76.表─珍妙な客。
「……するよ。──は思うかい?」
ん?
普段はこの耳が捉える音は小鳥の囀り程度のものだ。
後は湖の水の揺れる音。
こんなノイズは入る事は無い。
「……な? 聞こえ──う?」
パチッと目を開いたら、人が私を覗き込んでは、どうやら私へと話し掛けて居るようだった。
「おや、目が覚めたかい? おはよう? いや、今はお昼だから、こんにちはかな?」
「お前は、誰だ?」
「良かった! 口が聞けるじゃないか。でも、話すだけで魔力を震わせるなんて、驚きだ」
「……平気なのか?」
「平気? 見ての通りだよ。とっても驚いているよ?」
「いや……」
目の前の女性はケラケラと朗らかに笑っているが可笑しい。
私は基本的には魔力の循環装置みたいな物のはずだ。
話すだけでも魔力を当ててるようなもので、人など直接的に浴びれば狂ってしまうか、弾けてしまっても可笑しくはない。
「むぅ。お主は人では無いのだな?」
「いーや、人だよ」
「人だったならば、また愚かな事をしようとしてるのか? なんだ、世界はそんなにも発展したのか?」
「発展! ああ、やっぱりここまで辿り着いた人類は居たんだね」
「噛み合わないな。違うのか?」
「うーん、どこから話すべきかな? 時間あるかな? あるよね? ずっと眠ってる位だもの」
「失礼な! 我は眠る事しか出来ないのだ。話を聞くのも話し相手が──「ここに居るよ?」む。話の腰を折るな。いや、分かった。話を聞こうではないか」
私が話を聞くと言っては姿勢を整えたのを感じたのだろう。
彼女は言葉の意味は分かるかな? と、聞いて来たので、そこら辺は魔法でどうとでもなると、伝えては「へぇ〜、ならやっぱり私のこのスキルはそういう意味なのかな?」と、呟いては彼女の身の上話をしてくれるのだった。
「なるほど。愚かな人の奇跡がお主と言う訳か」
「まぁ、一言で言うとしたら。そうなっちゃうのかな?」
「それで、何をしにここに来た? 私を殺しにでも来たのか? 人類、ひいては世界への復讐か?」
「なんで、そんな突飛な発想に?! それにこの世界では私は人として生まれたし、何よりも愛すべき娘達、家族が居るんだ。守りはすれど、破壊なんてしないし興味は無いよ」
「そうか、それなら良い。もし、破壊をするというのなら我は神から頂いた世界の調律者として、お主と戦わないといけない所だった」
「そう、それを確かめたかったんだ!」
「ん? 何をだ?」
「神様は居るのかい?」
「ああ、居る。居るはず? と言うのが正しい。私は意思を持ち始めた時に称号を預けられたのだ。と、思う。それが世界の調律者だ。お主の真理を見通す目では鑑定? だったかな、出来るのではないか?」
「──確かに」
「実際の接触は無い。この称号を与えられる頃には我は世界の浄化を始めていては授かったのは、その前後だと思う。それから私はこうやって生きている」
「孤独に、ね」
「そう、孤独……何を言わせる!?」
「はは、事実じゃないか。でも、そっか。少しだけ分かったよ。多分、自分への折り合いがついたのかも知れない」
「ふっ、それは良かったな?」
「うん、良かった。それだったら、私もその世界の為に生きてみるのも良いかも知れないね。そして、色々と巡っては君にその旅の話をする事にしよう。寂しいだろうし、私からのお礼として」
「ん? いや、別に我は……」
「ははは、いつか。私の従魔にハイウルフになった子が居るんだ。いつか、本当にいつかフェンリルにでもなったら、ここに来ても大丈夫だと思うから、話し相手も増えるはずだよ」
「──礼は言わんぞ」
「了解」と、そいつは嬉しそうにクツクツと笑って済ます。
「なら、また来るよ。今日はここら辺で」
「もう、行ってしまうのか?」
「来るまでに時間掛けながら来ちゃったからね。戻ったら1年と少しかな? あの子たちの成長は私の今のお気に入りだから、ね。色々とここに来るまでにも人助けみたいな事をしちゃっては気になる子も増えちゃったけれども。そういうのも悪く無いんだ」
「大罪スキルだったか? それはお主だけの罪では無いだろうに」
「ふふ。私がそうしたいから、それで良いんだよ。じゃあ、またね」
「ああ、またな」
我が声を掛ける時にはスッとそいつ──アメリアは立ち去って行ってしまった。
我には名前が無い。
名付けは契約の一歩手前になってしまうし、それは出来ないだろうしな。
人とは難儀なものだ。
そして、世界のルールもだ。
っと、言っても世界を私は知っている訳では無い。
正直、この浄化作業も我が気になって仕方ないから始めたようなものだと思う。
何となく、この世界が好きなのだ。
「チチチ──」と、小鳥の囀りがまた戻ってきたのを確認しては我は眠りを再開することにする。
小鳥だと思う、この子達も小鳥とはまた違うのだろう。
この清浄なマナの下に生まれては生きている存在だから。
あぁ、それにしても今日は良き日だと思う。
これは夢が見れそうな気がするな。
そんな気分で我はまた夢へと落ちていくのだった。




