば。私は妻を見ていたか? 妻? 妻とはいつから会っていない?
「ああ、お父さん【も】見てしまったのですね。残念です」
後ろの背にした扉から娘のアメリアの声がする。
いや、アメリアの声だが。こんな話し方だったか?
「催眠術? でしたっけ、存外、効果が薄いみたいです」
「催眠術……?」
「ああ、でも解けかかっていますね。残念です。お母さん【も】沢山沢山、重ね掛けしてましたが、精神の崩壊が先か、それか生きるのを手放してしまいました」
「な、にを言って……」
「ここのお金と言うのも、もう無くなりそうです。ですが、お陰で沢山、沢山学べました。ありがとう、お父さん。これが大好きという感情でしょうか?」
「待て、な、にを……あぁ」
思い出した。妻は……妻は死んだんだ。目の前のアメリアが最期に喰ったんだ。
私はアメリアに沢山、沢山、買い与えていた。
従業員はもう、外に出してはいない。
うちの商家はもう火の車で、そうだ。
なんで、こんな事を忘れて──忘れ、て?
「あぁ! あぁぁぁぁ!!」
「ああ、壊れちゃった。お父さん【も】壊れちゃいましたね。人間は脆いですね。これも学んだ通りですね。お母さんで女性の身体の構造はある程度、分かりました。お父さん、愛してます。だから、男性の身体の構造を教えて、ください」
「や、やめ、て、く……がァァァ」
ブチュ、グチュ……なるほど。
グチュ…ブチュ…へぇー。違いますね。興味深い。
ありがとう御座いました。
お父さん。
あれ? もう居ないし、お父さんじゃないのかな?
それに生み出した人がお父さんなら、違うことに?
難しいですね。
でも、きっと多角的要素と利便性から、父と母というのは選んでは作るのでしょう。
どうせ、誰も本当は知らないのですから、良いのでしょう。
「後はここを収納して燃やして、街を出ますか」
私は奴隷として売られていた無もなき娘に変身しては裏口から出ては盛大に火魔法で家を燃やす。
大きく大きく出火する家を背後に歩き去っては乗合馬車を見つけては隣街へと旅立つのだった。
そして、ある程度離れたらアメリアの姿に戻る。
長くこの姿で居たら、この姿で落ち着くようになったらしい。
これも不思議なものだ。
あぁ、楽しいな。
「ふふふ」と、私は笑いながら、乗合馬車の乗員と御者、馬、馬車ごと呑み込んでは途中から徒歩で隣街へと歩いていくのだった。
──ご馳走様。




