72.表─選択。
「ねぇ、アメリア? そろそろ、教えて貰いたいんだけれども」
「んー?」
「アメリアさん、呆けても駄目ですよ」
「いやいや」
「教えて欲しいです」
「そうだよね。そろそろ、王城にも呼ばれちゃいそうだものね。話さないとか」
「はぁ…」とアメリアは深い溜め息を吐いては私たちを見返してくる。
やっと折れてくれたかと私は思う。
ここ最近は、卒業したとあって、学校に行く必要も無いから自宅に居るのだけれども、毎日こうやってアメリアを問い詰めるのが日課になりつつあった。
アメリアからも暫く落ち着くまでは外出しないようにと言われてしまうと、尚更気になるし、聞いてくれと言ってきてるようなものだと私達は思ってしまっていた。
「どこから話すべきかな。いや、どこからでも話さないと、これから選択させるのだもの。不義理なのは親心としてもいけないよね」
そう、前置きを置いてからアメリアは話してくれた。
内容としては3年目の人工ダンジョンの訓練の頃からだ。
話の中心はセリアだった。
王家と貴族の対応、暗部の話。難しい部分もあったけれども、私達に分かりやすくするように噛み砕いて話してくれていたと思う。
「それで、今回の卒業式の際の強行に出たって形かな。まぁ、暗部を動かしたのは一部の高位貴族だと思うけれども」
「アメリアはそれを察知していたの?」
「そうだね。常にアンテナを張って動いていたからね」
「アンテナ…?」
「ああ。うん、マナを張ってかな?」
そっか、アンテナは分からないよね。
と、頷いているアメリアが目の前に居るがまだ話の要点は私には分からなかった。
「それで、アメリアはどうしたいの?」
「そうですね。私もそこが知りたいです」
「私のせいなの?」
「それは違うよ。ハッキリというと、周りが愚かなだけさ。私の娘に手を出そうとしたのがいけない」
「アメリアさん…」と、セリアは泣き出してしまうがアメリアはジッとセリアを見つめては「では、選択の話をしようか」と、セリアが私達の目を見れるようになった頃に切り出した。
「私の選択は、今回の褒賞をセリアに譲渡しようと思っているよ」
「え?」
「アメリアそれってどういう事?」
セリアは疑問符を上げているし、私も分からない。
「セリア。君は貴族になる気は無いかい? そして、ステラとリコ。君達はセリアの従者にならないかい? 与えられる土地は、直轄領になってしまうけれども、冒険者の街レイストの一部を戴く形で。完全に王家と切り離すのも不味いからね」
「アメリアさんはそれを、シナリオをいつから書いてたのですか?」
「シナリオか。そうだね。シナリオだ。リコの言う通り、人工ダンジョンら辺と。後は君達が成人を迎えるに連れてかな。私は残念な事に君達とは時間の進みが違うから。いつかは離れ離れしないといけないから、少しでも安心出来るように、ね」
「え? 離れ離れってどうして? 何を言っているの? アメリア?」
「ステラ。もう、君は私より身長も高くなってしまってるんだよ? ふふ、あの頃より身体は立派に成長して美しくなった。私はこれからも変わらないからね。見守りはするし、したいけれども一緒には居られないんだよ」
「そんな…」アメリアの固い決意は長く居るから伝わってしまった。
それにアメリアとの出会いから、いつかは私もそんな日が来るのではと予感をしていたのだろう。
アメリアの言葉は私に大きな疑問を呼ぶ事も無かった。
「アメリアさん。それしか道は無いのですか?」
「無いというよりも、それが安全かな。落とし所と言った方が良いかも知れない。彼らにも時間という猶予も遂に無くなったからね。独立して貰いつつ、それでも王家としても管理をしやすい立場や領地を与える事が彼らには【安心】に繋がるんだ。自分達で想像出来る範囲の物事には、人は寛容になるからね。それに冒険者の街レイストは更に住民が寛容だ。色んな変化に常に晒されているし、そんな人達が集まっているからね。ステラとリコの遊び場みたいなものだ。2人の未来の選択肢も増やしたいというのも、セリアの将来を切り開きたいというのも全て本当だよ」
「アメリアさんはどうするのですか?」
「私? 私は、そうだね。実はそろそろ尋ねてみたい所があってね」
「そんな所あるのアメリア? どこ? 一緒に行く?」
「う~ん、ふふ。着いて来れるとしてもウル位かな? 聞いたことは無いかい? 世界の中心とか言われてる山の頂の話」
「古龍の寝床の話ですか?」
「そう、リコちゃんは博識だね。そこに行ってみたくて、ね」
「でも、あそこは人類が行ける所じゃ無いって聞いています」
「うーん、うん。そうだね。私は人だけれども、人じゃないのかも、ね」
「それはどういう…」
「ふふ」と、少しだけ寂しそうにアメリアは笑みを零しては私たちの頭を撫でて誤魔化されてしまった。
「出来れば、私の願いを聞き届けて貰いたいかな?」
「…はい。分かりました」
「ごめんね。もっと、色んな選択肢を与えたかったけれども、私にはこれが精一杯だったかな」
「そんな事は…!」
そう言って、セリアちゃんをアメリアはギュッと抱きしめていた。
「ステラとリコも良ければ、セリアを守って貰いたい。私も暫くは見守るから」
「アメリアさんはズルいです」
「そうだよ! セリアちゃんは私たちの家族だもん。そんな決まった事…」
「よしよし、良い子だ」
私達もそのままアメリアに抱き締められる。
でも、確かに私達は成長したんだとその時大きく実感したのは本当だった。
あんなに大きく見えていたアメリアの背中も今は小柄に見えるし、抱き締め返す私達の方が大きく見えるくらいだったのだから。
「ウルも暫くは見守っていてくれるかな?」
「ウォン!」と、理解したようにウルは応えているが、ウルはアメリアと話せるから理解も、もしかしたら、この話自体を既に知っていたのかも知れない。
その日は、今までで一番長く一緒に湯船に一緒に浸かってはタップリと一緒に横になって、明日のお昼に差し掛かる頃には騎士団の方達が訪問しては王城への褒賞の為の登城願いを告げに来るのだった。




