65.私─王都の闇②
「うんうん、良い判断」
遠目から普通は見守るのだと思うのだけれども。
私は間近から見守っていた。
まぁ、私を認識するのは難しいだろう。
それでも、ウルには従魔契約の影響から気付かれてしまっていたから。
「内緒にね」
(分かった!)
うんうん、このパスも便利だと思う。
それにウルがとても偉いのも大きいと思う。
私の事を内緒にして貰い、且つしっかりと保護してくれてるのだから。後で、色々と美味しいのを見繕ってあげようと私はその時点で決めていた。
「さて、それでお呼ばれされていないお客様達だね…」
あぁ、本当に碌でも無い。
ずっと人の素晴らしさばかりを感じていたから、すっかり人には暗い部分もあるのを忘れていたよ。
「どうだ?」
「セリア王女は我らに気付いてはいません」
「いつ、仕掛ける?」
「今は目立つ。夜に決行する」
まぁ、私には気付かれているし。
私のほうが隠密のスキルも高いというよりも、私のスキルは沢山の犠牲の上に成り立っているからね。
そこら辺の人には追いつくはずも無いか。
「それにしても、やっぱりそういう舵を切ってしまったんだね」
残念だとは思う。後は愚かだとも。
けれども、文明レベルや文化を察すると、そういう判断に落ち着いてしまうのも分かってしまうのも悲しい私が居た。
人を知りたかったけれども、こんな側面までは知りたくなかったとは言えないけれどもね。
どうやら、王家の判断はセリアにとっては最悪の判断をされたようだ。
それにここまで動いているのだ。各貴族の判断も察せるというものだ。
「隊長。時間です」
「あぁ」
「付き添いに居る者達はどうしますか?」
「我らの存在を知られる訳にはいかない。可能性の芽は摘むべきだ」
「了解しました」
「いやいや、了解されては困るんだよね?」
「「?!」」
勘弁して貰いたい。
そして、君たちは私の地雷を綺麗に踏み抜いたらしい。
私の中でドクンっと音が聞こえた気がした。
あぁ、コレは不愉快になってるんだと。どこか遠くから私を私自身が俯瞰しては見ている気になってしまう。
「なにやつ?!」
「どうも。いや、そっか見えないのか。これでもだいぶ、分かるようにした気がしたけれども。私の事、ボヤけて見えるかい?」
「ッ!」
「隊長! どうしますか?!」
「ここは私が処理する。お前達は仕事をしろ!」
「わかりまし──」ズルっと、音を立てて、1人の暗殺者の首がそのまま綺麗に落ちるのは一瞬だった。
「嫌だね。本当に嫌だ。ねぇ? 私は人の事が好きだし、愛してるし、何よりも私自身が人になったんだ。そして、人の事を本当に真の意味で理解したと思う。その上で私は少しばかりの希望を信じてみたかったんだ。彼らにも親の愛があるんじゃないかって、無いのかい?」
「こいつッ! それにその言葉は王を侮辱するか?!」
「ははっ。何を言うんだい? 王じゃないよ。親を侮辱してるんだよ。本当に分からないのかい?」
「ッ! 忌み子など、消えるのが順当! 我らはその使命を果たすのみ! むしろ、その愚かな罪をここまで育てた功績こそ、褒められるべき!」
「残念だね」
「隊長! ここはお願いします! 我らが先行します──ッ」
「ああ、先に逝ってくれたまえ。私は既に、愚かな判断をした君たちを許す気は無いよ」
そう言いながら、私は久し振りに人の命を刈り取っていく。
シュポンッと心地よい音が鳴る。
あぁ、あの世界の王都の冒険者ギルドで首から華を咲かせた時を連想させてしまう。
あの時は綺麗だとも思ったが、そんな事は無い。
これはただの罪の華だ。
愚かな私と彼らの咲いてしまった罪だ。
「お前ぇぇぇ!!」
「すまないね。もう、人の命は粗末にしないで、大切にしたいと思っているのに。どうやら、上手くは生きれないようで。でも、代わりに私は愛したい者をもっと愛せるようにするようにするよ。きっと、全てを叶えるのは人の身には難しいと私は思うんだ」
「ば、化け物──」
ズルっと、周囲の生命が散っていく。
いや、散らしているのは私だ。
音は聞こえない。
隠蔽の効果で、ここら一帯は既に別世界なものだ。
「隊長さん。君が最後だよ? 他にも来ているのかい? ……うん、居るみたいだね」
「?!」
「分かるんだよ。そういうスキルもあるし、後は君の目の瞳孔の開きや汗、心拍、色んな要素からも分かってしまうんだ。いや、一番分かってしまうのがあるんだ。本当は嫌なんだけれどもね。これは私の大罪の証しだから」
「な、何を言っている? わ、私は──この国の為にッ!」
「そうだね。うん、上手くやって来たと思うよ。本当に、ね。でも、君たちは踏み抜いてしまったんだよ。彼女。いや、彼女達はもう私の大切な【家族】なんだ。娘は大切だろう? 私は彼女達の保護者だから、ね」
「お、お前! お前はッ!!」
「ああ。そうだよ、分かったのかな? でも、もうお休み。後は私が見てあげる」
「く、来るな──!」
「サヨウナラ」
バクンッと大罪スキルの暴食が発動する。
──幾ばくかの経験値とスキルを獲得しました。
強欲が発動する。
──経験値とスキルを獲得しました。
傲慢が発動する。
──修正。
──対象の記憶、経験、スキル、求める全てを獲得します。
「この声は聴きたく無かったかな」
この声、私が生きている限り大罪スキルは蓄積されてしまうのは人として当たり前の事で。
ある程度、傲慢のスキルが育った際に聴こえるようになってしまった。
いや、元々スキルという存在や魔力というマナがあるんだ。
誰かがデザインしているのは察していたから、私はすんなりと受け入れられていた。
その上で、私は人として生を得られたのだから。
それを全うしようと改めて決めたのだ。
「あぁ、なるほど。王は愚かな選択をしたが、それは私達にとっては愚かな選択なのだろう。そして、各貴族の派閥も賛成か」
暗殺者の持っていた記憶は私にはほとんど知りたい全てを教えてくれていた。
「さて、証拠は残さないのが暗殺の流儀だったかな? なら、私もそれに倣わないとね」
そして、そのまま暴食を使って、周囲の暗殺者の屍を綺麗に片付けては痕跡を消していく。
──各種、大罪スキルが上がりました。
「著しく上がるものだね」
スキルが育つのは良い事だと、普通は思うけれども。
私にとっては、この大罪スキルを育ってしまうのは何とも言えないものだ。
いや、違うかな。
罪を知ることで美徳を知ることが出来るのだろう。
それに悪くはない。
その手段が有るからこそ、守れる者があるのだから。
「ウルもお休み。こっちは大丈夫だよ」
(うん)
遠くから、私の気配を見ていたのだろう。
ウルの心配する機敏を感じていたけれども、私が応えると安心したのか、眠りに就くようだった。
「さて、私も眠るかな。後は明日の訓練を見守ったら帰ろう」
丁度良い感じの木の枝達を見つけたので、そこで寝床を作っては、私は身体を預けては眠りに就く。
そして、眠りながらも食べてしまった彼らの記憶や経験を整理する作業に入るのだった。




