60.表─クラスでのお友達。
「……」
その子が気になったのは、早くも遅くも直ぐだと思った。
ううん、早くに気付いて。何となく放って置けなくて、私から声を掛けていたと言うのが正しいのかも。
一瞬、リコちゃんが「!」と驚いたような仕草をしていたけれども、少しだけ「仕方ないなぁ」と、いう雰囲気を醸し出しては私を追い掛けて来てくれていた。
まぁ、私もその子の表情が何だか寂しそうで。
後は「昔の境遇に絶望してそうな」そんな表情の片鱗を感じ取っちゃって、自然と動いてしまっていたという所もあったのは秘密だろう。
「!」
私が、近付いて行くと。周囲は「え、近寄るの?」という表情でコッチを窺ってるような雰囲気もあるし、その当人の同い年だろう女の子も少しだけ目を見開いては驚いてるような表情で私を──後ろから追い掛けて来てくれていたリコちゃんも含めて見ていた。
「おはよう!」
「えっ? えっ? えっと、あの…おはようございます?」
「ん? あれ、朝だよね?」
「はい、そうですが…」と目の前の【真っ白】の女の子が受け答えした通り、今は朝だ。
「アメリアちゃん…」と、私に追いついたリコちゃんも、少しだけ心無しか残念な子を見るような目で私を見ている気がする。
「あの、私に話し掛けても大丈夫?」
「なんで?」
「え? なんでって、えっと…」と、目の前の女の子がアワアワしつつ話し掛けて来たので、質問を疑問で返したら、返答に窮したらしく困り顔になってしまった。
「んー? どういうこと? リコちゃん分かる?」
「まぁ、うん。多少は、ね?」
「へぇ〜! 私は分からないや。後で教えてよ! あっ、席はこのまま隣で私達座っても良いかな?」
「あ、はい? えっと、はい…」と、真っ白の女の子も同意してくれたと判断して私達は座って、そのまま講義を受ける事にする。
「おはようございます〜。皆様、思い思いに着席してますか〜? ……えっと? えっと、まぁ。皆様、このクラスに入れておめでとう御座います! 色々とカリキュラムが有りますが、午前は座学に午後は選択式で魔法か武を選べます。どちらも受ける際は補習扱いで臨時で週の後半に受けれますので、確認は各々お願いしますね? えっと、では! 始めは自己紹介からやりましょう〜!」
と、クラスに入ってきた。先生は一瞬、私達のスペースを見たら、困惑したような顔が印象的だったが。気を取り直したのか、そのまま自己紹介の時間に入っては私達の学校生活は始まったのだった。
「……お姫様だったの?! へぇ、それで皆緊張して来ないってこと?」
「えっと…そうじゃなくて…」
「ん〜?」
「ステラちゃん。真っ白お姫様って話は聞いたこと無いの? あっ、セリアちゃんごめんね」
「あっ。お、お構いなく…」と、少しだけ目の前のセリアちゃんは俯いてしまう。
「余り、良い話じゃないの?」
「う~ん。えっと? この国の王家の方々って黒髪で、どちらかというと肌も黄赤色でしょ?」
「う~ん。うん、そんな話はアメリアから聞いたことあるね」
「だから、その…。セリアちゃんは、王家の歴史の中でも真っ白で産まれて来たから、忌み子って言われちゃってて……」
「ッ」って、少しだけ苦しそうに表情を歪ませるセリアが目の前に映るけれども。
「ん~? そんなに変なこと? 確か、アメリアは遺伝子? とかの話をしてくれた気がしたけれども、本当に王家の歴史で部分的にも真っ白だった人とか居ないのかな? って、アメリアは言ってた気がするけれども?」
「ステラちゃん、遺伝子って何?」
「う~ん。私も、そこら辺は難しくて分からないかも。アメリアは色々と知ってるから、でも別にそれでセリアちゃんが変とかはおかしいと思うけれど?」
「うっ、うっ……」
「って、セリアちゃん?! どうしたの!? 泣いてるけれど?!」って、リコちゃんの方を向いて話していたら、セリアちゃんの方から何とも苦しそうな声が聞こえては見てみると涙を堪えるように大粒の涙を流していて、私は焦ってしまった。
「だ、だって…」
「す、ステラちゃん…!」
「え〜と、えー? もう、ご飯途中なのに!」食堂で軽く話そうとか、考えが浅かった私が悪かったのだと自省する事にする。
でも、この位の時間しかちゃんと時間も取れないのも事実なのだ。
周りが私達を見てザワザワしてるのを感じつつも、後少しだけ残ってるご飯が名残りおしつつも、本当に名残りおしつつも。私とリコちゃんは…って、リコちゃん、ちゃんと食べきってる! そして、セリアちゃんも?!
あ~、私だけ我慢かぁ。
と、開き直りつつ。隣に居たウルは大人しくペロリと食べきっていた。
うん、私だけだ。
「はぁ」と溜め息1つ。
「セリアちゃんも行こっか! ほら、中庭のベンチとか!」とか、セリアちゃんもお誘い。ならぬ、返事も聞いていないからこれは連行とか言うのかな?!
私ながら大胆だと思うけれども、連れ出しに成功していた。
「わた、しッ! こんなに優しくされ、たの、初めて…でッ!」
あ~、うん。
感情が崩壊してしまったらしい。
確かに、貴族? 様というより、それ以上に王家の方なのに、付き人が居ないのも。その言葉に信憑性を持たせるのは悲しくも確かだった。
「ね、ねぇ? 付き人さんは?」
「そんなの居ないッ! わたし、わた、しっ…一人ぼっちで、でッ!」
「ステラちゃん…」
いやいや、そんな。どうしてくれるの? みたいな目で私を見ないで?!
セリアちゃんの闇がその、深かったみたいで。
むしろ、気にしないように気にしないようにって塞ぎ込んでたみたいで。
「クゥン……」と、ウルが涙や鼻水で毛並みがベタベタになってしまって、とっても沈んだ表情になってるのが、ゴメンねってなったけれども。
アニマルセラピーは凄いらしい。
ウルの毛並みに包まれていたら、だいぶセリアちゃんは落ち着いたみたいだった。
「お、落ち着いた?」
「う、うん。ごめんなさい、私…こんな気持ち初めてで…」
ズビッと鼻水を啜ったけれども、残念なことに少しだけウルの毛並みに埋もれてしまっていた。
「クゥン…」
「あっ。ご、ごめんなさい! えっと、名前は…「ウルだよ!」う、ウルちゃん?」
「ウォン!」って!
尻尾で大丈夫だよ! と言うようにセリアちゃんの背中を撫でるように器用に動かすと「まぁ、言葉が分かるみたい?」と、セリアちゃんを驚かすのに成功していた。
「へぇ~。って、そうなるとお姫様なのに、1人で生活してるの?! 付き人も居なくて?!」
「す、ステラちゃん! こ、声! お、大きいよ!」
「あっ! ごめん! びっくりしちゃって…」
「私、王家には居場所が無いですから…。一応、義務というか、体裁を保つために学校も入れてくれただけだから…この後はどうなっちゃうか、分からないし──」
「セリアちゃん…」と、リコちゃんも複雑な表情を見せてしまう。
「う~ん、家に遊びに来る? あれ? お泊まりとかってダメなんだっけ?」
「確か、保護者の同意というか片方でも申請が必須だったはず?」
「うん! なら、アメリアに頼んでみようよ! セリアちゃん、お家来る?」
「え? 良いのですか…?」
「うんうん! きっと、アメリアも許してくれるはずだよ!」と、私には根拠は無いけれども。許してくれるアメリアの顔が容易に浮かんでいた。
「お邪魔じゃない? 迷惑かからない?」
「もう、そうじゃなくて。セリアちゃんがどうしたいかだよ?」
「わ、私は…一人は嫌だ」
「なら、おいでよ!」
「うん。そうですね。どうぞ、おいで下さい」
「…ありがとう」と、言葉を零しながら、セリアちゃんは最後にもう1滴涙を流すのだった。
その後は午後の講義はセリアちゃんは魔法を選択していたので、一緒に受けては初めての【お持ち帰り】を決行する私達が居たのだった。




