6.裏─戻らない護衛の2人。
護衛2人が戻ってこない。
普通はそんな事はよくある事。
そう、良くある事なのだ。
でも、長い時間戻ってこない事は無い。
だから、私はとても怖い気持ちになっていた。
護衛2人は言っていた。
「狼の、ウルフの群れの凄い声が聞こえた」と、だから、一時的に離れては様子を見てくると。
「心配はない、直ぐに戻る」とも言っていた。
そうだ、ウルフは人間から見たら、確かに獰猛だが初心者冒険者でも狩りの対象になるくらいの強さだと伝え聞いている。
御者もその認識だったのだろう。
でも、私たちにもウルフ達の度重なる声と、その後に訪れた静寂と、一向に戻らない護衛の2人と、状況が状況でとても、とても怖くなっていた。
ガサガサ──。
「あっ! 戻って、来た……のね?」
アレ? 1人だけ? それに何か変だ。
「1人? あぁ、1人。1人だよ」
「どうしたんですかい? 護衛の旦那? 何か口調がおかしいですぜ?」
私の違和感をこの御者は躊躇いも無く聞いていた。
いや、違う。手足が震えていた。
怖くて怖くて、聞いてしまったのだ。
恐怖が理性を殺してしまったんだ。
「あー、あー。アレ? おかしいか? おかしいかい? いや、違うな。おかしかったか? あぁ、こういう記憶か」
「何を、言って、いる……の?」
「お嬢様、逃げますよ! な、何か変です! こら! お前達! 走れ! 走ってくれ! た、たのむ!」
バシッ! バシッ! と、御者は慌ててムチを馬に入れるが、馬は震えては動かない。
「どうしたんだ? 俺だ。オレだぞ?」
「あ、あ……」
「あー、人は疑うとダメ、なのか。面倒な生き物だ」
グチャ──と、音がしたと思ったら御者の頭に華が咲いていた。そう、私が少し苦手なトマトが握り潰されたような……「ゲェェェ」私は吐いていた。
そして、手足が急速に震えてはガタガタと音を立てては震えていた。
「あ、あ……」
目の前で御者が喰われている。
そう、喰われている。
黒いナニカに全部を喰われて、そして、闇夜と紛れて暗闇が輪郭を取っては御者がそこに居た。
「どうしたんですかい? お嬢様? あぁ、馬が煩いのですね。分かってます。お待ち下さい」
バキュ、バキュと小気味の良い音が2回鳴っては2頭の馬の頭に華が咲いてはその胴体は倒れる前にブチュブチュと暗闇に呑み込まれていた。
「あぁ、あっしはお腹いっぱい何ですが。人間は生き残りが居ると危ないと教えてくれてるんです。あぁ、あっしがあっしに教えてくれて──私がそう、学んだのです」
「あ、あく、ま──」
バキュっと、耳に小気味の良い音が鳴った気がした。
でも、私の意識はとっくに途切れていたのだと思う。
私はもうその時既に──。
「ああ、人間は複雑なんですね。でも、この少女の姿は使える。人は、女子供には弱いと記憶が有ります。なるほど、これは良い。利便性の問題ですね」
あぁ、お腹がいっぱいだ。
──幾らかの経験値、スキルを得ました。
アイテムボックス。
異空間、亜空間を利用する魔法。
概念は分からない。
使える。
私は捕食と同じく、収容も呑み込んではしていく。
パッと、少女の持っていた私物を彼女から奪ったアイテムボックスの中身から取り出しては着替える。
人は着替えるのが当たり前。
身だしなみは大切と記憶が言っている。
私は大きく学んだ。
先程の護衛と言われる存在は剣と弓を持っていた。
この近くに街がある。
私は街へ向けて歩き始めたのだった。
後には何も残っていない。
静寂だけがそこにあった。




